運命は突然やってくる。 第十三章
「いや、でも大したもんよ。ここまで来たのは30組中お前らのチームだけだぜ。」
ディスクは取れなかったけどな、と窓辺に寄りかかったヒューズはダガーを弄びながら言った。
「正直ここまで来るヤツはいないと思ってたからな。十分後期テストの免除対象にはなるだろ。」
そう言われてハボック達とソファーに並んで座っていたカベーリが小さく「やった」と呟く。ブレダも苦笑しながらも
硬かった表情を崩した。だが。
「ディスクを取れなかったら意味がない。」
3人並んだ一番端からぼそりとハボックが呟く。それを耳にしたブレダがロイ達の顔色を伺いながらハボックの
横腹を肘でつついた。
「ハボ。」
「ディスク取れなかったんだ。ミッションは失敗、オレ達のチームは全滅ってことでしょ。はっきりそう言やいいじゃ
ないっスか。」
「よせよ、ハボック。」
ソファーから身を乗り出すようにしてヒューズを睨むハボックを、ブレダが止める。そんな二人を面白そうに
見ていたロイが口を開いた。
「いくつか聞きたいことがあるんだが。」
そう言われてブレダとカベーリは居住まいを正す。ブレダに腕をつかまれたままのハボックはムスッとしてソファー
に深く座り込むとそっぽを向いてしまった。
「どうしてあのゲートを選んだ?どのゲートを使ってもいいと言われたろう?他のゲートの方がいいとは思わな
かったのか?現に他のチームは大半がA-3、A-4ゲートから入ってるぞ。」
「それは…。」
とブレダが代表して答える。
「A-3、A-4は地図で見たカンジだけでは一番簡単そうだったんですけど…。」
「では何故?」
「コイツが一番簡単そうだからって本当に簡単とは限らない。立案者にヒューズ先輩がいるからきっと一筋縄
じゃいかないって言うもんで。」
とブレダはハボックを指差す。
「それに、説明した場所に一番近いところが却っておススメルートなのかなって。」
「どういう意味だ?」
「いや、どこのゲートを選んでもいいって言われたら、普通目の前のゲートじゃなくて他の場所に移動したくなり
ますけど、でも実際は移動しない方がいいんじゃないかって思ったんです。」
ブレダの説明にロイは頷いて更に聞いた。
「では、橋をすぐに渡らなかったのは?」
「だって、あんなトコ、いかにも挟み撃ち狙ってますってカンジじゃないですか。」
渡れないですよ、と言うブレダにロイは薄っすらと笑う。
「崖は?罠が仕掛けてあるとは思わなかったのか?」
「全く思わなくはなかったですけど、でもこの時期俺達1年が相手で、崖登んのだけでも大変なのに、授業の
一環のミッションでそこまではしないだろうと思ったんで。実際登るの大変だったし、なあ。」
とブレダが言えば、カベーリが「そおかぁ?」などと言うので、ブレダは思い切りカベーリの腿を抓った。
「建物の中での行動は?誰が決めた?」
「メインは俺で。でも二人の意見も聞きましたよ。」
「なるほど。」
なんだか楽しそうなロイの様子にブレダとカベーリは何となく落ち着かず、もぞもぞと尻を動かす。ひとり拗ねた
ままのハボックにロイは声をかけた。
「ハボック。」
だが、ハボックは眉間に皺を寄せ不満そうに唇を尖らせて床を睨みつけたまま答えようとしない。慌ててブレダ
がハボックをつついたが、ハボックはますますソファーにめり込むように身を沈めただけだった。
「なあに拗ねてんのよ、ワンコ。俺に敵わなかったのがそんなに悔しかったわけ?」
ヒューズがからかうようにそう言えばハボックは床を睨みつけていた視線を上げる。いかにも「この野郎」的な
視線を向けられてヒューズが声を上げて笑った。
「あんなんで俺に勝とうなんて10年早いんだよ。」
その言葉に物凄い勢いで立ち上がったハボックを、ブレダが慌てて服を掴んで引き戻す。唇を噛み締める
ハボックにロイが楽しそうに言った。
「お前はよくやったよ、ハボック。」
そう言われてハボックが顔をゆがめる。
「バカにしてるんスか、先輩。」
