チョコレート戦争   by J.A.



『今日はチョコの日』


「……これは、何だね?」
 昼休みの執務室。一人食後のデザートを楽しむハボックを楽しんでいたマスタングは、思い出したように渡されたプリントを眺めて訊ねた。
「ヒース大尉からです。大佐に渡しといてくれって」
 そういいながら、ハボックはスイーツ倶楽部のメンバーが差し入れた“ワガシ”を幸せそうに食べる。その様子を一頻りほんわかと眺め、マスタングは改めて手元のプリントへ目をやった。
「何々?―東方の島国では、2月14日に女性から男性にチョコレートを送って愛を告白すると言う風習があります。それを受け、当協会もこの日をチョコレートの日とし、チョコレート・フェスティバルを開催したいと思います――ふむ。展示会と、……チョコ・スイーツ品評会?」
「何でも、会員にチョコレートを使ったお菓子のレシピを公募して、コンテストをするみたいですよ。で、大佐にも審査員として参加して欲しいそうです」
「それは別にかまわないが……この特別審査員としてあがっている中にあるのは、」
「ブリッグズのアームストロング少将です。あの人、特別会員ですから」
 北方司令部でも特に重要な北の要、ブリッグズ砦を預かるオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将は知らぬ人とて無い女傑で、ついたあだ名は氷の女王。
 何かにつけ、ホークアイやハボックを自陣へ引き抜こうとする彼女はマスタングの天敵でもある。
「少将はチョコレート好きで有名なんですよ」
 マスタングとの関係をよく知っているハボックは、ちょっと困ったように小首をかしげた。その可愛らしさ(?)にほだされ、アームストロング少将を棚の上に放り投げるマスタング。最近は、甘い物を口にしていなくてもハボックが可愛いvなどと、自分の思考が歪んでいることに気がつかない彼である。
「まあ、いい。それよりも、お前も審査員に名が上がっているが」
「何か、男性会員少ないんでかり出されたんですよ。他は、会長である大尉と特別顧問のヒューズ中佐の奥さんです」
「……じゃあ、もれなくヒューズのやつがついてくるな」
 中央勤務で家族を溺愛する親友の騒がしさを思い、マスタングはうんざりとため息をついた。何しろ、特別顧問を務める妻の記事が読みたいと言うだけでスイーツ倶楽部の準会員になってしまうような男だ。こんなイベントを見逃すはずがない。
「まあ、おかげで司会をやってくれるんで、プラマイゼロと言うことで」
「確かにな。分かった、この日は空けておくよう中尉に伝えておこう」
「お願いします」
 そう言って残りのデザートに手をつけ、ハボックは相変わらずのほんわかオーラをまき散らすのであった。





『レディーーーーッス、エンド、少数派のやろーども!待ちに待った、コンテストの開催だー!』
 さて、スイーツ倶楽部主催チョコレート・フェスティバル当日。目玉の品評会の会場である。わざわざ中央からやってきたマース・ヒューズがマイク片手にテンションを上げ、満員御礼の会場は熱気に包まれていた。
『さぁ、全国各支部から応募されたレシピから、書類審査を勝ち抜いた15品が登場だ!壇上の特別審査員5名と会員、準会員から選ばれた20名の一般審査員による点数投票で優勝者が決まるぞ。まずは、特別審査員の紹介!』
「相変わらず騒がしいやつだ」
 親友のノリにうんざりとコメントするマスタングを、ハボックが苦笑しつつなだめる。と、
「マスタングの青二才が、どんな手を使って倶楽部に取り入った?」
 ひんやり、と言い放ったのはブリッグズの北壁、氷の女王と呼び名も高いオリヴィエ・ミラ・アームストロング少将である。その後ろには、いつものように無口なマイルズ少佐が控えている。
「取り入ったとは、穏やかではありませんね。純粋に、彼女らの活動に賛同しただけのことですが?」
「ふ、ものは言い様だな、女たらしが」
 バチバチと目に見えない火花が散る。
『おおっとぉ?すでに場外では熾烈な戦い勃発か!?チョコレートには一家言ある麗しき北の女王、そして女性至上主義、スイーツよりも甘い焔の錬金術師!!』
 その様子に、おもしろがってはいるヒューズの茶々が、さらに険悪な空気をかき立てる。
「ちょっ!煽らないでくださいよ、中佐!!」
「閣下、そろそろ審査に入りませんと、せっかくの菓子が無駄になってしまいますが」
 慌てて止めに入るハボックとマイルズの言葉に、両雄とりあえずそれぞれ席に着いた。
『さあ、審査員もそろったところで、各支部腕自慢のスイーツの登場だ!!』
 ヒューズの合図で、菓子が運び込まれ、コンテストが始まった。


