ベクトル  後編


車を回してロイを後部座席に乗せると、ドアを閉める前にハボックは言った。
「なるべく静かに走らせますけど、何かあったらすぐ言って下さいね。」
小さく頷くロイを見てハボックはドアをそっと閉めると運転席に回ってハンドルを握った。ゆっくりと静かに車を走らせ
ながら時折ルームミラーでロイの様子を窺う。力なくシートに座り込んだロイはそれでも窓の外を流れる景色に
視線を向けていた。その小さな白い顔を見て、ハボックは胸が痛んだ。ロイが倒れたのは間違いなく自分の所為だろう。
ロイへの気持ちを自覚すればするほど手酷く扱うのを止められない。気を失って横たわるロイに何度詫びたか判らない。
ロイに触れれば触れるほどロイの気持ちが見えなくなって、その不安をかき消すようにロイを手酷く扱う自分に反吐が
出そうだ。だが。
もう、終わりにしなければいけないのだろうとハボックは思う。きっとこのままではいつか自分はロイを殺してしまうだろう。
誰にも渡したくなくて自分だけのものにしたくて、殺してしまうに違いない。その甘美なまでの誘惑にいつまで逆らえるか
正直言ってハボックにはもう自信がなかった。

家に着いてハボックはロイを寝室に連れてくると服を脱がせて横にならせた。腕をさすり、脚に触れて骨折などして
いないか調べていく。酷いのは肩の打撲だけだとわかるとハボックは小さく息を吐いた。
「頭、どこか痛いとかありませんか?眩暈がするとか吐き気がするとか…。」
「なんともない。大体頭なんて打ってない。」
そう言い切るロイにハボックはため息を漏らす。
「とにかく、ちょっとでもおかしいことがあったらすぐに言ってくださいよ。中尉にも約束したんスから。」
「判っている。」
頷くロイの体にブランケットをかけてやるとハボックは立ち上がって部屋の電気を消した。
「とにかく、少し眠ってください。オレは隣の部屋にいますから。何かあったら呼んで―――」
そう言うハボックの腕をロイの手が掴んだ。
「私を抱け、ハボック。」
そう言ってハボックの腕を引くロイの手を振りほどいてハボックは叫んだ。
「何言ってるんスかっ、アンタ!今、この状態でアンタを抱けるわけないでしょうっ!」
ハボックの心を黒いものが覆い尽くしていく。
「大体、アンタ、なんでオレに抱かれてんです?オレなんかと寝たって何の得にもならないでしょう?」
何も言わずに自分を見上げてくるロイにハボックは苛々としながら叫んだ。
「オレなんかを相手にするより、いつものように将軍達とヤッたらどうです?そうしたらまた1つ階級が上がるかも
 しれませんよ。」
ハボックの言葉にロイは目を瞠った。ゆっくりとベッドの上に身を起こしてハボックを見つめる。
「私が出世のために体を売っていると、そう言いたいのか?」
「違うんスか?オレを誘ったのは気紛れ?それともモテない男への哀れみですか?」
「何を…」
「オレはアンタを好きだけどっ、アンタがオレをアンタを抱きたいだけのヤツらと同じように見られるのはもう、イヤだっ」
堰を切ったように喋りだすハボックをロイは呆然と見つめていた。
「そりゃ、最初に誘いに乗ったのはオレだけど、でも、もうイヤだっっ!アンタが好きだ、好きなんスよっ!でも、
 アンタにとっちゃオレは他のヤツらと同じなんでしょう?アンタが他のヤツらにもおんなじように抱かれてるんだと
 思ったらオレは…っ!…もう、ヤだよ。このままじゃオレ、きっとアンタを殺しちまう。誰よりもアンタを守りたいのに
 誰よりもアンタを好きなのに、自分だけのものにしたくていつかきっと殺しちまうから…っ。」
ハボックはロイの目を見つめると言った。
「オレはアンタの側にいちゃいけないんスよ。もうこれ以上側にいたら…。」
その時、ロイの手がハボックの手を掴んだ。そして自分の首にハボックの指を添えさせる。
「殺せばいい。」
嫣然と微笑んで言うロイにハボックは目を瞠った。
「ほんの少し力を入れたらすぐだ。お前になら殺されてもかまわない。」
さあ、と囁くロイの黒い瞳に誘われるままにハボックは指先に力を込めていった。苦しげに顔を歪ませながら、それでも
ロイは抵抗することもなくじっとハボックを見つめ続ける。ひゅっとロイの喉がなった瞬間、ロイの瞳からぽろりと涙が
零れ落ちた。
「っ!!」
咄嗟にハボックが手を離したと同時に、ロイの肺に空気がなだれ込む。げほげほとハボックの腕に縋りついて咳き込む
ロイの背をハボックはかき抱いた。
「あ、あ、あ…」
ぼろぼろと涙を零しながらハボックはロイに口付ける。息苦しさにもがくロイの体を抱きしめてハボックは囁いた。
「すきだ…すきだ…すき…」
ハボックはロイを押し倒すと何度も何度も口付けた。呪文のように好きだと囁き続けるその声に、ロイの想いも溶け
出していく。ロイはハボックの背を抱きしめると呟いた。
「私もお前が好きだ…」
ロイの言葉にハボックが目を見開く。
「ずっと好きだった。だから誘った。抱いて欲しかった。私が抱かれたのはお前だけだ。他のヤツらとどうこうだなんて、
 ましてや出世のために身を差し出したことなんてない。」
ロイはハボックの青い瞳を真っ直ぐに見つめると言った。
「お前だけだ…お前だけ…」
その綺麗な黒い瞳を見つめると、ハボックは顔を歪めてロイの胸元に顔を埋めた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
何度も呟いてロイの体を抱きしめる。噂に惑わされて本当のことを見失っていた自分が許せなかった。最初にロイを
抱いたあの時に素直に気持ちを伝えていたなら、こんなことにはならなかったに違いない。ハボックはロイの髪を
かき上げると囁いた。
「今からでも間に合う?アンタを傷つけた時間を取り戻せますか?」
綺麗な青い瞳を見上げてロイは微笑むとハボックへ唇を寄せた。