「そんなつもりはない。私は事実を言っているだけだ。勿論まだまだ学ばなければならないことはたくさんあるが。」
そう言われてハボックはロイをじっと見つめた。
「お前は、お前達はよくやった。入学して数ヶ月であれだけのことをこなせるやつはそう居ない。だが、まだまだ
学ぶべきことは山ほどある。今回のことで何が自分達に足りないか、それに気がついたヤツが最後に勝つのさ。」
ロイにそう言われてハボックは暫く黙っていたが、やがて口を開くと小さな声で聞く。
「オレ、まだまだイケルと思います?」
「それはお前次第だろう。」
「もっと頑張ったら、認めてくれます?」
必死の形相で聞いてくるハボックにロイは薄っすらと笑った。椅子に座ってディスクを手で弄びながら微笑むロイ
の顔をじっと見つめた後、ハボックはソファーから立ち上がると一礼する。
「どうもありがとうございましたっ!」
そう言うとさっさと部屋を出て行ってしまったハボックを、ブレダとカベーリも一礼すると慌てて追いかけた。先を
行くハボックに追いつくと、ハボックが口を開く。
「オレ、全然敵わなかった。」
「敵わなかったのはお前だけじゃないだろう。」
「俺なんて腰抜かしちゃったもんな。」
カッコ悪、とぼやくカベーリにハボックがようやく笑みを浮かべた。
「よしっ、絶対認めてもらうぞっ!」
「「おおっ!」」
3人は星の瞬き始めた空に向かって拳を突き上げたのだった。
「おー、すっかり盛り上がってるぜ。」
ヒューズはじゃれ合いながら立ち去っていく3人の姿を窓から眺めて言う。
「焚きつけちゃって、いいのかよ。」
「お前だって煽ってだろう。」
「俺はまだまだだって言っただけだぜ。」
しれっとしてそう言うヒューズにロイは片眉を跳ね上げたが何も言わなかった。ヒューズはそんなロイを面白そうに
見つめていたが、窓枠に背を預けるようにして寄りかかるとダガーを弄りながらロイに言う。
「引き込むのか、こっちに。」
「お前はどう思った?」
「ま、見込みはあるかもな。」
ロイは椅子の背に体を預けて脚を組みなおすと言った。
「士官学校にくれば人材が手にはいるかと思ったのに、実際にはバカばっかりだ。」
苦々しくそう言い捨てるロイにヒューズが喉の奥で笑う。
「お前のお眼鏡にかなうヤツがそうそういるとは思えないけどな。」
「お前と二人だけってわけにはいかないんだ。」
「手駒が欲しいってか。絶対裏切らない、使える手駒が。」
からかうように言えば睨みつけてくるロイにヒューズは肩を竦めた。
「ま、可能性はあると思うぜ。」
そう言って、もうとっくに見えなくなってしまった3人の姿を探すように、ヒューズは視線を窓の外へ向けるのだった。
ミッション形式の訓練があったその数日後。
「こんにちはっ!」
おざなりなノックと共に開いた扉にヒューズが思い切り顔を顰めた。
「お前な、ノックの意味判ってやってんのか?」
「へ?はいりますよ〜って合図でしょ?」
「入っていいですかってお伺い立ててんだよっ」
返事聞いてから入って来いっと頭の両脇を拳でぐりぐりされて、ハボックは「痛い痛い」と喚く。ロイはそんな
二人をくすくす笑いながら見ていたが、流石に可哀相になって声をかけた。
「ヒューズ、その辺にしといてやれ。」
ロイの言葉にようやく解放されて、ハボックがホッと息をつく。ヒューズはハボックの頭を離れ際にゴツンと殴ると
言った。
「コーヒー淹れに来たんだろ。さっさと淹れろ。」
「はいはい。」
ハボックは頭を擦りながらそう答えるともうすっかりなれた様子でコーヒーを淹れ始める。部屋の中にいい香りが
漂い、暫くするとハボックはロイの前にコーヒーのカップを差し出した。
「はい、マスタング先輩。」
「ありがとう。」
ロイににっこり微笑みを返されて、ハボックは目尻を染めて嬉しそうに笑う。その様子を目を眇めて見ていた
ヒューズは自分にコーヒーが出てこない事に気がついてハボックに言った。
「おい、俺の分は?」
