forget me not


「ヒューズっ!危ないっっ!!」
ほっそりとした体が彼の大事な親友を庇うように突き倒したその瞬間。背後の車が膨れ上がって爆発するのを、オレ
の目ははっきりと捉えていた。

爆弾テロの予告が入ってオレ達が急遽向かった駅ではちょうどセントラルから件のあの人が出張でついたところだった。
駅への連絡で乗客や近隣の市民の殆んどが避難し終えたそこへ、通信事情でどうしても走行中に連絡がつかず駅に
入る前に止めることの出来なかった列車がホームに滑り込んできた。オレ達は爆弾を探す班と乗客たちを非難させる
班に分かれてそれぞれがすべきことを確実に遂行していく。あの人もついたばかりで事情がよく判らないままに、オレ
達に手を貸してくれてとりあえず避難誘導だけはできたと思ったその時。
「大佐っ、爆弾、あの車の中ですっっ!!」
もう爆発まで数十秒に迫る爆弾が詰まっていると判った車の側に、あの人が、ヒューズ中佐が立っていて。それを
告げられた大佐が飛び出していくのを止める暇もなく、大佐が中佐を庇いながら爆風に呑まれていくのを、オレは
少し離れた所からなす術もなく見つめていたのだった。

「たいさはっ?!」
オレは病院の廊下を看護婦の制止の声も聞かずに走り抜けると、病室の前に立つホークアイ中尉に向かって言った。
「ハボック少尉。」
「中尉、たいさはっ?怪我、どんな感じなんスかっ?」
「落ち着いて、少尉。」
「でも…っ」
「少尉。」
中尉の冷静な声色にオレの心も少しだけ落ち着きを取り戻す。鳶色の瞳がまっすぐにオレを見つめて中尉は口を
開いた。
「大佐なら大丈夫。命に別状はないわ。ただ、吹き飛ばされた時、頭を強く打っているようだから様子を見ないと…。」
「頭をって…」
慌てて言い募ろうとしたオレを制して中尉は言葉を続ける。
「レントゲンの結果、異常は見つけられなかったわ。骨折や出血もなし。でも場所が場所だから大事に越したことは
 ないから。」
中尉が落ち着かせるようにぽんぽんとオレの腕を叩いた。
「大佐なら大丈夫よ。今は中佐もついているし。」
その一言が少し落ち着き始めていたオレの心にまた波風を立てる。中尉はそんなことには気がつかずにオレに「大佐
を頼むわね」と言い残して司令部に帰ってしまった。オレは目の前の病室の扉を開けようとしてそのまま身動きが
取れなくなってしまった。
誰もが認める大佐の親友であるヒューズ中佐が仕事でこっちに来るたび、正直オレは落ち着かなかった。長年の友人
同士の気安さからだろう、オレといる時とは違う大佐の顔に、それがつまらない嫉妬だとわかっていてもその気持ちを
押さえることが出来なくて。大佐と付き合うようになってその気持ちはますます大きくなった。大佐を好きな気持ちと
同じくらい膨れ上がったその気持ちに、息が止まりそうになるほど苦しくて。オレは今もその気持ちに押しつぶされ
そうになりながら、病室の扉に手をかけたまま動けないでいた。そうしてどれくらい時間がたったのだろう。
ガチャッと音がして扉が内側から開いた。
「なんだ…お前か…」
オレの顔を見たとたんホッと息を吐いてヒューズ中佐が言った。
「ドアのところで気配がしたまま動かないんだからな。誰かと思うだろうが。」
「中佐…」
「入んならとっとと入れ。」
中佐に促されるままに病室の中へ入ると、大佐がベッドに横たわっているのが見えた。慌てて側に駆け寄ると大佐の
顔を覗き込む。頭に包帯を巻いたその姿が痛々しくてオレはそっと大佐の頬に触れた。その時、大佐の睫が震えると
ゆっくりと黒い瞳が現れる。ぼんやりと見上げてくるその瞳にオレは声をかける。
「たいさ、大丈夫ですか?」
「ロイ。」
オレの後ろから中佐も声をかけてきた。だが、大佐はオレ達の言葉に答えず、まるで怖いものでも見るかのように
オレ達を見つめたまま凍りついている。焦れたオレが大佐の手を取ろうとした瞬間、思い切りはねつけられて、オレは
思わず息を飲んだ。
「だれだ…?ここはどこだ?わたしは…?」
目を瞠ってそう呟く大佐の様子にオレと中佐は顔を見合わせた。
「少尉。」
中佐に言われて頷くとオレは慌てて病室を飛び出すとドクターを呼びにいった。

