fall head over heels in love with his eyes 後編
「ん…」
カーテンの隙間から差し込む朝日に、ロイはゆっくりと目を開いた。そうしてベッドの中に己一人なのに気が
ついて慌てて体を起こす。昨夜久しぶりにハボックに愛された体は、まだ気だるく、ロイの意志に反してゆっくりと
しか動くことが出来なかった。
「ハボック、どこに…?」
今日、自分は非番で、ハボックは確か午後からの勤務の筈だ。まだそんなに慌てて起き出さなくてもいい時間
だと言うのに、ハボックはどこへ行ってしまったのだろうと、ロイがベッドから下りようとした時、寝室の扉が開いて
ハボックが顔を出した。
「あ、目、覚めてました?」
そういうハボックはすでに軍服を着込んでいる。
「お前、今日は午後からじゃ…」
「将軍は休みじゃないですからね。メシ、用意してありますから食べて下さい。それじゃっ!」
それだけ言うとロイの言葉も待たずにバタンと扉を閉めると、ハボックは行ってしまう。遠くで玄関の閉まる音が
してロイは思い切り枕を扉に投げつけたのだった。
「将軍!」
午前中の会議を終えて出て来たカールにハボックが声をかける。
「少尉。」
「将軍、良かったら昼飯、庭で食いませんか?」
「庭で?」
「そう、今日は天気もいいし風もないし、気持ちいいっスよ。」
ハボックはそう言うと、カールの手をとった。びっくりして、それでも手を振りほどくことが出来ずにカールはハボック
に手を引かれるままに近くの扉を出ると、中庭へと入っていく。木々の間をぬけるとぽかりと空いた空間に出て、
ハボックはそこでようやくカールの手を離した。離れてしまった温もりにカールが落胆していると、ハボックがカール
を手招く。呼ばれるままに側へ行くと、腰を下ろしたハボックが隣のスペースを指差した。カールが躊躇いがちに
ハボックの隣りに腰を下ろすと、ハボックは魔法のようにサンドイッチの入ったランチボックスをカールの前に差し
出した。
「どうぞ。」
にっこり笑うハボックに、カールはサンドイッチをとると一口齧る。
「おいしい…」
「よかった。早く起きて作った甲斐がありました。」
「少尉が作ったのか?」
びっくりして問うカールにハボックはサンドイッチに齧りつきながら答えた。
「ええ。好きなものとか苦手なものとか聞いてなかったんで、ちょっと心配だったんスけど。」
でも、食べてもらえてよかった、と笑うハボックに、カールは胸の奥が熱くなって必死に涙を堪えたのだった。
食後の紅茶を飲み終えて、「ごちそうさま」と呟くカールにハボックが言った。
「まだ時間ありますから、昼寝でもしていきます?」
「えっ、昼寝っ?」
目を丸くするカールにハボックは続けた。
「そ、ちゃんと起こしてあげますから。」
つかれてるんでしょう、そう言われてカールは、連日の会議にくたびれている自分に気がつく。昼間は会議で眠る
わけには行かず、そうして夜は隣に座る男のことが頭に浮んでなかなか寝付けない。カールはちらりとハボックを
見上げると寄りかかっていた木の幹に体を預ける。
「それじゃあちょっとだけ…」
そう言って目を閉じようとするカールの肩をハボックはぐいと引き寄せた。
「そんなんじゃ休めませんよ。」
ハボックはそう言うと自分の脚の上にカールの頭を載せた。いわゆる膝枕という格好にカールが慌てて身を起こ
そうとするのをやんわりと押し留めてハボックは笑った。
「少しでも休んでください。」
そうして優しくカールの髪を梳く指に、カールはどきどきする心臓を押さえてぎゅっと目を閉じた。
「将軍…将軍…」
いつの間に眠ってしまったのだろう、優しく呼ぶ声にカールの意識はゆっくりと覚醒していく。ハッとして開いた瞳の
ほんの目と鼻の先で見下ろしてくる、背後の空を切り取ったような空色の瞳にカールは絶句してハボックを見つ
