いつの似顔絵オマケ(微パラレル)


 明るさはあるのに、どこかうらぶれた蛍光灯の光と殺風景な壁。
見慣れた光景ではあるが、目の前に居る人物は、見慣れた顔を
しておらずロイは瞼を瞬かせることしかできなかった。

 ロイが気に入っている蒼い瞳と、角度によっては茶色掛かる
金の髪に、醜くない程度に鍛えられた、大柄な体は記憶に重なる。
だがその相貌はロイの知る、表面ににじみ出ていた甘さが削ぎ
落とされ、危地を乗り越えた男の顔を形成していた。
 顎にまばらに見える無精髭も、だらしなさの象徴ではなく
経験からくる艶と色を醸し出している。

「…えっと…ハボック…だよ…な?」
「少将 今日は確かに暇ですけど寝ぼけてないで下さいよ
これとこれは期限が…」
 言い続けようとしたハボックの言葉を遮り、ロイが
自分を指差し、それは自分のことかと首を傾げた。
「…少将… 私のことか?…それにハボック お前なんで大尉の
階級章をつけてるんだ?」

「何でって……ん?…少将これは何ですか」
 ハボックが目に留めたのは、ロイの執務机の隅に置かれた
フラスコで、中には怪しいとしか表現できない深草色の液体が
ドロドロとたゆたっている。
「…何かの薬のようだが…なんだろうな」
 問われたロイも、見覚えのない液体でガラス口から
掌で仰いで臭いを嗅いで不思議そうに、フラスコを揺らす。
 暫しその揺れる液体を見ていたハボックが、思い当たった
ように眉を顰め、ロイへと向き直った。

「…まさか…少将 今アンタ幾つですか」
「幾つとは 何がだ」
「普通に年ですよ年齢 今の少将は何歳かと尋ねてるんです」
「…二十九だが…?」

 溜めていた息を吐き出したハボックは
「予想まんまか」と苦笑し、ロイの顔位置にあわせるべく
机に肘つき前へと屈んだ。
「率直に言います 少将…じゃないかその年齢だとまだ大佐だな
大佐からすれば今は未来にいるって事になりますね」
「…未来…?」
「あー少将が全然見掛け変わんないから気付かなかったけど
髪下ろしてるこの顔も そういや久しぶりに見るな」
 懐かしそうに黒髪をクシャクシャと頭上で掻き回す
ハボックの骨ばった掌を、ロイは鬱陶しそうに見遣る。

「で今のアンタは少将 俺は大尉にまで出世しましたよ
アンタが頑張ってくれたからですかね で頑張りついでにその性格は
変わらずしょっちゅう妙な薬を作っては騒動起こしてるんです
…この前も一時若返る画期的新薬を作ったとか言ってたけど…
まさか本当に完成させるとはなぁ」
 子供をあやす口調に、わずかに反発を覚えたロイであったが
自分を眺めるハボックの視線は優しく、また部下は変わらず順当に
出世をしているのも嬉しく口を噤んだ。

「今のお前は何歳なんだ?」
「三十路入って大佐殿よりは年上になってますよ
…なんか新鮮ですね 自分より年下のロイ・マスタングを
眺められるなんて…でそれはさておき」
 にこやかなハボックの表情が、寸刻の間にいろいろ手馴れた
年嵩の雄の顔へと切り替わった。
 浮かんでいる笑みは変わらないのに、内から溢れる物騒な
気配にロイがおよび腰に、椅子ごとあとずさる。

「な…なんだね…」
「言いましたよね? これ以上おかしな実験重ねたら
お仕置きしますよって」
 

 聞いていないと、激しく横に首を振るロイ。 
「言ったんですよ 錬金術師の好奇心とやらで妙な薬ばっかり
作ってこれ以上同じことするなら…って」
追い詰めるように、ロイの体越しに椅子の背凭れへハボックが
両腕を伸ばし、二人の間の距離を更に縮め腕の中に閉じ込める。

「そっ…それは未来の私に言った言葉だろう!?私は聞いてないっ
聞いてないし関係ないっ!!」
「少将…いや大佐のこんな怯えた顔見れるのも久々ですね」
 ロイの言葉を、まるで聴いていない…いや聞こえているが
まったく意に介していないハボックは、ゆっくりとロイの顎の線を
指で辿った。 薄い皮膚をなぞり、感触を確かめるようゆっくりと
舌が後を追う。

「ハ…ハボック…!!…やっ…」
 その体を押し退けようと、ロイは懸命だが、ただでさえ力では
負けている上、口惜しいことに現時点では経験値でも適わず、
抗う術がない。

「フ…可愛いですよロイ 大丈夫大佐が知ってる俺と違って
今の俺は弱いトコも良いトコも徹底的に知り尽くしてますから
オシオキも気持ち良いだけにしてあげます」
「ちょっ…ちょっと待て!責任を取らせるなら私じゃなくお前が
言った相手に直接しろっ!私は知らんと言っているっ」
「幸い 今日の夜勤は二人きりですし…ああでも やっぱり少しは
反省してもらわなくちゃねかわいく啼いておねだりできたら俺の気も
早く済むかもしれませんよ …ロイ?」
「私の話を聞けーーーーーーーーっ!!」


 必死のロイの声に、耳を傾けてくれるものはあいにく
その場には誰も居合わせず。
 十分後、マスタング大佐個人執務室の扉越しに、洩れ
聞こえるのは、扇情的な吐息と揶揄するように囁き笑う、心地よい
低音の男の声のみだった。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


図々しくも強請り倒して頂いてきたこちらは
月とサカナとココナッツ」さまで掲載されていました「いつの似顔絵」の続編になります。
最初のお話を読んだ時に「10年後のハボのイラストが見たいっ!!」と叫びましたところ
葉月様がこーんな渋くてカッコいいハボを描いてくださり、更にその横にいるロイっていうことで
こんな萌えなお話を書いて下さいました。ぎゃー、もう、死ぬー。
10年後のエロテク磨いた渋いハボにいいように啼かされるロイ…vv想像するだけで鼻血でそうですっ///
葉月さま、いつもながらに素敵な絵と萌えなお話をありがとうございましたーーvv