「これか…!」
 ハボックは目の前の建物を見上げてそう呟く。全面ガラス張りのその建物の中は緑色の植物に覆いつくされていた。


〜 緑青の腕 〜


 ハボックはロイと一緒にマスタング家の古い別荘へと来ていた。滅多に訪れた事がないというその場所へ、ぽっかりと穴が開いたように出来た休日、ロイが突然ハボックを連れてやってきたのだ。
「使ってないわりには綺麗っスね」
 家中の窓を開けて空気を入れ替えていたハボックが言う。
「定期的に掃除を頼んでいるからな」
 ロイはそう答えるとソファーにドサリと座り込んだ。
「自炊せんと食うもののないところだからな、よろしく頼むぞ」
 そう言うロイにハボックは笑って頷く。予め食材はたくさん運び込んでいたし、滞在はたったの5日だ。普段から二人の食生活全般を仕切っているハボックにとっては大した苦でもなかった。
 その日はお互いにのんびりと過ごし、ゆっくりと風呂に入って酒など飲み交わしながら穏やかに過ごした。夜はいささか羽目を外した気もしないでもなかったが、それでも夜が更けた頃にはロイと抱き締めあいながら眠りに落ちていた。
 そうして2日目の朝を迎え、朝食を済ませると本を読み始めたロイをおいてハボックは別荘の外へと出て行ったのだった。

「でけぇ温室…」
 ハボックはガラスの壁に手をつけて中を覗きこみながらそう呟く。朝の食事の席でロイから別荘の裏手に大きな温室があると聞いたハボックは興味を駆られて見に来ていたのだった。ガラスのすぐ傍は緑の葉に埋め尽くされて中を見る事が出来ない。ハボックは壁づたいに歩いて扉を見つけるとグイと押して中へと入った。
「うわ…」
 天井まで緑に覆いつくされたそこは別世界のようだ。ハボックはあたりを見回しながらゆっくりと奥へと足を進める。温室と言うだけあって中は相当に蒸し暑く、ハボックは瞬く間に汗だくになった。
「花とかないのかな」
 何となく自分のイメージとしては温室には色鮮やかな南国の花が咲き乱れているような気がしていたが、この温室にはひたすら緑の葉しかなかった。
「なんだか蔓植物ばっかみたいだ…」
 ハボックがそう呟いたとおり、緑の葉はくねくねと這い回る蔓から生えていた。それは温室中を這い回り覆いつくしている。そんな植物を見ながら歩いていたハボックだったが、ふと視線を感じたような気がして立ち止まった。きょろきょろと辺りを見回すが人影など見当たらない。気のせいだったかと歩き出したハボックは、ますます誰かに見られているような気になって足を止めた。
「……」
 なぜだか首の後ろがチリチリとする。ハボックはゾクリと身を震わせると今来た道を戻り始めた。足早に歩いていた足が入口につく頃には駆け足になってハボックは飛びつくようにドアノブに手を伸ばす。ガチッと鳴ったそれはだが、押しても引いてもまったく開こうとはしなかった。
「あかない…っ?!」
 入ってきたときは鍵などついていたようには思えなかった。だがいくらノブを回しても扉はびくともしない。背中に感じる視線がますます強くなった気がして、ハボックはガチガチと扉を鳴らした。
「チキショウっ、なんでっ?!」
 押しても引いても全く開く気配のない扉にハボックは舌を鳴らすとあたりを見回す。いささか乱暴だがこの際ガラスを割ってでも外へ出なくてはという、切羽詰った何かに急かされる様にハボックはガラスを割れるような、石なり枝なりを探した。だが、見渡す限り緑の蔓と葉しかないそこにはガラスを割れるような硬いものは見当たらない。地面を見回していたハボックは何か違和感を感じて数度瞬いた。そうして次の瞬間さっきまでは見えていた地面の土が緑色に覆われている事に気付く。ハッとしてあげた視線の先はびっしりと蔓で覆われ、扉は厚い緑の壁の向こうに消えていた。
「…っっ!!」
 ゾッと背筋を震わせて、ハボックは恐怖に見開いた目であたりを見回す。だが、どこにも出口など見当たらず、ハボックは浅い呼吸を繰り返した。その時。
 シュルルルッッ!!
 何かが滑るような音がしたと思った瞬間、ハボックは足首をグイと引かれて地面に倒れ伏す。驚いて自分の足を見やれば蔓が幾重にも足首に絡み付いていた。
「っ!?」
 ハボックは恐怖と混乱に陥りながらもポケットからフォールディングナイフを取り出すと蔓に切りつける。するとそれはまるで痛覚があるかのように震えてハボックの足首を離した。蔓が離れた途端、ハボックは立ち上がって温室の中を走り出す。だが、そのハボックの足首を再び蔓が捉え、ハボックはもんどりうって倒れこんだ。
「クソッ!!」
 ハボックは足を引かれながらも体を起こすと蔓を切りつけようとする。だが、今度は他にも伸びてきた蔓がハボックの手首に巻きついた。
「なっ…離せっ!!」
 ハボックは捕られた手からナイフを持ち替えると必死に切りつける。しかし、次から次へと伸びてきた蔓に腕も脚も全て押さえ込まれて身動きが取れなくなってしまった。
「チキショウッ!離せっ、このっ!!」
 それでもハボックは渾身の力を込めてもがく。ここまで押さえ込まれても諦めようとしないハボックに、蔓が焦れたように震えると新たに伸びてきた一本がハボックの首に巻きついた。
「グッ!!」
 食い込んでくる蔓にさすがのハボックも抵抗の術をなくす。震える指先からナイフが零れ落ち、苦しげに呼吸するハボックの瞳から急速に光が失われていった。
「たい…さ…」
 僅かな空気と共に言葉を吐き出したのを最後に、ハボックの意識はぷっつりと途切れた。

