troublemaker 後編
「すごく美味しいですっ!」
「それはよかった。」
もりもりと食べるビリーを見つめて、ロイは嬉しそうに目を細めた。ここはハボックが気に入っている店だった。その辺の
店より一息ランクの高い店であるにも関わらず気取ったところが無くて、寛いで過ごせる。量も多くてよく食べるハボック
にはうってつけの店だった。
「君はハボックの一番下の弟だっけ?」
「はい、そうです。」
「兄弟は男ばっかり?」
「いえ、他に姉が二人。あ、オレから見て姉ですけど。」
「みんな君たちみたいに似てるのかい?」
「うーん、まあ、似てるっちゃ似てますけど、オレとジャンほどじゃないかなぁ。」
ビリーはもぐもぐと頬張りながら答えた。
「ロイさんは兄弟、いないんスか?」
「私は一人っ子なんだ。兄弟が沢山いると楽しいだろうね。」
「そうでもないですよー。ジャンなんてしょっちゅうオレのこと怒っては殴ってばっかだったし。士官学校入った時は
せいせいしましたもん。」
本当にせいせいしたという顔をするビリーにロイはくすりと笑う。
「小さいときのハボックって、どんな感じだったのかな。」
「ジャンの小さいとき、ですか?」
ロイに聞かれて小さいときの記憶を手繰り寄せながらぽつぽつと話し出すビリーの言葉に、ロイは幼い時のハボックを
思い描いて、楽しそうに聞いていた。
食事の終わる頃に車でやってきたハボックは、別れがたそうなビリーを無視してロイを車に押し込む。
「そんなにカリカリすることないだろう。」
ハボックの運転する車の後部座席に腰かけて、ロイはため息をついた。
「とにかく、アイツは絶対にダメです…っ」
乱暴にハンドルを切るハボックの運転にシートの上のロイの体が斜めに傾ぐ。
「ハボック…!」
ぶすっとして口を開こうとしないハボックにロイは深いため息をついた。
「あれ、今日、ロイさんいないの?」
さも当然という顔で司令部にやってきたビリーに書類を書いていたハボックはビリーを睨みつけると答えた。
「会議中だよ。」
「ふうん。」
じゃあ待たせてもらおうかな、などと言うビリーに、ハボックは立ち上がると言う。
「おい、ビリー。話がある、ちょっと来い。」
そう言って司令室を出て行くハボックをビリーはめんどくさそうに見つめたが、仕方ないといった様子で後を追った。
中庭までやってくるとハボックはビリーを振り返ると言った。
「お前、どういうつもりだよ。」
「どうって?」
「何考えて大佐につきまとってるんだよ。」
「言ったろ、モノにするって。」
「おまえ…っ、ふざけるのもいい加減に…っ」
ビリーは怒りも顕に自分を睨んでくるハボックを平然と見つめて言った。
「なんでそんなにムキになってるわけ?」
言われてハボックはぐっと言葉に詰まる。そんなハボックにビリーは、ああそうか、というような顔をすると言う。
「もしかして、ジャン、ロイさんのこと好きなわけ?」
ビリーの言葉に目を見開くハボックにビリーは続けた。
「ま、でも上司と部下じゃどうにもならないか。」
まさか上司を押し倒すわけにいかないもんね、とあざけるようにビリーは言うとニヤリと笑った。
「まあ、見ててよ。絶対堕として見せるから。」
そう言って立ち去るビリーの背を見送ってハボックはぼそりと呟いた。
「悪かったな…くそっ」
階級差も年齢差も、普段から嫌というほど思い知らされている。それでもロイは自分を選んでくれたのだと思っていた
のだが、最近のロイの様子に自信のなくなってきたハボックだった。
司令室に戻ると、ハボックはビリーがいないかきょろきょろと辺りを見回す。会議から戻っているはずのロイに一言
ビリーに注意するよう言っておこうと思ったハボックは執務室の扉をノックすると同時にがちゃりと押し開けて中へと
入っていった。
「たいさ。」
「どうした、ハボック。」
なにやら深刻そうな顔をしたハボックにロイは首を傾げた。
「ビリーのことなんスけど。」
「ビリーがどうかしたのか?」
「アイツが何言ってきても、絶対耳を貸さないで欲しいんです。」
ハボックの言葉にロイは目を見開いた。
「何を言ってるんだ、お前は。」
「約束して欲しいんです、たいさ」
「…訳を言え、ハボック。」
「それは…っ」
理由を求めてまっすぐに見つめてくる黒い瞳に、ハボックは何も言えずに黙り込む。いくらロイを取られたくないとはいえ、
こんなことを言っている自分がすごく卑怯な気がしてきて、ハボックは唇を噛み締めた。
「すみません、オレ…っ」
そうしてハボックはロイに見つめられる事に耐えられず、執務室を飛び出してしまったのだった。
執務室から飛び出した勢いのまま司令室から出て行ってしまったハボックと入れ替わるようにビリーが司令室に入って
きた。
「ロイさん、帰ってるの?」
そう言うビリーにブレダが声をかけた。
「おい、ビリー。真面目な話、仕事の邪魔すんなよ。」
「してないだろ、うるさいよ、ブレダ。」
「お前なあっ」
ビリーの物言いにムッとして何か言おうとするブレダを尻目にビリーは執務室の扉をノックする。そのまま返事を待たず
に中へ入り込みパタンと扉を閉めた。
「ロイさん。」
ビリーの声に書類を書いていたロイは顔を上げる。
