愛の話 (ハボロイ好きに15のお題より)


「ブレダ、俺を思いっきり殴ってくれ」
 神妙な面持ちでハボックがそう切り出した。
「いったいどうしたよ」
 いくら鉄拳制裁のまかり通る軍とはいえ、殴れと言われてほいほい殴る訳にもいかない。それが仮にも自分の親友と称される同僚の台詞であれば尚更、だ。
「えっと…その……」
 とたんに、ためらいとか気後れとかに全く縁がないはずのハボックが、目尻にサッと朱を履いて、困ったように執務室の扉に視線を流した。
「あの…だから………」
「いいっ!言うな!!」
 と言うより、「絶対聞きたくない!」が本音だ。
 潜入捜査に行っていた筈の自分の上司と同僚が、戻ってきたら、どうやら「そういう関係」になっていた。
 マスタング大佐がハボックに好意を持っていることは薄々気付いていたが、ボイン大好き!を公言してはばからないハボックが、大佐にそういう感情を抱くとはとても思えなかったので、ひそかに大佐に同情していたのは事実だ。
 同性愛者も多い軍に籍を置く者として同性同士のカップルに偏見はないが、この「上司と同僚」は少々事情が違っていた。
 四六時中、司令部内にピンクのオーラを立ちこめさせるだけならまだしも、いい年したオトナのオトコどもが、ちょっと肩が触れ合ったくらいのことで初恋の乙女ように頬を染め合っている、なんて気色の悪いシーンを日々目の前で繰りひろげられているとなると士気に係わる大問題だ。
 ゆえにハボックの戯言など聞かない方が身の為。どうせ大佐がらみの惚気だか寝言だかを聞かされるのがオチだ。
「分かった!殴ってやるから歯を食いしばれ!!」
 俺は拳を振り上げた。

「……で、何で俺はお前にカウンターを食らわなくっちゃいけないんだ、ハボック?」
「スマン!つい反撃しちまった!」
 俺の渾身の一撃は、言い出しっぺのハボックの、それはそれは見事なクロスカウンターで我が身に返ってきた。俺の左目には絵に描いたようにみごとな青あざが出来ていることだろう。野性の本能で生きているこいつの手足を縛ってから殴らなかった自分の甘さを本気で呪う。
 でかい図体を直角に曲げてペコペコ頭を下げるハボックをねめつけて、次いでその後ろにも白い目をやった。
「…………で、何で俺はあなたの焔を食らわなくっちゃいけないんですかね、大佐?」
 執務室にいたはずの大佐が何故だかそこにいた。
「すまない!ハボックに危険が迫っているような気がして、つい!」
 あの分厚い扉の向こうからいったいどんな電波をキャッチしたのか、俺の一発がハボックの顔面に入ろうとした瞬間、それはそれは綺麗なオレンジの炎が俺の髪をなめていった。
「大佐!俺のためにっ!」「だって、お前に何かあったら……」
 ガバッと後ろを振り返り、感無量といった風に声をつまらせるハボックと、恥じらうように頬を染めた大佐に、俺は上司と同僚に恵まれない我が身の不幸を嘆いたのだった。


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410006打キリリク「果てなき恋のバラード」をを頂いた摩依夢さまから「犬の日」記念に頂いたお話です。「大佐を泣かした奴を殴ってやる」と意気込んでいたハボック。よし、それなら殴ってもらおう、と書いてくださったのですが、ブレ迷惑大好物な私としてはとっても気にいってしまい、無理を承知で「連載の方とリンクさせて下さい」とお願いして無理矢理承諾して貰ってしまったのでしたー。そんなわけで、ブレダの青あざが出来たのはこういう理由でした。ホント、ブレさんってば可哀想ッvvv
摩依夢さま、素敵なリクばかりか楽しいお話まで、本当にありがとうございましたvv