 ガサリと音がして、誰かが温室の中を歩いてくる。その人物は屈み込んでハボックが落としたナイフを拾い上げるとパチンと刃を閉じポケットに捻じ込んだ。それから蔓によって空中に磔のように掲げられているハボックを見上げる。近くの太い蔓を撫でながら言った。
「やり過ぎだぞ。殺してしまったらどうするつもりだったんだ。お前たちは私の分身のようなものだから今回赦しはしたがアイツを傷つけたりするようなことがあれば温室ごと燃やすからな。肝に銘じておけよ」
 黒曜石の瞳に怒りを滲ませてそう告げる男の言葉に、温室中の緑がざわりとざわめいたのだった。

 宙高く張り付けにされたハボックの体を蔓がぞわぞわと這い回る。そのうちの細い一本がハボックの薄く開いた唇の中へと潜り込み口内をぬめぬめと這い回った。
「ん…」
 体を這い回る異様な感触にハボックの意識が覚醒していく。ハッと気付いたハボックは口の中に入り込んだ蔓を必死に吐き出した。
「ハッ…な、何なんだよっ、これっ!」
 ハボックがそう叫ぶ間にも蔓はハボックの体を這い回る。暫くの間服の上からハボックの体を弄っていた蔓はやがて少しずつシャツの中へと潜り込み始めた。
「やっ…ヤダッ!」
 どこからか伸びてきた何本もの細い蔓がハボックのベルトを探っていたかと思うと器用にそれを外し始める。引きちぎる様にボタンを外すとズボンの中へとズルズルと潜り込んでいった。
「ヤダッ、やめろッ!!」
 ズボンに潜り込んだ蔓はハボックの中心に絡みやわやわと弄び始める。次々と中へと潜り込む蔓の多さにズボンの布地が悲鳴を上げるように裂け、バラバラと裂けた布地が地面へと落ちていった。蔓はハボックのシャツの中にも潜り込み、その白い肌を嬲る。そのうちの何本かはまるで遊ぶようにシャツに巻きつくとそれを引き裂き、ハボックはいつしか身にまとっていたものを全て剥ぎ取られていた。細いものは指先程度、太いものはハボックの腕ほどもある蔓が何本も何本もハボックの体をうねうねと這い回る。緑の蔓は細かいイボに覆われ、這い回るそのイボに擦られるにつれ、ハボックの中に官能が呼び覚まされていった。
「あ…な、んでっ」
 ゾクゾクと背筋を這い上がる快感にハボックは力なく首を振る。こんなわけの判らないものに体を弄られて快感を感じ始めた自分が情けなくて、ハボックの瞳に涙が滲んだ。いつしか、蔓は薄っすらと透明の液体を分泌し始め、それがハボックの体をぬらぬらと光らせる。その液体は甘い香りを放ち、ハボックの意識はいつしか朦朧としてきていた。
「あっ…あんっ」
 脚に巻きついた蔓がハボックの脚を左右に大きく広げ、その中心に蔓が巻きついて蠢く。まるで手のひらで愛撫する様なその動きに、ハボック自身はそそり立ち蜜を零し始めていた。
「ンッ…ハアッ…ヤダ、ヤダっ、こんなのっ」
 感じたくないと思う心に反して、愛撫に慣れた体は僅かな刺激も快感として拾い上げていく。瞬く間に追い上げられて、ハボックはふるふると首を振った。
「あ…ヤッ、イくっ、ヤダッ、ヤダァ…ッッ!!」
 ハボックは必死にこらえようとしていたが、所詮無駄な足掻きでしかなく、蔓に愛撫されるままにハボックは熱を吐き出してしまう。見開いた空色の瞳から涙を零しながら、ハボックはびゅくびゅくと白濁を撒き散らした。
「アアアッッ」
 喉を仰け反らせてハボックが吐き出したものを、まるで奪い合うように蔓が伸びてきてその身で拭き取っていく。新たな蔓が再びハボックの中心へ絡みつき、同じように弄び始めた。それと同時にハボックの胸ですっかりと紅く色づいている飾りにも蔓がうねうねと這い回る。ハボックは喘ぎながら少しでも快感を逃そうとふるふると首を振った。
「いや、だ…こんなの…っ」
 だが、ハボックの意思に反して体は蔓の愛撫にこたえて震えてしまう。熱い息を吐き出すハボックの唇に太い蔓が入り込んだかと思うとじゅぶじゅぶと口内を犯した。
「んっ…んんっ」
 ハボックは涙を滲ませ、必死に舌で押し出そうとするがなかなか上手く行かない。そのうち、蔓はふるりと震えたかと思うとハボックの口内に甘い汁をブチュッと吐き出した。
「ゴホッ…ハッアッ」
 吐き出された大半を飲み干して、ハボックは咳き込む。もう、抗う気力もなく、ハボックは蔓が与える快感に身を委ねていった。