大佐を診察し終えた医師がオレ達に告げた言葉は「記憶喪失」と言った冗談のような単語だった。そんなの、物語の
中だけの言葉だと思っていたのに、実際にオレ達の目の前にいる大佐はオレ達のことどころか自分のことすら覚えて
いなかった。
「どうしたら治るんスかっ?!」
噛み付くような勢いでそう聞くオレに医師は汗を拭きながら答えた。
「頭を打った拍子に記憶の引き出しが開かなくなっているんですよ。だから、普段の生活の中から少しずつ取り戻して
 いくしか…。」
「そんな悠長なこと言ってられる訳…っ」
「やめないか、少尉。」
「だって、中佐っ」
「とにかく今はロイがゆっくり休める環境を作ってやることだ。」
中佐はそう言うと診療室を出て行く。オレは唇を噛み締めると中佐の後を追った。

病室に戻ると、大佐がベッドの上で体を起こして窓の外を見ていた。中佐はゆっくりとベッドに近づくと大佐に話しかける。
「気分はどうだ、ロイ。」
中佐の声に大佐が目を上げて答える。
「わたしの名前はロイというのか…?」
「ああ。」
答えながら中佐はベッドサイドの椅子に腰を下ろした。
「お前の名はロイ。オレはヒューズ。こっちのでっかいのはハボックだ。」
大佐は不安げな目でちらりとオレを見たがすぐに中佐に視線を戻した。
「先日爆弾テロ事件があってな、お前はそれに巻き込まれて怪我をした。怪我自体は大したことないが、今はちょっと
 記憶がごっちゃになってんだな。なに、ゆっくり休んでりゃすぐ良くなる。心配すんな。」
中佐は悪戯っぽくウィンクするとにやっと笑う。そんな中佐の様子に大佐の力がふっと抜けるのを感じて、オレは胸の
中に黒く濁った何かが沸き上がるのを止められなかった。

その後も中佐は足繁く病院に通い、大佐の世話を焼いていた。記憶をなくしていても中佐の側で以前と変わらぬ笑み
を浮かべる大佐の姿にオレは息が詰まりそうになる。
「中佐、セントラルに帰らなくていいんスか?」
そう、意地悪く聞いてみても
「ロイが怪我をしたのは俺のせいだからな。」
そう言って中佐は忠実忠実しく大佐の看病を続けた。中佐には普通に接するくせにオレに対しては何となく硬い大佐
の態度にオレは苦しくて仕方なくて。ある日病室を訪れた時、中佐が大佐の体をタオルで拭いてやっているのに
出くわした時、オレの中で何かがぶち切れる音がした。

「お前ッ!何考えてんだっ!」
「もう、アンタに任せてらんないって言ってるんスよ。」
「少尉…っ」
「セントラルに帰ってくださいよ、中佐。大佐のことはオレが面倒見ますから。」
強引に医師の許可をもぎ取って大佐を家に連れて帰ろうとするオレに食ってかかる中佐に、オレは冷たく言い放った。
もう、これ以上中佐がさも当然と言う顔をして大佐の側にいるのは我慢ならなかった。親友だかなんだか知らないけど
オレと大佐の間にデンと居座ってんじゃねぇよ。そう怒鳴りたい気持ちを抑えて、オレは大佐を半ば掻っ攫うように
家へとつれて帰った。