 次々と運ばれてくるチョコレート菓子は、コンテストに出品するだけありどれも美味ではあったが、元来さして甘い物好きというわけではないマスタングはいい加減辟易していた。
「いい加減胸焼けがしそうだ……」
「でも、こんなにいろいろな種類を一度に食べられる機会って、そう滅多にはないっすよ。みんないろいろと工夫してるしv」
「……幸せそうだな、ハボック」
「はいv」
 にっこぉ〜vと菓子を口にして蕩けるハボックの笑顔に癒されつつも、目が泳ぐのは否めない。と、
「何だ、もうギブアップか、軟弱者め」
 ふふん、と小馬鹿にした表情で言うアームストロング少将は、チョコレート好きだと言うだけあってしっかりと審査作品を完食済みだ。ただし、後ろに控えたマイルズは心持ち顔色が悪い。こちらもマスタング同様、濃厚なチョコの臭気に当てられたのであろうと推測されるが、審査には何の影響もないので誰もが無視だ。
「所詮、付け焼き刃では真にスイーツのすばらしさは理解できまい」
「いや流石に少将の博識にはかないませんよ。これほどの高カロリー食品を残さず食されるその姿勢、いや、ご立派ですとも」
 表面上はにこやかに揶揄するマスタングの言葉に、少将の額に血管が浮かぶ。
『おおっとぉ?熾烈なスイーツの戦いに、審査員席では場外乱闘勃発か!?』
 バチバチと飛び交う火花に、ハボックはおろおろしマイルズは諦めたように軽く肩を竦め、その様子を目敏く見つけたヒューズが煽る。
「ふん、こんな無能の下にいても将来は高がしれているぞ。さっさと見限って北へ来い、ハボック」
「ハボック!こんな冷血人間の言うことなど聴くんじゃない!いずれ大総統になる私に付いてくれば間違いはない」
「ふん、身の程知らずな奴め」
「チョコの食べ過ぎで動きが鈍られたんじゃありませんか?閣下」
「お二人とも、場所柄を弁えてください」
 今にも掴みかからんとする両雄を諫めたのは、それまで成り行きを見守っていたスイーツ倶楽部会長のアイリーン・ヒース大尉と、
「あらぁ、お菓子はみんなで楽しく食べないと。ね?」
 おっとりとした特別顧問のグレイシア・ヒューズ夫人だった。
『そうだ!うちの奥さんの言うとおり!!』
「黙れ、この節操なし愛妻家!!」
 ころっと変節する司会者に皿を投げつけ、マスタングは小さく咳払いをした。
「いや、すまなかった、大尉、グレイシア。少し熱くなりすぎたようだ」
 アームストロング少将もややばつが悪い顔で席に落ち着く。
「お気持ちは判りますが、ここはスイーツ倶楽部、階級や性別を超え、甘味をこよなく愛する集まりです。そして、会則第27条第一項目、何人たりともこれを権力、武力その他を行使し従わせることを禁じ、これに違反した場合東都甘味研究会より永久追放するものとする。これは、特別会員、スポンサーといえども厳守していただきますので、あしからず」
 毅然としたヒース大尉の言葉に、会場から拍手がわき起こった。マスタングが思う以上にハボック人気は倶楽部内で高いのである。
「……禁止条項までくっついているって、特別保護対象動物か、お前は」
「は?」
 判っていないのは、本人だけらしい。
 甘味をこよなく愛し、そのほんわかオーラで周りを虜にするハボックはスイーツ倶楽部のアイドルである。が、本人はそんな自分の立場をまるで判ってはいない。まあ、この倶楽部に出会うまで、大男で甘い物好きという事でそれなりに肩身の狭い思いをしてきたようなので無理もないが。
「ともあれ、審査を続けましょうね。まだまだすてきなお菓子があるんですもの」
 特別顧問の鶴の一声で、コンテスト再開と相成った。が、
「よかろう、この後の審査で決着をつけてやる」
「望むところですよ、少将」
 あんたら、いったい何の決着をつける気なんですか、と会場中が思ったとか思わなかったとか。


