野良犬の純情  後編


夕暮れの街を殊更ゆっくりと歩く。大佐と一緒にこの道を歩いたのは昨夜のことだと言うのにもう随分と昔のことの
ように思えた。どんなにゆっくり歩いても終わりのない道はなく、気がつけばオレの目の前には大佐の家の玄関が
立っていた。ノックしようとしては上げる手を扉に触れることが出来ずに何度も下ろす。それでも、ようやく意を決する
と、玄関の扉を小さく叩いた。眠っていて気がつかなければいい、そんなことを期待したオレだったが、扉はさほど
間を置かずにゆっくりと開かれた。
「ハボック…」
驚いたようにオレを見上げた大佐の顔は、頬の腫れこそ引いていたが目は真っ赤に充血していた。そんな大佐に
オレは胸がきりきりと痛む。
「中尉から急ぎの書類を預かってきました。」
中尉に言われたことをそのまま大佐に告げるオレに、大佐は頷くと中へ入るよう言った。書類を渡し、閉じた玄関の
前から動こうとしないオレに大佐は肩越しに声をかける。
「どうした、中で待っていてくれ。」
「いや、でも…」
「そんなところで待たれたら気が急いて仕方ない。」
そう言って中へと行ってしまう大佐に、オレはため息をつくとリビングへと入った。薦められるままにソファーに腰を
下ろし、だがオレは目を上げることが出来なかった。向かいに座って書類に目を通す大佐にも、昨日大佐を陵辱
したすぐ目と鼻の先の床にも目をやることが出来ず、膝の上で握り締めた拳を見つめる。だが、大佐が書類を捲る
音だけが響く、シンと静まりかえったその状況に、耐え切れずに声を上げたのはオレのほうだった。
「どうして何にも言わないんです?」
オレは握り締めた拳を見つめながら吐き出すように言った。
「あんな酷い事をしたオレに、アンタ、どうして何も言わないんですっ?!」
ぎゅっと握り締めた拳に爪が突き刺さる。
「詰ればいいじゃないっスか、首にしたけりゃすればいい。上官侮辱罪でぶち込むならぶちこんだらいいだろっ!
 なんで何も言わないんだっ?!」
そんな、何もなかったような顔をして、そんなの、詰られるよりずっと辛い。オレの想いも何もかも全部なかった
ことにされたみたいで、オレは苦しくて苦しくてどうしてよいか判らずに喚きたてた。そんなオレを大佐は何も言わず
に見つめていたが、暫くすると口を開いた。
「お前に会ったら一つ聞きたいことがあったんだ。」
大佐はそう言うと、手にしていた書類を傍らに置いた。
「ハボック、私の目を見てくれないか。」
喚く間もずっと自分の拳を睨みつけていたオレに大佐が言う。びくりと震えて、だがオレは目を上げることができな
かった。
「ハボック、頼むからこっちを向いてくれ。」
哀願するように大佐が囁く。オレは必死の思いで顔を上げると大佐の目を見つめた。それでも、まっすぐにオレを
見る黒い瞳が辛くて、何度も何度も瞬きをする。大佐はそんなオレに微かに微笑むと話し出した。
「昨夜、お前が私をソファーに寝かせた後、家を出る前に言った言葉。それを聞きたいんだ。」
目を見開くオレを綺麗な黒い瞳が見つめる。
「あの時、お前は私を好きだと言ったのか?」
そう聞かれてオレは顔が熱くなるのを感じた。大佐にあんなことをしておきながら、こんなことを感じるのは変かも
しれないけど、大佐にそう聞かれて恥ずかしくて消え入りそうになる。