 体に巻きついた蔓がハボックの胸を、腹を愛撫する。首筋をぬめぬめと蔦が這い上がり耳の中を細い繊毛が嬲った。
「あ…アッ!」
 ビクビクと震えるハボックの中心を幾つもの蔓が入れ替わり立ち代わり巻きつきその蜜を搾り取っていく。袋にはびっしりと細かい蔓が巻きついて、まるでそれを握り締めているように見えた。
「う…アッ…ヒウッ…ヒャアッ」
 全身を蔓が分泌する液体に濡らされて、ハボックは喘ぐ。もう、自分を犯しているのが蔓なのだということすらはっきりとはわかっていなかった。そうしてついに大きく開かれたハボックの体の奥へと蔓がさわさわと伸びてくる。双丘を割り開き、その奥で戦慄く蕾の入口を細い蔓が嬲り始めた。
「アッ!」
 流石に奥に触れるものにビクッと震えたハボックの意識がはっきりとしてくる。まるで入口をノックするかのように蕾にちょんちょんと触れてくる蔓にハボックは首を振った。
「嫌だッ…ソコだけはヤダッ…ヤダッ!!」
 そう叫ぶハボックはだが身動きひとつ出来ない。ハボックの恐怖を楽しむように入口を嬲る蔓の動きにハボックは声にならない悲鳴を上げる。このまま犯されてしまうのかと絶望に駆られた瞳がふと、蔓の向こうに佇む人影をみつけた。
「え…?」
 太い蔓に背を預けて腕組みをしながら楽しそうにハボックを見上げるその黒曜石の瞳にハボックは目を瞠る。信じられない気持ちでその人物を見ていたハボックは、蕾の入口をぐにぐにと嬲り始めた蔓に悲鳴を上げるとその人の名を呼んだ。
「たいさっ…たいさっ、助けてっ!!」
 だが、ハボックがよく知っているはずのその人はハボックの悲鳴にも身動きひとつせず、ただ楽しげに見上げているだけだ。その様子にそれがよく似た誰かなのかと一瞬思ったハボックだったが、その強い輝きを放つ瞳を持つ人物が他にいる筈もなく、ハボックは震える声でその人の名をもう一度呼んだ。
「たいさ…お願い…たすけて…っ」
 ハボックがそう言ったとき、入口を嬲っていた蔓がグイと中へと潜り込み始める。
「い、やっ!!」
 ゾクッと背筋を悪寒が走りぬけ、ハボックの唇から拒絶の言葉が上がった。
「嫌だッ…ヤダッ…たいさっ、たいさぁっっ!!」
 だが、ロイは楽しげに見つめるばかりで指一本動かそうとしない。蔓はずぶずぶと自身の吐き出す分泌液のぬめりを借りてハボックの中へと潜り込んでいった。
「あ、あ、あ」
 おぞましさにハボックの全身が粟立つ。ドンドンと奥へと進んでいくそれに、ハボックは必死に首を振った。
「ヒ…深い…っ、そ、んなっ」
 突き破られるのではという恐怖にハボックは浅い呼吸を繰り返す。やがて蔓は流石にそれ以上進むことが出来ないと気付いた様に、奥へと進むのをやめたかと思うと、今度はズズズッと一気に抜き出てきた。
「ヒアアアアッッ!!」
 太い蔓がハボックの蕾をいっぱいに押し開きながら中へと進んだかと思うと、一気に戻ってくる。その太い身に無数についた突起に熱い内壁をこすられて、ハボックは身悶えた。
「ヒッ…ヒィイッ…アッアッ…イ、ヤアッ!!」
 快感がうねりとなって押し寄せ、ハボックは熱を吐き出してしまう。下肢を犯すそれだけでなく、胸を腹を背を無数の蔓に愛撫され犯されて、ハボックは身悶えた。そして。
「み、ないでっ…ヤダッ!!」
 ロイの強い瞳が犯されて喘ぐハボックの全身を舐めるように見つめるのを感じて、ハボックは泣きながら懇願する。こんな浅ましくもいやらしい姿を好きな相手に見られる事にショックを感じながらも、そのことで余計に感じてしまう自分をどうすることも出来なくて、ハボックはボロボロと涙を零した。