めた。
(好きだ。)
そんな言葉が不意に心に浮んでくる。その言葉はカールを慌てさせることもなく、むしろストンとカールのぽかり
と空いた心の隙間に綺麗に収まった。
(好きだ、少尉のことが。)
そうはっきりと認識した途端湧いてくるさまざまな欲望。ずっと側にいて欲しい。抱きしめて欲しい。キスして
欲しい…。
無言のままじっと自分を見上げてくるカールにハボックは首を傾げた。
「もう、会議が始まりますよ。」
そう言うハボックにカールは2、3度瞬きして。
「そうか」と呟くとゆっくりと立ち上がった。
そうして瞬く間に日にちが過ぎて。あっという間に日程の最終日となっていた。いつものように何くれと面倒をみて
くれるハボックを見つめてカールは唇を噛み締めた。
放したくない。手に入れたい。いつまでも側にいて欲しい。
後から後から湧いてくる欲望。
カールは自分がこれほどまでに貪欲であることに初めて気づいて、信じられない思いでいっぱいだった。
それでも自分の気持ちに嘘はつけないから。
「ハボック少尉。」
そう呼べば優しく見返してくる空色の瞳に。
「大事な話があるんだ。会食のあと、ホテルにきてくれないか。」
そう言えば不思議そうに見つめてくるハボックを、カールは熱い想いをこめて見返した。
「マスタング大佐。」
呼ばれてロイはこの一週間で大嫌いになった男の顔を見た。
「やっと今日でセントラルに帰れますね。」
とっとと帰れと言わんばかりのロイの言葉にもカールは臆することなくロイを見つめる。
「ハボック少尉のことなんだが。」
カールがその名を口にすればロイの視線が険しさを増した。
「私のところの護衛官としてもらい受けたいと思っている。」
「な…っ?冗談も大概に…っ」
「冗談などではないよ、大佐。君のところには心を許せる優秀な人材が沢山いることだし、ハボック少尉ひとりを
セントラルに連れて行ったところで大した影響はないだろう?」
平然としてそういうカールをロイは燃える様な瞳で睨みつけた。
「お断りする。」
「君が私にどうこう意見できる立場にはないだろう。もっともハボック少尉が私に付いて来てくれると言ってくれる
事が前提だが、おそらく彼が断ることはないだろう。」
自信満々でそう言い切ったカールが歩み去るのをロイは怒りに震えて見送っていた。
一連の会議の最後の締めくくりとして行われた晩餐会が済んで、ハボックはカールと一緒にホテルへと来ていた。
「あの、大事な話ってなんスか?」
ハボックはホテルの部屋に入ってからもなかなか本題を切り出さないカールに、困ったようにそう聞く。カールは
暫く黙ったままハボックを見つめていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「ハボック少尉。」
「はい。」
「単刀直入に言うよ。君には私と一緒にセントラルに行って引き続き私の護衛として務めて欲しい。」
「…は?」
「だからなるべく早く荷物を纏めて…」
「待ってっ!待って下さいっ!」
勝手に話を進めようとするカールをハボックは慌てて遮った。
「そんな話、聞いてません。将軍の護衛はイーストシティにいる間だけって…。」
「イヤなのか?」
悲しそうに顔を歪めるカールにハボックは一瞬言葉に詰まる。
「軍人などどこで務めても一緒だろう?アメストリス軍に忠誠を誓うのならむしろここよりセントラルの方が…。」
「将軍。」
ハボックはカールの言葉を遮るようにその名を呼ぶと、まっすぐに見つめた。
「オレはアメストリス軍にも、ましてや大総統にも忠誠を誓った覚えはありません。」
「なんだって?」
「オレが忠誠を誓っているのは、ロイ・マスタング大佐ただ一人です。」
そう言って微かに微笑む空色の瞳にカールは言葉をなくす。
「オレの命も忠誠も、何もかも全部、捧げるのはマスタング大佐だけです。」