これまではただ強引に押し開いて快楽を引きずり出し、欲望を叩きつけるだけだったロイの体に、ハボックは丁寧に
愛撫を加えていく。今までの行為を全て塗り替えようとするかのように、1つずつ刻まれていく快感にロイは体を
震わせた。
「あっ」
乳首を甘く噛まれてロイの唇から声が零れる。乱暴にこね回されることしかされたことのなかったソコは、優しい刺激
に今までにない快感を生み出していた。
「あっああっ」
じん、と広がっていく快感に下肢に熱が籠っていく。ロイは初めて感じるそれにどうしてよいか判らず、ふるふると首を
振った。
「も、ヤダ…っ」
ツライ、と訴えるロイに微笑むと、ハボックはロイの脚を開かせた。とろとろと蜜を零しながらそそり立つロイの中心に
唇を寄せるとじゅぶじゅぶと擦りあげた。
「んっ…んんっ」
ロイはハボックの金髪に指を絡ませると息を弾ませた。舌先で棹を舐め上げられ、先端の穴をぐりぐりと押し広げられる。
急激に高まってくる射精感にロイは身を強張らせた。
「あっあっ…あああっっ」
びくびくと体を震わせながらロイはハボックの口中へと熱を吐き出す。ハボックはロイが出したものを全て飲み込むと
体をずらせてロイに口付けた。
「たいさ…」
そう囁いてロイの体をそっと抱きしめる。そのままそれ以上のことをしようとしないハボックの腕をロイは引いた。
「ハボ…」
「出来ません…」
そう言うハボックにロイの瞳が曇る。
「だって、ツライでしょ。オレ、酷い抱き方ばっかりしてきたから。だから今日はしません。」
「イヤだ。」
ハボックの言葉にロイが即座に反対する。
「イヤだ、私はお前と一つになりたい。」
「ダメっスよ。もうこれ以上、アンタを傷つけたくないんです。」
「…まだ疑っているのか、私が他の男と――」
「そうじゃないっ!」
悲しそうに呟くロイの言葉をハボックは慌てて否定した。揺れる黒い瞳にハボックはため息を零す。
「辛かったら言ってくださいね?もっとも始めちまったら手加減する余裕なんてなくなる気がしますけど…」
ハボックはそう言うとロイの脚を開かせてその奥まった蕾へ舌を這わせた。腫れの残るソコを丁寧に濡らしていく。
ぴちゃぴちゃと這い回る舌にロイは喘ぎ声を零した。何度も肌を合わせていながら初めて聞くロイの濡れた声に
ハボックの熱が高まっていく。しっとりと濡れたソコにハボックは指を1本差し入れた。びくりと跳ねる体を宥めように
ロイの中心に舌を這わせる。くちゅりとかき回しながら丁寧に解していくとハボックは沈める指の数を増やしていった。
前と後ろを同時に責めたてられて、ロイは苦しくてシーツを握り締める。ハボックが沈めた指を引き抜いたその衝撃
だけでロイは熱を放ってしまう。あっけなく達してしまったことでロイは羞恥に顔を染めた。
「たいさ、かわいい…」
そう囁かれて、ロイはますます顔を赤らめてぎゅっと目を閉じる。ハボックはそんなロイの髪をかき上げると言った。