「…んだよっ、そうだよっ、オレはアンタが好きなんスよっ!気持ち悪いならそう言えばいいじゃないっスか!オレは
 男で、でも男のアンタが好きで!気持ち悪いって思ってんでしょ、だったらそう言えばいいんだっ…!」
真っ赤な顔をしてバカみたいに怒鳴るオレを大佐はじっと見つめていたが、ほんの少し顔を歪めると言った。
「気持ち悪いなんて思うわけない。だって…だって、私も、ずっとお前のことが好きだったんだから。」
大佐の唇から零れた言葉がよく理解できずにオレは大佐を見つめた。
「ずっとお前が好きだった。でも、私は男でお前は男なんかに興味はないようだったから、だから側にいられれば
 それでいいと思ってた。私はこんな見てくれだから、特に戦地では性欲処理の対象として見られてたよ。もっとも
 そんな不届き者は二度とそんな気が起きないようにこっぴどくやっつけてやったけどね。だから、あの時。お前に
 力ずくで抱かれた時、お前も私をただの性欲処理の対象として見ていたのかと、とても悲しかった。悲しくて、でも
 お前に触れられて嬉しくもあったんだ。悲しくて、嬉しくて、苦しくて…。だからお前が私を好きだと言ったのは、そう
 言って欲しかった私が勝手にそう感じただけの幻聴かと思っていたんだ。」
オレを見つめる大佐の瞳が不安げに揺れる。大佐は一つ瞬きすると、言葉を続けた。
「あれは、お前が私を好きだと言ったのは、幻聴なんかじゃなかったと、そう思っていいんだろうか。」
そうして、震える声で囁いた。
「お前を好きだと言ってもいいんだろうか…」
そこまで聞いたとき、オレは立ち上がって向かいのソファーに座る大佐に駆け寄った。言う言葉が思いつかずに
大佐を見下ろすオレを見上げてくる黒い瞳を見ているうち、目の奥が熱くなってくる。すとんと大佐の前に跪いて
オレは大佐の手を取った。
「大佐のことが好きです…ずっと好きだった。でも言えなくて、オレ、アンタに酷い事を…っ」
大佐の手の平に頬を押し付けて、オレは涙を零した。
「ごめんなさい…オレっ」
子供みたいに泣きじゃくるオレの頭を大佐の手がそっと撫でる。涙に曇った目で大佐のことを見上げれば、オレを
見つめる大佐の瞳が優しく微笑んだ。
「酷い顔…」
そういいながら大佐はオレの涙をそっと拭う。その手に縋るようにして大佐に体を寄せるとその体を腕の中に閉じ
込めた。
「好き…好きです、たいさ…」
そう囁いて大佐の頬を撫でる。大佐は泣きそうに顔を歪めるとオレの手の平に頬を押し付けた。
「私も…私もお前が好きだ…。」
消え入りそうな声でそう呟く唇をそっと塞ぐ。最初は啄ばむように交わしていた口付けが次第に深くなり、オレは
大佐の体を折れんばかりに抱きしめて、その甘い唇を貪った。舌を絡ませあい互いの口中を弄りあう。交わった
唾液が含みきれずに互いの唇から零れた。ようやく唇を離せばオレの胸にくたりと頭を寄せる大佐の耳元にオレは
囁いた。
「アンタを抱きたい…今度はちゃんと、オレの想いをアンタに伝えたい…」
ダメっスか、と吹き込むように囁けば、大佐の頬が紅く染まった。
「ダメ…じゃない…」
その言葉を聞いた途端、ぐっとソファーに押し倒そうとするオレを、大佐は慌てて押し留めた。
「こ、ここじゃなくて…っ」
真っ赤な顔でオレを見上げながら大佐は言った。
「ベッドに…」
恥ずかしそうに目を伏せる大佐にオレは小さく笑うとその頬に口付けた。