 まあ、そんな寄り道なんかもあったが、コンテストは順調に進む。
「あ、これ、オレンジが入ってるvうまぁvv」
 ほんわか、ふんわりとハボックがコメントする度に会場から歓声ともため息とも着かないどよめきがあがる。特に前列に配された一般審査員たちは彼の表情に見とれた後にその作品の点数をつけているようだ。
「あら、こっちのも食感が軽くておいしいわv」
「こちらのもなかなか、ホワイトチョコとのマーブルがきれいだわ」
 そして、ヒース大尉とグレイシアの的確なコメントも、会場からの関心(と、愛妻家のはた迷惑なまでの大賛辞)を集めた。
 だが、
「ハボック、こっちの菓子もなかなかいけるぞ」
「いや、こっちの方がお前好みだろう」
 まるで好きな子を取り合いする子供のように左右から菓子を勧めるマスタングとアームストロング。どうやら、どちらがよりハボックの興味を引くかで勝負をする気のようだ。何とも大人げない。
「口溶けがすごいいいっすねvどうやって作ったのかな?
 あ、これ甘さ控えめだ。でも、苦いだけじゃなくてバランスいいなぁ。これなら大佐も大丈夫でしょ」
 そして、取り合いされているハボックは、ただただ目の前の好物に気を取られ、そんな上官たちの思惑も知らぬげににこにことチョコ菓子を口に運ぶ。
「まあ。まるで好きな子の気を引こうとしている小学生みたいv」
「必死にアピールしているけれど、肝心の相手はまるっきり気がついてくれない典型的なパターンですね」
 その横で良識派の二人も容赦ない。
 そうこうするうち、エントリーされた作品は出尽くし、
『あ〜、審査の方も盛り上がってきた、みたいだし?さあ、いよいよ審査結果の発表だ!!』
 司会の合図で会場から拍手が湧き起こる。
 が、何故か審査員席が騒がしい。どうやら、審査結果でもめているようだ。やがて、審査員を代表してヒース大尉が立ち上がる。
「厳正な審査の結果、中央司令部のブレンダ少尉と西方司令部モーガン准尉の作品が同点一位となりました。よって、協議の上同点決勝を行いたいと思います」
『おおっとぉ!?これは予想外の展開だ!すばらしい作品に優劣着けがたく決戦に突入だ!』
「どっちも一番でいいじゃないですか」
 会場のどよめきの中、ハボックがぽつりと言うと、
「何を言うか、ブレンダ少尉の作品の方が洗練されていてすばらしかっただろう」
「いや、モーガン准尉の作品の方が大人向けで美味かったじゃないか」
 すかさずアームストロングとマスタングが反論する。そう、優劣着けがたい作品をそれぞれが推して譲らずに急遽決勝戦が決まったのである。
「でも、どっちも俺はおいしかったし、どっちがいいと言われても……」
 二人の上官に挟まれたハボックは、心底困った顔で小首をかしげた。
「ブレンダ少尉のは、とても繊細でバランスもよかったし。高級感がスイーツファン心理をくすぐると言うか、お得感がありましたし。モーガン准尉の作品の方も、おもちゃ箱みたいにカラフルでかわいくって味もちょっと思いつかない組み合わせがおもしろかったじゃないですか。それぞれにいいところがあるから、どっちが一番だなんて決められませんよ」
 困惑してる顔もかわいいーvとそこかしこから上がる声。おおむね女性たちからの歓声だが、所々混じっている野太い声もあった。
「そうねぇ。どちらも特色があっておいしいし、見た目もきれいだもの。決められないわよねぇ」
「ええ。このコンテスト自体お祭りの一環ですから、無理に優劣をつける必要はないのですが……」
 こっちがいい、いや、こっちだと言い合うアームストロングとマスタングを見やり、グレイシアやヒース大尉も困惑のため息を吐いた。
『こらー!ロイ、グレイシアを悩ますなー!』
「うるさい!司会は黙ってろ!!」
「そうだ、ここで決着をつけなくては遺恨を残す事になるからな」
 諫める(?)ヒューズの声もこの二人には馬耳東風だ。
「仕方有りませんね。ここで逆らって暴れられても面倒ですし。決勝戦の方法なのですが……」
「でしたら、ここでもう一度お二方に菓子を作っていただいて、それを審査してはいかがですか?」
 そう提案したのは意外にもマイルズ少佐だった。
「すぐには無理かもしれませんが、幸いここには材料もそろっているようですし」
「あら、それいいアイデアだわv」
 その提案に特別顧問も諸手を挙げて賛成する。
『よぉっし!決まったー!決勝戦は直接対決だー!!』
 もちろん審査員一同異論が有るわけはなく、休憩時間を挟み決勝戦と相成ったのである。


