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by J.A |
窓の外は一面の雪。暖炉では赤々と薪が燃える。 テーブルに並べられた料理はどれも食欲をそそり、グラスで爆ぜるスパークリングワイン。 絵に描いたような食卓にハボックはほっこりとした胸の暖かさを感じて微笑んだ。 今宵はthe winter solstice。アメストリス国内においては家族が揃って最も長い夜を過ごす祭日だ。古代においては、衰えた太陽がこの日を境に再生する日とされ重要な祭事が行われていたそうで、今でもその名残かごちそうを用意し1年の労を労いささやかな幸福を祈るのである。 一通り支度を終え、エプロンを外すとハボックはメゾネットの上階に向かい声をかけた。 「たいさぁ!夕食の用意が出来ましたよ!」 早く来ないと食べちゃいますよ、と続けて言えば、 「今行く」 と応えてこの屋の主が降りてきた。 そもそも、the winter solsticeを一緒に過ごしたい言い出したのはマスタングだった。せっかくだからごちそうも食べたいと無理矢理休暇をもぎ取り、ハボックを自宅へと呼んだのである。 この東方時代からの部下とマスタングとは、割合最近晴れて両思いの恋人同士となったのである。が、何しろ忙しい毎日でデートもままならない。このくらいの我が儘は言ったって良いじゃないか、と言うのがマスタングの言い分なのだ。 「毎日、顔を合わせてはいるんですけどね」 「仕事でじゃないか。私は、お前とゆっくりと過ごしたいんだ」 「――っとに、我が儘なんだから」 えらそうに胸を張って言うマスタングに、ハボックはやや顔を赤らめて視線を泳がせた。何しろこうなるまでに紆余曲折があっただけに未だに照れを払拭出来ない。そんなところが、また可愛いなどと思っているマスタングも、いい加減腐れているのだが、まあ、それはおいておくとして。 「でも、良かったんですか?会食やデートのお誘いも結構あったでしょう?大佐」 良い意味でも悪い意味でも目立つマスタングは、あちらこちらから引く手あまたなのだ。実際、東方司令部にいた頃はこの夜はデートで忙しかったのである。それを、今年は全て断ってハボックと過ごすというのだから、なんだか、コレで良いのかとハボックが心配したとしても不思議ではないだろう。 「言っただろう。お前と過ごしたいのだと。大体、お前はどうなんだ。私といるのは嫌なのか?」 ちょっと拗ねたように言うマスタングに、ハボックは慌て手首を横に振った。 「そんなわけ無いでしょう!」 「だが、スタイン夫妻に誘われていたんじゃないのか?」 「確かに、ハル達に来ないかとは言われましたけど……」 セントラルの郊外にこぢんまりとしたレストランを開く従姉夫婦が独り身のハボックを慮って晩餐に誘ってくれていたが、「俺だって、その、大佐と一緒に過ごしたいかなって……」 何もそう思っているのはマスタングだけではないのだ、と顔を赤らめるハボックに、これ以上ない幸福感にだらしなくにやけるマスタングであった。 「ジャンv」 「と、とにかく!せっかく作ったんだから食べましょう。ね?大佐」 「そうだな、頂こうか」 何、まだまだ夜はこれからだ、と内心ほくそ笑むマスタング。そして、なぜだか悪寒を感じて身を震わすハボックであった。 そうして数時間。 「〜〜〜〜でぇ、聞いてますぅ?たいさぁ」 よく食べよく飲んだハボックは、それはほどよくへべれけになっていた。 「もちろん聞いているとも、ジャン」 内心肩を落としつつ、相槌を打つマスタングに、ハボックへえへへ〜、と笑う。それもまた可愛いvなどと思っているあたり、もはや末期と言っても過言ではないマスタングだったが、さすがにこの状態のハボックを当初の計画通りにどうこうすることは憚られた。 これまでの勝率、三割五分。出来ることなら、仕事だけでなくプライベートでもハボックの全てを独占したい。そう思っているマスタングだったがその反面嫌われたくなくて強くでられない。いわゆる惚れた弱みというやつだ。 なんと言っても片思い歴数年。今こうしているのだって、様々な行幸が重なった結果なのだ。ここで逃がしてしまったら、きっと多分立ち直れない。 強引なようで、実は小心者なのかもしれない、と自嘲する。 (まあ、チャンスはまたあるさ) 今はこうして過ごすだけでも良しとしよう。