「目、開けて。オレのこと見てて。」
いつも抱かれている間中、目を引き瞑ったままのロイを今日はそんな風にさせたくなくて、ハボックは囁く。その声に
導かれるようにロイの目がゆっくりと開いた。そこには優しく見下ろす青い瞳があって。ロイは綺麗なその青に泣き出し
たくなった。
「挿れますよ…」
熱い塊りが奥まった場所に触れてロイは思わず目を閉じる。
「たいさ、目を閉じちゃダメです…」
ハボックの声にロイは必死に目を開いた。ぐっと押し入ってくるハボック自身にロイは浅く呼吸を繰り返して受け入れ
ようとする。その様子にハボックの心を温かいものが満たしていった。ずぶりと根元まで埋め込むとハボックはロイの
顔を撫で回して落ち着けようとする。ロイはハボックの背をかき抱くと裸の胸を合わせるように引き寄せた。
どくどくと、高まる鼓動が互いの胸を通して伝わってくる。ハボックはその音にうっとりと微笑むとロイの脚を抱え上げた。
そうしてゆっくりと抽送を始める。最初はゆっくりだったそれが段々と激しくなり、水音が響き渡る。ロイの唇から零れる
熱い吐息に引き寄せられるようにハボックはロイのそれに唇を重ねた。これまで感じたことのなかった凄まじい快感に
その身を支配されて、ロイはあられもない声を上げ続けた。
「あっあんっ…んっんあっ…」
「たいさ…」
「あっ…ハボっ…」
「すき…だいすき…」
「あああっあっあっ」
目の前が真っ赤に染まり、何もわからなくなっていく。自分の身のうちを穿つハボックの熱だけが全てとなり、後はもう
なにもかもが消え去っていった。
「ああっハボっ…あああああっっ」
最奥をハボックの熱で焼かれながら、ロイは自らも熱を吐き出していった。

もっとと強請るロイを「今日が最後ではないのだから」と宥めて、ハボックはロイの体をそっと抱きしめた。その唇に
何度も何度もキスを落とす。ずっとずっと好きだったその人を互いにその腕に抱きしめて二人は穏やかな眠りに落ちて
いった。


2006/9/26


拍手リク「両想いなのに擦れ違いなハボロイが読みたいです。ハボを手に入れたいけ ど自分から好きとか言えなくて、手っ取り早く既成事実を作ろうと
決死の覚悟でハボをその気にさせるロイと、そんなロイを見てロイに関する噂(上層部と寝てるとか云々)を思い出すハボ。ハボはそれを信じてなかったけど
そんなロイを見て噂は本当だったのかと愕然…。結局その日からお互いの気持ちを打ち明けることなく身体の関係は続いて何かのきっかけで誤解が解けて
ラブラブハボロイに!」でした〜。最初にリクを頂いた時点でむずかしそーと思ってはいたのですが、いやもう、永遠に終わらないかと思いました。なんか前に
書いたのと内容がかぶりそうになるし、こういうぐるぐるネタは書いている内に自分が混乱しちゃって…。なんかヘンな話になっちゃって、リク主さま、
すみませんです〜〜(滝汗)