寝室に入ると同時にオレは大佐の体をベッドに押し倒した。引き毟るようにその服を剥ぎ取るとその滑らかな肌に
手を這わせる。
「ま、待って…も、少しゆっくり…」
「ムリっス」
オレはそう早口で呟くと白い肌を彩る胸の飾りに舌を這わせた。舌先でぷくりと立ち上がったソコをねぶり、唾液を
塗す。甘く噛み付けば大佐は甘い吐息を零して胸を仰け反らせた。
「あ…はあ…っ」
びくびくと震える体に甘く歯を立て、時にきつく吸い上げて花びらを散らしていく。体中を愛撫されて大佐の中心は
すっかり硬く立ち上がり、とろとろと蜜を零していた。そっと握り締めて擦り上げると零れる吐息が温度を上げた。
「んふ…あ…ハボ…っ」
大佐に名前を呼ばれてぞくりとする。夢中で擦りあげながら唇を塞げば熱い吐息が口中へ流れ込んだ。
「んっ、ん――っ」
大佐が苦しげにもがいてオレの腕に爪を立てる。その痛みすら快感に覚えながらオレは大佐の棹の先を指で
引っ掻いた。
「んんんっっ」
大佐の背が反り返り、オレの手の中に熱を吐き出す。そっと唇を離すと苦しげに息をついた。
「は…ハボ…」
「気持ちよかったっスか…?」
顔を覗き込んでそう尋ねれば、目元を染めて睨んできた。その表情がたまらなく可愛くて、オレは唇にちゅっと
口付ける。吐き出された熱をぺろりと舐めて見せれば染まった頬がますます紅くなった。
「たいさ…いいっスか…?」
無理強いしたくなくてそう尋ねれば恥ずかしそうに目を伏せる。
「聞くな、バカ…。」
その答えにオレは笑うと大佐の脚を開かせた。
「あっっ」
真っ赤になって閉じようとするのを押さえ込んで大佐の目を覗き込む。
「いや?」
そう尋ねるオレに、大佐はハッとするとおずおずと脚を開いた。その仕草が堪らなくてごくりと喉を鳴らせばまた大佐に
睨まれた。目の前に曝された蕾にそっと指を這わせるとぴくぴくと脚が震える。手の平に残った大佐の熱を塗り
こめてつぷりと指を差し入れれば大佐の体が強張った。
「痛いっスか?」
優しくしたいと思っていたから慌てて大佐にそう聞けば大佐はふるふると首を振る。くち、と音がするそこを根元
まで差し込んだ指でかき回すと大佐の腰が揺れた。徐々に解れてきたそこへ沈める指を増やしていく。
「あ…んくぅ…ハボぉ…」
ゆらゆらと腰を揺らして甘い吐息を零す。オレの指がある一点を掠めたとき、大佐の体が跳ね上がった。
「ひああっ」
「ここ、いいんスね。」
「あっっやだっっ」
悶える大佐はオレの指から逃れようとしているのか、もっとと行為を強請っているのか、どちらにも取れる。オレは
勝手に強請っていると解釈して更にソコを指で刺激した。
「ああんんんっっ」
びゅるりと大佐の中心から熱が迸る。
「すご…いっぱい出たっスよ…」
思わずオレが囁けば大佐が怒ったようにオレの首筋に噛み付いてきた。きりと歯を立てられて、甘い痛みが体を
駆け抜ける。オレは笑いながら大佐の双丘をなでた。
「も、早くお前を寄越せッ!」
涙を浮かべながらそう言う大佐の唇に口付ける。脚を抱え上げ、ぴたりと熱を押し当てると大佐の体が震えた。
「嫌なら止めます…」
大佐が嫌なことはやりたくない。そう思って告げた言葉に大佐は必死に首を振った。
「やめるな…っ」
泣きそうな声でそう言う大佐の額に口付けるとオレはぐっと体を進めた。
「ん…くぅ…」
僅かに眉を顰める大佐の頬を撫で大佐の呼吸に合わせてゆっくりと自身を沈めていった。すっかり収めてしまうと
大佐が落ち着くのを待つ。うっすらと目を開いて見つめてくる黒い瞳にどくんと心臓が跳ねた。
「ハボ…きて…」
消え入りそうな声は、でもオレの耳にははっきりと届いてオレはゆっくりと抽送を始める。入り口まで引き抜くと
ぐんと奥まで押し入れる。熱い襞がオレに絡みついてたまらない快感が背筋を駆け上った。
「たいさ…たいさ…」
何度も何度も名を呼びながらだんだん抽送を激しくしていく。大佐の腕がオレの背をかき抱いて、その唇がオレの
名を呼んだ。
「ハボ…あっ…ハボックっ」
ぐちゅぐちゅと濡れた音が響き、2人の荒い呼吸が交じり合う。ガンガンと壊れてしまうのではないかと言うほど
思い切り突き上げる。大佐の中心からびゅくびゅくと熱が迸ったが構わず突き上げれば、大佐の唇から感じ入った
悲鳴があがった。
「ああっひあああっハボっ」
「たいさっ」
「あっ…や…また、イく…っ」
そう囁くように言ったと思うと、大佐は胸を仰け反らせて熱を吐き出した。
「ああ…やだ…な、んでっ」
休む間もないほど快楽に落とされて、何度も熱を吐き出す事に耐え切れず、大佐はぽろぽろと泣き出してしまう。
その頼りない姿はオレを煽るばかりで、オレは無我夢中で大佐を突き上げた。
「あ…くうぅ…っ…ひあ…イイっ」
涙を撒き散らして首を振る大佐はゾクゾクするほど色っぽくて。オレはもう我慢できずにがつんと突き上げると、その
最奥へ熱を叩きつけた。

「たいさ…」
ぐったりとベッドに沈み込んだ体を何度も撫でながらオレは囁いた。ゆっくりと開いた瞳にオレは微笑むとその唇を
そっと塞ぐ。
「オレ、アンタの側にいてもいい?」
おずおずとそう尋ねれば大佐が小さく笑った。
「私をおいてどこかに行くなんて、絶対に赦さない…」
ずっと側に…と呟く大佐を、オレは泣きそうになりながらぎゅっと抱きしめた。


2007/1/29


拍手リク「片思いで滅茶苦茶煮詰まったハボが、無理やり大佐をやっちゃうところ から始まるハボロイ」でした。日記で書いた「途中まで書いて保存せずに
消してしまった」というssは実はこれで、なので書きあがって感無量というか…(涙)やっぱり初物語は何度書いても楽しいです。しかも無理矢理v
ハボが青いなぁ、と思いつつ書いてしまいました。お待たせしましたが楽しんで頂けると嬉しいです。