「ヒューズ先輩はこっち。」
そう言ってハボックはヒューズにスポーツドリンクのボトルを差し出す。思わず受け取ってしまってからヒューズ
はハボックとボトルを交互に見ながら聞いた。
「なんだ、これは。」
「それあげますからオレに訓練つけてくださいね。」
「はあっ?」
「オレ、まだまだやりますんでっ!」
マスタング先輩に認めてもらうんだっと握りこぶしを作って叫ぶハボックを呆然と見つめて、それからハッとすると
ヒューズは喚く。
「待てっ!何で俺が訓練に付き合わなきゃいけないんだっ!」
「ぐちゃぐちゃウルサイっスよ。じゃ、マスタング先輩、行って来ますね。」
「ああ、行っておいで。」
「行っておいでって、ロイ、おまえ…つか、ハボックっ!勝手に訓練なんて…」
「ちゃんと教官の許可とってますもん。これから平日毎日、使えるようにしてありますから。」
「毎日ぃっ!何お前勝手に決めてんだよっ!」
ヒューズはコーヒーを飲みながらくすくす笑うロイを睨みつけて言う。
「ロイっ!笑ってないで何か言ってやってくれよっ!」
「ハボックをよろしく頼むよ、ヒューズ。」
「ロ…っ、お前なぁっ」
目を吊り上げて怒鳴るヒューズにロイがすっと笑みを引っ込めて言った。
「見込みはあるんだろう?だったら使える手駒に仕上げてくれ。」
それからまた満面の笑みを浮かべる。
「期待してるよ、ヒューズ。」
ヒューズはあんぐりと口をあけてロイを見ていたが、やがて苦笑すると答えた。
「期待に沿えるかどうかはアイツ次第だからな。」
そう言ってヒューズは廊下の先で「早く、早く」と喚いているハボックを追いかける。暫くして外から聞こえた
賑やかな声に窓から外を覗けば、ヒューズがハボックの頭をどつきながら練兵場へと駆けて行くところだった。
「私の期待を裏切るなよ、ハボック。」
そんな二人を見下ろしながらロイが呟く。
ハボックのこれからを左右する運命が、すぐそこまでやってきているのかもしれなかった。
2007/6/2
拍手リク「是非カレンダー妄想のハボロイを書いて欲しいです!今より少しフレッシュで純朴?なハボと、既に軍人かもしくは在学中でちょっと
スレてる小悪魔ロイでハボロイをお願いします!!士官学校なんでヒューズは必需品ですが、個人的には悩めるハボの悪友としてブレダの活躍も
期待してます。あ、ブレダの出演予定がないようでしたら無理にとは言いませんが、既に出演決定もしくは検討の余地があるようなら、是非とも
標準体型でお願いします!折角パラレルなのでスリムとまではいかなくてもせめてややぽっちゃり程度で 、しかもハボと同じくらいモテるとか
おいしい設定のブレダを是非…!あ、もちろんメインはハボとロイなんで3 行くらいでいいのでイケメンブレダも登場したりしてると嬉しいですvv」
でした。………すっ、すみませんっっ、思いっきり外してますね、リクorz 一応書き出すに当たりリクは見直してから書き始めた筈なんですが
どこでどう間違ったのやら…。ブレダが3行どころかロイが3行ですね(滝汗)ヒューズの方がよっぽど喋ってるし。申し訳ないです〜〜っ。
ホントはこの話、まだ先があるといえばあるのです。だってほら、寮長の名前も出したし、マッチョな先輩出てたし、基本的に名前をつける=本編で
ハボ達に絡む、なので。でも、流石に連載13回となり、「長いのいいですよー」というお言葉もいただいたのですが、こればかり書いていると他の話が
書けないので…。許容量が少ないのでいろんな話を平行して書けないのです。なので、キリのいいここで一応エンドマークをつけさせて
いただきました。また機会があれば続きを書きたいなぁと。(こんなのばっかりだな)続きを書くとしたらタイトルは「そして、運命は動き出す。」ですね。
中身考えてないけど(笑)
そんなわけで今迄で一番長い話になりましたが、少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。