「大佐、今コーヒー淹れますから座っててくださいよ。」
オレは落ち着かなげに部屋を見渡す大佐にそう言うとキッチンへと入っていく。中佐から引き離されて、まるで小さな
子供のように不安そうな顔をする大佐の様子にオレは苛々として、乱暴な手つきでコーヒーをセットした。大佐の
好みに合わせて砂糖とミルクをたっぷり入れたコーヒーをソファーに座る大佐に差し出せば、ありがとうと呟くように
言ってカップを受け取る。暫く黙ったままコーヒーを啜っていた大佐はポツリと囁くようにオレに聞いた。
「ヒューズは…?」
その問いにオレの中に押さえようのない怒りがこみ上げる。オレは大佐の手からカップを奪い取ると、その顎に手を
かけて上向かせた。
「なんで、中佐なんです?アンタにとってオレってなんなわけ?」
どうしてオレにそんなことを聞かれているのか全くわからないという顔で、大佐はオレを見上げる。そのまるで無防備
な様子にオレの我慢は限界を超えてしまった。
「なんでオレを頼って来ないんですっ?なんでオレのこと忘れちまえるんですっ?」
「何言って…」
「頭で思い出せないなら、体で思い出させてあげますよ。」
オレはそう言うと大佐の体をソファーに押し倒した。びっくりして目を見開く大佐のシャツの前立てに手をかけて、強引
に左右に開くとぶちぶちとボタンが弾けとんだ。目の前に晒された白い胸に唇を寄せると大佐の唇から悲鳴が上がった。
「いやっっ」
もがく体を押さえ込んで乳首を咥える。舌先でぐりぐりと潰して軽く歯を立てると大佐はオレの頭を掴んで引き剥がそうと
した。だが、それをものともせずにぷくりと立ち上がったソレに愛撫を加え続けると、オレの髪を掴む大佐の指から力
が抜けていく。びくびくと体を震わせながら熱い吐息を零す大佐にオレは煽られて大佐の胸元にむしゃぶりついた。
「や、だぁ…っ」
ふるふると首を振る大佐のズボンを下着ごとむしりとってしまうと、オレはそのすんなりと伸びた脚を大きく開かせる。
立ち上がり始めたソコにぺろりと舌を這わすと大佐の唇から悲鳴が零れた。
「あ…いや…ヒューズ…ヒューズ…たすけ…」
大佐が無意識に助けを求めた相手の名前に、オレはかっと頭に血が上るのを感じた。
「何で中佐なんだよっっ!!」
オレは大佐の中心を乱暴に掴む。ひっと悲鳴を上げる大佐を押さえ込んで上下に扱けば大佐はビクビクと体を震わせ
ながら熱い吐息を零した。
「んっ…んっ…いや…あ…っ」
ぐちゅぐちゅときつく扱くと大佐は脚を突っ張って身を震わせる。唇から零れる喘ぎが大きくなり、大佐は背を仰け反ら
せるとその中心から白濁を迸らせた。
「あああああっっ」
オレは荒い息を零す大佐の脚を開いてその奥まった蕾に舌を這わせる。大佐の放った熱に濡れた指を突っ込むと
大佐は苦しそうに息を吐いた。
「ふ…んぅ…ヒューズぅ…っ」
まるで小さな子供が母親に助けを求めるように中佐の名を呼ぶ大佐にオレの理性の箍はカンペキに吹き飛んでしまう。
オレはまだ殆んど準備の出来てないソコから指を引き抜くと、滾る自身を押し当てた。
「あ…」
押し当てられた熱い塊りに大佐が目を見開く。その怯えた様子に嗜虐心を煽られてオレはまだ硬い蕾を一気に貫いた。
「いやああああっっ」
大佐の唇から絶叫が迸る。オレは大佐の脚を高く抱え上げると乱暴に抜きさしする。涙を零して身を震わす大佐を
乱暴に犯しながらオレは何度も大佐に口付けた。
「たいさ…頼むから…オレのこと思い出して…オレのこと、呼んで…」
「あっ…ああっ…ひ…」
ぼろぼろと涙を零す黒い瞳に唇を落として、その瞳にオレを映して欲しくて。オレは泣きじゃくる大佐を乱暴に貫き
ながらその名を呼び続けた。

傷つけてしまった体を清めてやりながらオレは激しい後悔に苛まれていた。気を失って力の抜けた体をブランケットで
包み込んでぎゅっと抱きしめる。涙に濡れたその顔に何度も口付けていると、大佐の唇から小さな呻き声が零れて
ゆっくりとその目蓋が開いた。
「たいさ…」
そう呼んだものの、それ以上なにを言ってよいか判らず大佐の顔を見つめるオレの顔を、大佐は数度瞬きしてじっと
見上げた。何かいわなくちゃ、そう思ってなんとか言葉をひねり出そうとしたその時。
「ハボ…?なんでそんな顔してるんだ…?」
大佐は呟くようにそう言ってオレの腕の中から抜け出ようと体を動かそうとした途端、痛みに顔を歪めた。
「っつう…。なんでこんなに体が痛いんだ…?お前、私になにをした…?」
普段と変わらぬその様子に、オレはただ呆けたように大佐の顔を見つめていた。そんなオレに焦れたように大佐が
オレを呼ぶ。
「ハボックっ!」
その声にオレの瞳からぶわっと涙が溢れ出た。
「た、たいさぁ〜〜っっ」
ぎゅうっと抱きしめて泣き出したオレに大佐は訳が判らないというように目を瞬かせる。オレはようやくオレを映し
出してくれた黒い瞳に安堵して、泣きながら大佐の体を抱きしめたのだった。


2006/11/6


拍手リク「ヒューズを庇って爆撃を受け、記憶喪失になったロイ…ずっとそばについているヒューズからロイをさらって、連れ帰ってカラダで思い
出させようとするハボ…なハボロイを。ずっとそばにいてくれたヒューズに無意識に助けを求めちゃって、カっとなって激しくしちゃうハボに、何が
なんだか分からなくて怖くて泣いてしまうロイv最終的には目が覚めたら思い出していて、犯されたことは忘れていて…というような…」でございました。
ハボ…カッコ悪…。すみません、「白詰草」と違う風にと思っていたらなんだかハボが情けない事に…。せっかくリク頂きましたのにすみません
ですぅ〜〜〜(脱兎)