「少尉…。」
「勿論、大佐がセントラルに行くって言うなら行きます。でも、それはあくまで大佐と一緒に、です。」
「私と一緒にいけば、中尉の、いや、大尉の地位を約束しよう。もっと上の地位でもいい。君の望むものを…」
「オレが望んでいるのは大佐を支えることだけです。」
だから、すんません、と笑う蒼い瞳にカールはがっくりと膝をついた。
「…どうしてだ。マスタング大佐には彼を支えてくれる連中が大勢いるじゃないか。私には誰一人も…っ」
「将軍…。」
ハボックは蹲るカールの肩を抱くと言った。
「よく目を開いて、耳を澄ませてみて下さい。きっと誰か側にいるはずです。アンタがここまでやってこれたのは
アンタ一人の力だけじゃないでしょう?」
「…私はお前が欲しいんだっ!!」
バッと顔をあげてハボックの肩に掴みかかってカールは叫んだ。驚いて見開く蒼い瞳にカールは縋りつく。
「私はっ、私は…っ」
そんなカールをハボックは黙って見つめていたが、やがてはっきりと言った。
「すみません、将軍。」
迷いも、哀れみの欠片も感じさせない声に伏せていた顔を上げたカールは、ハボックの瞳がまるでガラス細工の
様に煌めいているのを目の当たりにする。そうして完全に拒絶されたことを知るのだった。
かちゃり、と寝室の扉が開いて、扉に背を向けてベッドに横たわっていたロイはぴくりと体を震わせた。ベッドの側
まできた足音が不意に止まるのに、ロイは耐え切れずに口を開く。
「セントラルに行くんだろう?どうしてここに戻ってきたんだ。」
「オレはどこへも行きませんよ。」
「将軍はお前は断らないだろうと言っていた。」
「たいさ、こっち向いて下さい。」
ハボックはため息をつくとそう言う。だが、ロイは小さく体を丸めたまま、ハボックに背を向け続けていた。
「行きたいなら勝手に行けばいいんだ。」
子供の我が儘のような物言いに、ハボックはもう一つため息をつく。
「アンタがここにいるのに、オレがどこへ行くっていうんスか?」
オレの居場所はアンタのいるところにしかないのに、ハボックはそう言うと横たわるロイの肩を抱いた。
「どこにも行かない。たとえアンタがオレをいらないと言っても、絶対に離れない。」
耳元に囁かれる声に、ロイの体が小刻みに震える。ハボックが半ば強引にロイの体を振り向かせれば、その黒い
瞳からは涙が零れていた。ハボックの唇が溢れる涙を拭って。
「オレの全部はアンタのものですよ…」
そう囁いて見つめてくる紺青の瞳に、ロイは腕を伸ばすとハボックに縋りついていった。
2007/1/23
拍手リク「こちらのssでもハボの瞳について書かれてるのがあったと思うのですがそ れがメインの内容ではなかったんでできたらそれメインのssが
読んでみたいですー!ハボの瞳の色が欲情(興奮?)すると濃くなる云々で、私はハボロイ派なんでハボロイ希望ですが…。図らずもどっかの
将軍を護った ハボ。その時のハボ(の瞳)に一目惚れしたその将軍。しかしそんなことには全く気付いてない鈍感ハボと心 中穏やかでないロイ、
みたいな。ロイハボだと上官命令で難なく頂かれてしまいそうなので将軍受け(怖) なハボロイが希望です…!!」でございました。今回ハボの瞳の
色を表すに当たって、随分青色を調べましたよー。普段の瞳の色は空色だと思っていて、普段ss書くときは大体空色と表記してきたのですが、
今回はそれだと面白くないので同じ空色を現す「天色(あまいろ)」にしてみました。ジャクになった時の感情が抜け落ちた時の瞳はその天色が
ずっと硬質になる感じかなーと。で、欲情した時はぐっと青みが増して「紺青(こんじょう)」で。今回はこんな感じで書いてみましたが、皆様それぞれ
理想があると思うので、お好きな色を想像していただけたら、と思います。リク主様、大変お待たせいたしましたが楽しんでいただけたら嬉しいです。