「ヒャアアアッッ!!」
最奥を蔓に突かれてハボックは何度目になるか判らない熱を吐き出す。全身が快楽に染められて、もうどうすることも出来なかった。
「アッ、ヒィッ…アンッ…アアッ」
 蔓のなすがままに喘いでいたハボックだったが、不意にズルズルと抜き出す感触に悲鳴を上げる。体に巻きついていた無数の蔓がハボックの体を離れ、気がつけばハボックに巻きついているのは手足を拘束する数本の蔓だけだった。
「あ…な、に…?」
 突然途切れた愛撫にハボックが力なく身じろぐ。その時ズズズと重たいものが這い回る音が聞こえ、ハボックが熱に潤んだ瞳を向けると、そこには一際太くぬらぬらと濡れそぼった、一見してこれまでのものとは明らかに違う蔓がその鎌首をもたげていた。
「あ…」
 ハボックの脚を拘束している蔓がグイと更に脚を押し広げ、細い蔓がその奥の蕾の淵を広げる様に押し開く。すると、そこを目がけて鎌首をもたげていた蔓がするすると上に伸びてきた。
「ヒ…ヤ…ッ!ヤダッ!!助けてっ!!たいさ、たすけてっ!!」
 脚を大きく開かれて、ハボックは唯一自由になる首を激しく振るとロイを呼ぶ。だが、黙ったまま昏い瞳でじっとその様子を見つめているロイの姿にハボックの心を絶望が占めた。その時、伸びてきた鎌首がハボックの蕾に触れる。
「…ッッ!!」
 ビクッとハボックが大きく体を震わせた瞬間。ズブズブと鎌首がハボックの中へと押し入ってきた。
「ヒィイイイイアアアッッ!!!」
 ハボックの背が仰け反り、唇から絶叫が上がる。鎌首は一気にハボックの最奥まで突き入ると、容赦なくハボックを嬲り始めた。
「ヒアアッ…アッアッ…イヤッ…ヒイィッ!!」
 じゅぶじゅぶといやらしい水音が響きハボックの嬌声がその上を流れていく。ハボックは身悶える自分をロイの瞳がじっと見つめていることを感じながら、声を上げるのをやめられなかった。むしろ犯される蕾に注がれる視線がハボックの快感を煽り、ますます嬌声が高くなる。
「アッ、アンッ、アッアッ…イ、くぅ…!」
 宙吊りに開かれた脚の間に深々と蔓の鎌首を迎え入れ、白濁を撒き散らしながらハボックは喘ぐ。快楽に全身を染め上げられて、ハボックはもう何も考えられなかった。
「うんッ…アッアッ…ひゃあんっ!!」
 びっしりと蔓に覆われた温室の中では時間は意味を成さず、ハボックはただ愛撫に身を任す。もう、どれ程嬲り続けられていたのか、ハボックの吐き出す熱が、殆んど粘性を持たなくなった頃、ハボックの蕾を犯し続けけていた鎌首がグググと嵩を増した。そして。
「ヒャアアアアアッッ!!」
 大量に叩きつけられる熱にハボックは目を見開いて背を仰け反らせる。ガクガクと震える体にたっぷりと熱を注ぎ込むと鎌首はズルズルとその身をハボックの中から引き抜き、そうしてそのまま緑の森の中へと消えていった。
「あ…」
 宙を見つめるハボックが、やっと解放されたのかとぼんやりと思った時、シュルルルルという音と共に何本もの蔓がハボック目がけて伸びてきたかと思うと、たった今まで太い蔓が埋め込まれていた蕾へと潜り込む。
「ヒィィイィッッ!!」
 ずぶずぶと入り込んできた蔓は蠕動を繰り返したかと思うと、次々と粘液をハボックの中へと吐き出していった。
「…っ!!ッッ!!」
 叩きつけられる熱にハボックはビクビクと体を震わせる。やがてハボックを犯していた蔓たちはズルズルとその身を引き抜き森の奥へと消えていき、そうして、後には打ち捨てられたようにハボックの体が横たわっていたのだった。