「ビリー、来てたのか?」
「ロイさんに大事な話があるんです。」
ビリーはそう言うとロイの前に立った。不思議そうに見上げてくるロイにビリーは口を開く。
「ロイさん、オレ、貴方が好きです。オレと付き合ってくれませんか?」
目を見開くロイに顔を寄せるとビリーはその唇に己のそれを重ねようとする。ロイはハボックと同じ空色の瞳が近づいて
くるのを身動きできずに見つめていたが、唇が触れそうになった瞬間ハッとなってビリーの胸をトンと突いた。
突かれてビリーは軽くよろめいたが、踏みとどまるとロイの肩に手をかけた。
「ロイさんっ!」
そうして抱きしめてこようとするビリーをロイは押しのけると椅子から立ち上がり、ビリーをまっすぐに見つめる。
「ありがとう、ビリー。」
「え、それじゃあ…」
「君の気持ちは嬉しいが、だが、私には好きな人がいるんだ。」
ロイの言葉に目を瞠って、だが、ビリーは食い下がった。
「オレじゃだめですか?その人がどんな人か知りませんけど、オレ、貴方のこと大事にするし、それに…っ」
「ありがとう、でも。」
ロイはそう言うと目を細めた。
「ソイツでなきゃダメなんだ。」
そう言うロイにビリーは言葉を失う。
「鈍いくせにヤキモチ焼きだし、手のかかるヤツだけど、でも、好きなんだ、誰よりも。」
言って幸せそうに笑うロイにビリーはがっくりと肩を落とした。そうして上目遣いにロイを見ると言う。
「ソイツより先にオレが貴方に出会っていたら、オレを選んでくれましたか?」
そう聞かれてロイは僅かに目を見開いたが、すぐ笑って答えた。
「いや、たとえ いつ出会ったとしても、私はソイツを選ぶだろうな。」
すまない、と言われてビリーはため息をつくと苦笑して答える。
「いえ、いいんです。でも、羨ましいな、ソイツが。」
ビリーはそう言ってロイに背を向けた。扉をあけようとして振り向くとロイに言う。
「オレのキモチ、笑わないで答えてくれてありがとうございました。」
そう言ってハボックと同じ笑みを浮かべてビリーは執務室を後にした。
ビリーは執務室から出てくると、唇を噛み締めたまま司令室を後にした。司令部の廊下を歩きながらふと外を見た
ビリーは、ハボックがぼんやりと立っているのに気づいて外への扉をくぐった。
「ジャン。」
呼びかけるとハッとしてビリーを見て、だがすぐに目を背けるハボックにビリーは口を開いた。
「ロイさんに好きだって言ったよ。」
びくりと震えるハボックにそれ以上何も言わず、ビリーはハボックに背を向ける。
「ビリーっ!」
慌てて数歩追いかけるハボックにビリーは振り向かずに言った。
「好きな人がいるんだってさ。」
「え?」
「オレ、帰るわ。」
そう言って去っていくビリーの背中をハボックは呆然として見送る。ビリーが行ってしまってから暫くしてやっと我に
返ると、ハボックは慌ててロイの元へと走っていった。
「たいさっ」
ノックもせずに司令室に飛び込んできたハボックにロイは眉を顰める。
「おい、ノックくらいしないか。」
だが、ハボックはそれには答えずロイに言った。
「ビリーに好きだって言われたんスかっ?」
噛み付くように聞くハボックにロイは目をパチクリさせる。
「たいさっ?」
「え、ああ、言われたけど。」
「言われたけどって、アンタっ」
「好きな人がいるって答えたけどな。」
そう言われてハボックは口を噤む。
「だから君の気持ちには応えられないって言った。」
そう言ってじっと見つめてくる黒い瞳にハボックの頬に熱が上る。
「それともビリーの気持ちに応えた方がよかったか?」
意地悪くそう言うロイにハボックが悔しそうに答えた。
「バカ言わんでくださいよ。」
ハボックはそう言ってロイの頬に手を伸ばす。
「絶対に誰にも渡す気はありませんから。」
ハボックの言葉に嬉しそうに笑う黒い瞳に、優しく笑い返すとハボックはロイに口付けていった。
2006/12/22
2007/1/4 改訂
拍手リク「ハボの兄弟が色々邪魔するロ イハボなお話のハボロイver.も読みたいです!できればハボと同じ金髪碧眼なハボ似な弟→ロイみたいな
横恋慕モノで。満更でもなさそうなロイ(ハボ視点)と超積極的な弟に大慌てなハボとか。弟はつきあってるのを知らない設定な方がおいしい気が
します。「オレの大佐なの!」と牽制できないけ ど傍観もできるはずがない哀れなハボが見たいです。弟は一般人がいいです」でございました。
オリキャラを出して毎度悩むのが名前。ロイハボver.のクリス姉さんはすぐに出てきたのですが、今回はほら、ファミリーネームの「ハボック」をつけなきゃ
いけないじゃないですか。どんな名前をつけてもしっくり来ないんですよね〜。できればニックネームのある名前がいいというのもあって、散々悩んだ末、
「ウィリアム君」に。ウィリアムのニックネームはビリーの他、ウィルやビルなんかもありましたけど荒野の無法者、ピストルの名手、ビリー・ザ・キッドから
ビリーにいたしました。そんで持ってお話ですが、もっと積極的に迫らせても良かったなぁと書き終えてから思って、私にしては珍しくendマークをつけてから
随分書き足してしまいました。長らくお待たせしてしまいましたが、少しでもお楽しみいただけたら幸いですー。