「助かりました、少佐」
 休憩時間中である。上官たちがそれぞれ控え室に入った後、ハボックはマイルズに声をかけた。
「いや。お互いにわがままな上司で苦労するな」
「全く、どうしてあの人たちはああして張り合うんでしょうねぇ」
 お互い、上を目指す人だから対抗意識が強いんでしょうか?と、本当に困った、といった顔でため息を吐くハボックを、マイルズは何ともいえない顔で眺めた。
「取り合いされている本人は、全く自覚なしとはな」
「は?」
「あの人たちがああも張り合うのは、それぞれに君を手元に置きたいと思っているからじゃないか」
「はあぁ!?なんっすか?それ」
 マイルズの言葉に、ハボックは素っ頓狂な声を上げた。
「本当に判ってないのか、君は」
「いや、だって、確かに少将からはホークアイ中尉と北へ来ないかとは言われましたけど、そりゃぁ使えそうだと評価してもらったのはうれしいですけど、俺、東方司令部付きですし大佐について行こうと思ってるんでお断りしたし。大佐だって、今更自分の部下を取り合うだなんておかしいじゃないっすか」
「あ〜、まあ、そう言うのとは違うんだがな……」
 戦闘となれば思いもしない切れ味と鋭さを見せる青年士官の、この無邪気さに思わずマイルズも苦笑したその時だった。
「ハボック!!そんな奴と話していないでこっちへ来い!」
 やってきたマスタングがハボックをマイルズから引き離す。
「何ですか!?いきなり!!」
「うるさい!敵方と仲良く話してるんじゃない!」
「敵方って、あんたねぇ……」
 あまりにも子供っぽいマスタングの言い分にハボックはがっくりと肩を落とし、申し訳なさそうにマイルズを見やった。流石にマイルズも苦笑するしかないようで軽く肩を竦めお互いを視線で慰め合う。
「ともかく、決勝戦がすむまで私の側から離れるんじゃない」
「はいはい、判りましたから。それじゃ、少佐、また後で」
「ああ、ではな、少尉」
 ここに置いておくと何をしでかすか判らない上司を追い立てるようにハボックはその場を去ってゆく。それを微苦笑して見送るマイルズの背筋を、
「どうせなら、、そのまま懐柔すればよかったものを……」 
 氷点下のつぶやきが凍らせた。
「しょ、少将?」
「ったく、気の利かん奴だ。ハボックをこちらへ取り込むよい機会だったのに」
 女王陛下はいたくご機嫌斜めだ。
「お前を始め、ブリッグズの連中は癖の強い奴らばかりだからな。ああいう癒し系は貴重なんだ」
「はあ、申し訳ありません」
「まあ、いい。ここでマスタングを叩いておけば、ハボックを手に入れやすくなるしな」
「お願いですから、穏便にお願いします、少将」
 ふふん、と鼻で笑う上司に、マイルズもまた肩を落とすのであった


 さて、休憩も終わりステージには急遽作られた調理台。緊張の面持ちで中央司令部のブレンダ少尉と西方司令部のモーガン准尉がスタンバイする。
『さぁ、いよいよ決戦の直接対決!!制限時間は60分!!果たして、両選手は審査員たちを満足させることができるのか!?』
「中佐、二人に変なプレッシャーかけないでください」
 すっかり固くなっている選手の様子にヒース大尉が苦言を呈する。グレイシアも、めっと夫を睨み付ける。ただでさえそれぞれ背後から一癖も二癖もある将校が無言のプレッシャーをかけているのだ。
「二人とも、楽しんで。どちらも腕はいいんだから、気楽においしいの、作ってくださいよ」
 励ますようにハボックが微笑むと、空気が一気に和らいだ。スイーツモードのハボックは無敵だ。
『なんだよー、わんこはいいのか!?』
 妻に怒られていじけたヒューズの文句は、満場一致で無視された。