 暫くするとハボックの体がビクリと震え、その瞼がゆっくりと開いた。その空色の瞳が力なく温室の天井を見上げていたが、突然カッと大きく見開いたかと思うと、ハボックの手が掻き毟るように地面を掴んだ。
「イッ…アアアアアッッ」
 腹部を襲う激痛にハボックは身悶える。
「いた…アアッ」
 ハボックは四つん這いになって顔を地を這う蔓にこすりつけるようにして喘いだ。何かが腹を突き破るような感触に、ハボックの体を冷たい汗が流れる。その時、しゅるんと伸びてきた蔓が、ハボックの開いた口に潜り込み甘い液体を零した。
「んっ…んんっ」
 その甘さに朦朧とするハボックの下肢を更に伸びてきた蔓が押し開く。散々に嬲られ、柔らかく解けた蕾に潜り込むとハボックの中に出来た丸いものを取り出そうと蠢いた。
「グゥ…ウウッ!!」
 尻だけを高く掲げて圧迫感に呻くハボックにロイがゆっくりと近づいていく。ハボックの中に入り込んだ蔓を引き抜くと指を潜り込ませ、中から緑色の丸いものを取り出した。
「ほら、これでいいだろう?」
 そう言ってロイが差し出せば幾つもの蔓が争うようにそれに巻きつく。奪い合うように頭上高くへと掲げ上げられたそれは蔓に巻きつかれパアンという音と共に割れた。割れたそれからは薄紅色の胞子が舞い上がり、温室中へ広がっていく。それを暫く見つめていたロイは気を失ってしまったハボックの体を抱え上げ、そうして静かに温室を出て行ったのだった。