そう、マスタングが思った、その時だった。 「たいさぁ、俺ね、大佐のこと、すっげぇ好きっすv」 「ハボック?」 いきなりハボックが抱きついてきたかと思うと、そのままマスタングの首に腕を回しその頬に唇を押しつけてきた。 「ハ、ハボっ!?」 「好き、です。大佐が、一番……」 ゆるゆると懐きながら、どこか切なげな声でハボックが言いつのる。 「俺ね、いつか可愛い嫁さん貰って、子供が生まれてって、そんな平凡な夢を見てたんですよ。でも、あんたの下について、あんたをてっぺんに押し上げるために命賭けても良いって思った時にね、諦めたんっすよ。平凡な生活。だって、あんたみたいな規格外な人が歩く道が平坦なわけないし、そしたら俺らだってきっと波瀾万丈な未来が待ちかまえてるに決まってるし――そう言ったモン全部引き替えにしても良いくらい、あんたの力になりたいって思ったから」 軽い口調で言うハボックだったがその裏でどれほどの決意をさせたのかと思えば、マスタングは胸が塞がる思いだった。 「けど、ジュディを取り上げた時にね、変な話だけど、本当に自分の子供みたいに嬉しくって可愛くって、親の気持ちって言うんですか?それを味合わせて貰ったからそれでいいかって思ったんですよ。それで頑張れるって。そしたら、あんたが俺のこと好きだっていってくれて、おまけに、こんな優しい時間まで貰って……夢、叶ったみたいで、こんなに幸せで良いのかな、」 平凡な夢をマスタングのために諦めたと言いい、ささやかな時間を幸せだという。そんなハボックの健気さに愛おしさが募る。 その思いを全て込めてマスタングはハボックを強く抱きしめた。 「私の方こそ、お前にこんなに幸せを貰って、なのにお前に何もしてやれない。愛してる、ジャン」 「俺も。俺も愛してます。大佐が好きです」 そうして、自然に重なる想い。しばらくの間、そうして互いに確かめ合い、そして。 「でも、浮気は駄目ッスからね。俺は、大佐の子供産んであげられないけど、だからって他の誰かが大佐の子供産んだりしたら嫉妬でおかしくなっちまう……」 それだけが悔しい、と少し拗ねたように上目づかいで言われ、マスタングはノックアウト寸前にまで追い込まれた。 「お前こそ、誰か他の人間を好きになったりしないでくれよ?そんなことになったら、きっと私は全てを燃やし尽くしてしまうから」 「しないっすよ、そんなこと。俺には大佐だけですv」 「ジャン!」 そうして、後はなし崩しにマスタングの計画通りに事は進んで行くのである。 そして――――。 「信じらんねぇっ!!」 セントラルの町を一面に雪が覆い尽くした朝。 「いくらなんだって、ここまでするんすかっ!?」 「そんなこと言ったって、お前が可愛らしくおねだ――がふっ!」 「ぎゃぁ〜〜!!言うに事欠いて、なんて事言うんすか!!」 見事なアッパーカットを喰らって床に沈んだマスタングと、真っ赤な顔でベッドに沈むハボックと。 休日の朝からマスタング邸はとても賑やかだったと記しておこう。 「昨夜はあんなに素直に懐いてきたくせに〜〜(T^T)」 「まだ言いますか!!」 2007/12/25 J.A. |
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ERIA-K9のJ.A.様からいただきました。読んで「あれ?」と思われた方もいらっしゃるかも知れませんが、J.A.様のサイトで連載していました「赤ちゃんと僕」の番外編になります。(2人の馴れ初めにつきましてはERIA-K9さまの「赤ちゃんと僕」をご覧下さい。「えええっ??」と叫びつつもとってもワクワクドキドキの素敵なお話ですv)以前、連載終了後に「ロイとハボの甘々が読みたいっ!」と叫びましたところ、こんな素敵なお話を書いてくださった上、お持ち帰り+宝部屋アップまでご了承いただいてしまいました!きゃ〜〜vvそれにしてもあんなカワイイハボにあんなかわいい事言われたら、もう、大佐でなくても完璧ノックアウトですよね。イマイチ強気に出れない大佐もとっても愛しいですし。でも最後は味わい尽くしちゃう辺りが大佐ですか(笑) ともあれ、とってもラブラブ甘々なあいすくりんな2人、とっても素敵です〜〜vJ.A.さま、ありがとうございました。 (なお、お持ち帰りは有難くも当方限定でご許可いただきました。無料配布ではありませんのでご注意下さいませ) |