『気を取り直して、競技スタート!』
 司会の声を合図にそれぞれが調理にかかる。60分で一品以上のスイーツを。助手は2人までOKで、目の前で繰り広げられる生調理にスイーツ好きの会場は大盛り上がりだった。
「やっぱ、2人とも手際がいいっすねぇ」
 みるみるうちに作られてゆく菓子の様子に、うっとりとした表情でハボックが感嘆した声を上げた。
「本当ねぇ。あら、ミルクとチョコレートの配合、いいわね」
「生地にアーモンドの粉末を入れていたんですね、それであのさっくり感が出ていたんだわ」
 その手際に興味津々な女性陣もこの機会に技を盗もうとステージを見つめる。一方、この事態を煽った2人と言えば、すっかり蚊帳の外で手持ちぶさただ。元々マスタングはあまり甘いものに造詣は深くないし、アームストロングも食べる方専門だ。作る様子を見ていてもあまり楽しくはないのである。
『流石に最終決戦に残った精鋭揃い!どちらもすばらしい腕前で菓子を作ってゆくぞ!さあ、残り時間もあとわずか!!勝利を掴むのは果たしてどちらか!?』
 会場が盛り上がる中、調理終了の合図が響きいよいよ審査の開始だ。
 作られた菓子が審査員たちの前に運ばれる。ブレンダ少尉の作品は暖かさが命のフォンダンショコラ、モーガン准尉の作品は素朴なチョコブラウニーだった。
「これは、またシンプルな」
 だが、それだけに作品の善し悪しは一目瞭然だ。
『さあ、特別審査員は作品を試食して点数をつけてください!一般審査員は、両選手の調理手順やレシピを審査、それぞれ点数をどうぞ!!』
 ざわめく会場の視線を浴びて特別審査員たちが作品を口へと運ぶ。
「ほう!これはなかなか……」
「あの短時間で作ったにしては、よくできているな」
「このフォンダンショコラ、とろりとした感じがとてもいいわぁv」
「こちらのブラウニーも素朴でいいですね」
 やはり優劣着けがたい作品に審査員たちが苦慮する中、
「うっ、まぁ〜v」
 ほわわぁ、と笑顔全開でハボックがほんわかオーラをまき散らす。
「すげぇ、美味い!中のチョコもとろりとしてて、外側も口当たりいいし、う〜〜、幸せv」
 そのかわいらしさに、会場中が思わず見とれる中、さらにブラウニーをぱくつき、
「うはぁvこっちもうまぁv生地がしっとりしていて、中のクルミのバランスも最高v」
 ふにふにと笑み崩れる様子に、もはや誰も言葉が出ない。張り合う2人の将校も、この瞬間は争うことを忘れたようだ。会場のそこかしこでばたばたと慌てたように駆けだしてゆくような足音は、数少ない男性会員だろう。一様に鼻を押さえているのは、決してチョコレートの食べ過ぎではない。
『あ〜、なにやら騒がしいが、投票の開始だ!特別審査員の持ち点5点と一般審査員のより多い挙手を獲得した方が勝利者だ!』
 その声に、まずはステージの5人がそれぞれの持ち点を振り分けて投票する。
「ハボック!なんだこの、2.5点というのは!」
「だって、どっちもおいしくって決められませんよ!」
『おおぉっとぉ?これは、見事に同点だ!!さすがの審査員も優劣をつけられない!!さあ、優勝の行方は一般審査員に託されたー!!』
 会場をざわめきが包む。前列に並んだ一般審査員たちも互いに顔を見合わせなにやら協議する。そして、
「すみません、ハボック少尉、もう一度両方の作品を召し上がっていただけませんか?」
「へ?俺?」
「はい。お願いします」
 代表して立ち上がった士官の要望に戸惑いながらも、言われたとおりにハボックもう一度菓子を口に運んだ。
「うぅ〜〜〜vやっぱうまぁv」
 フォンダンショコラを一口食べて、にぱぁvと笑えば、えへ〜、とつられ笑いをしながら審査員たちの手が上がる。
「うわぁ、たまんねぇ、この食感v」
 堪らんのはこっちだ!と声にならない悲鳴が響く中、悶絶しながら手を挙げる一般審査員。
『さあ、どちらも出そろったー!果たして勝敗は?んん?おぉっとぉ!モーガン准尉のチョコブラウニーがわずかに多い!!チョコ・スイーツ選手権、激戦を制したのは西方司令部モーガン准尉!!』
 大歓声の中勝敗が決する。
 そして、勝手に代理戦争を繰り広げていた困った上官たちはといえば。
「くっ、マスタングごときに負けるとは……」
 ブレンダ少尉を推していたアームストロングが悔しそうに呟く一方、
「はっはっは!私の目は確かだったようだな」
 もう、これ以上なく上機嫌のマスタング。こちらも決着が付いたようだった。
『どちらも優劣着けがたいこの勝負、勝敗を分けた一因は何だったのか、会長のヒース大尉に説明してもらおう!』
「今回の出展作品は、どれも創意工夫がされはっきり言えば優劣をつけることのできないものでした。が、やはりお菓子は食べる人があってのもの。食べる人がよりおいしく幸せになれる、それが審査の目安となり、ほんのわずかの差でモーガン准尉の作品が評価されたのです。なので、敗した方々も決して劣るものではなく、これを機により一層スイーツを愛し切磋琢磨されることを望みます」
『会長のありがたいお言葉を賜ったところで、これにて協議会を閉幕!フェスティバルはまだまだ続くから、みんな大いに楽しんでくれ!!』
 こうして、波乱のスイーツ大会は大いに盛り上がって幕を閉じたのである。