「あれ…?」
 ポカリと浮かび上がった意識にハボックは目を開くと天井を見上げる。自分が置かれた状況を咄嗟に把握出来ず、必死に思い出そうとしていたハボックだったが、カチリと音を立てて開いた扉へと視線を向けた。
「目が覚めたか?」
 トレイにグラスを載せて入ってきたロイは、ベッドサイドのテーブルにそれを置くとハボックの額に触れる。
「熱はもう下がったようだな」
「熱?」
 不思議そうに聞くハボックにロイは苦笑した。
「覚えてないのか?お前、温室の入口で倒れてたんだぞ。酷い熱で3日も寝込んで、おかげで休暇もパアだ」
「温室の前で…?」
 そう呟いた途端、ハボックの脳裏にまざまざとあの温室での光景が蘇える。咽るほどの緑。はびこる蔓。意志を持って襲い掛かってきたそれになす術もなく犯される自分。そして。
 ハボックはハッとしてロイの顔を見上げる。その黒い瞳はあの時犯される自分を黙って見つめていたそれと同じで。
「どうした、ハボック」
 うっすらと笑みを浮かべて尋ねるロイにハボックは言葉を見つけられない。落とした視線をウロウロと彷徨わせるハボックにロイは笑うと言った。
「温室を見に行かないか?もう起きられるだろう?」
「えっ、で、でも、オレ…っ」
「あそこで倒れてたということはまだ中を見てないんだろう?」
「でも…」
「ハボック」
 名を呼んで見つめてくる強い瞳にハボックは抗う術もなく差し出された手を取る。そのまま支えられる様にしながら温室へとやってきた。恐ろしくて顔を上げられないハボックをロイが促す。
「ハボック、顔を上げてみてみろ」
 言われてハボックは何度か息を吸い込むとゆっくりと顔を上げた。そうして目の前に広がる光景に息を飲む。
「これ…」
「10年に一度だけ花をつけるんだ。今年が丁度その10年目だ」
 ロイはそう言うとハボックの肩を抱いて歩き出した。暫く行くと一際大きな蔓の先に見事な空色の花が咲いているところへと辿り着く。目を見開いて見上げるハボックにロイが言った。
「つける花の色はその時々で違うんだ。今年はお前の瞳の色と同じだな」
 ロイがそう言えば、縋りつくハボックの手に力が篭る。ロイのシャツを握り締めてその花を見つめていたハボックはロイの胸に顔を寄せると言った。
「戻りましょう、ここにいるのは嫌っス」
「どうした?何をそんなに怯えている?」
「たいさっ」
 ハボックはロイのシャツを握り締めたまま声を荒げる。
「オレ、ホントに温室の外に倒れてたんスかっ?ホントは違うんでしょ?あの時アンタ温室に――」
「何を言っているんだ、ハボック」
 穏やかな口調で言葉を遮られてハボックはロイを目を見開いて見つめた。無表情だったロイがうっとりと笑うとハボックの頬を撫でる。優しくハボックを引き寄せると言った。
「あの花はまさしくお前の瞳の色だな、ハボック…」
 そう呟く声にハボックは微かに震える。ロイはハボックに口付けると囁いた。
「愛してるよ、ハボック…私のものだ」
 そう言ってロイは緑の褥にハボックを横たえるとその身を暴いていく。
「たいさ…オレ…っ」
「何も考えるな…何も…」
 そう囁く声にハボックは瞳を閉じる。
 空色の花が見下ろす温室の中で、ハボックは全てを忘れようとするようにロイに縋りついていったのだった。


2008/6/16



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


先日、「強がりLv3」さまの絵チャにお邪魔した折、正義さまに「触手×ハボ」をリクして描いて頂いたのですが、ステキ絵に合わせてssを書くよう、仰せつかりましたー。ギャー!そんなわけで書いてみたのですが、書き終わった後で「触手なんだから蔓でなくてもよかったんだ!」と言う事に気付きまして。軟体動物にぬめぬめされるハボ、そんなのでもよかったかもなー。もし触手が赤かったら蛸×ハボとかになっていたかもしれません(苦笑)
最後、ちょっと上手く説明を入れられなかったんですが、この蔓、ロイが若かりし日に自分の遺伝子組み込んで練成したシロモノで、ずっと放置状態だったところ、突然「花を咲かせたい」っていう念波(笑)をロイに送りつけてきたってことになってます。なのでロイの分身(笑)分身と本体に喰われてしまったハボでした(苦笑)
ステキ絵を描いていただいたばかりか思いがけずss錬成の機会もまで頂いちゃいました。正義さま、ステキ絵をありがとうございましたー!!