「でも、正直モーガン准尉が勝ってよかったと思います。ハボック少尉を北へ取られずにすみましたから」
 騒ぎの後、しみじみとヒース大尉は言うのに、
「ハボちゃんはかわいいものねぇ。みんな自分のところへ置いておきたいと思うのよね」
 にっこりとグレイシア・ヒューズ夫人が応じる。
「できれば、このまま東部にいてほしものです」
「あら、中央にだって来て欲しいわ」
 きらりん、とグレイシアの目が光る。
「いえいえ、そう簡単にはお渡ししませんよ」
 ヒース大尉も強気の笑顔だ。
「まあ、いずれマスタング大佐が中央へ招聘されれば別ですが、あの人は上層部から煙たがられていますから」
「まあ、そうなの」
「当分は、本部専属でいてもらいますよ」


「ねえ、あなた。がんばってマスタングさんの力になってあげてねv早く彼が中央に来られるようにv」
「えぇ〜vもちろんグレイシアのお願いなら、何だって利いちゃうよんv」





「今回は勝ちを譲るが、次は負けんからな」
「こちらこそ、遠慮はしませんよ」
「ふ、強気でいられるのも今のうちだ。次の演習、覚悟しておけ」
「望むところです、ハボックは決して渡しませんから」
 ふっふっふ、とおどろ線をまき散らす上司たちの横で、
「君も苦労するな」
「いえいえ、少佐の方こそ。俺なんか中尉に比べればまだまだですよ」
 と、部下同士でほのぼのしていたとかいないとか。


 この後に行われた東方北方合同演習は熾烈を極め、事情を知るものたちからは密かに「チョコレート戦争」呼ばれたという。





ともかく、これにて終幕!
お疲れ様でしたm(__)m


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


ERIA-K9」のJ.A.さまから頂きました。以前頂いた「SWEETS!」の続編になります。もーーーー、相変わらずハボックがメチャクチャカワイイったら!!ほわんとケーキを食べるハボック、癒されますvそしてそのハボックを取り合うロイと女王様の大人気ないこと(笑)いや、最高です!例によってハイテンションなヒューズもクールなヒース大尉もおっとりしたグレイシアもみんなとっても魅力的vそれぞれが一つ一つ味の違うお菓子のようで物凄くステキですvハボックの表情で採点する審査員の面々もいいなぁ(笑)このシリーズを読むたびスイーツ倶楽部に入りたくなりますよ!!
J.A.さま、ステキなハボックとその仲間達をどうもありがとうございました!!