追悼



「亡くなったって…なんで…?」
「テロリストの殲滅作戦中に殉職だってさ」
「…そっか…」
 ブレダは灰が落ちそうになっている煙草にも気がつかないほど動揺するハボックを心配そうに見つめた。ハボックの顔は僅かに伏せられて、どんな表情を浮かべているのか見ることはできない。
「大丈夫か、ハボ」
 ブレダがそう尋ねると、ハボックは煙草を揉み消して前髪をかき上げた。
「わり…オレちょっと風に当たってくるわ」
 そう言ってそそくさと建物の外へ出て行く。ブレダはその背中を黙って見送っていた。


「ハボック少尉はどうした?」
 昼休みが終わっても一向に主の帰ってこない席を指してロイが尋ねた。
「あー、大佐、あとちょっとだけアイツのこと放っておいてやってもらえませんかね」
 ブレダが僅かに眉を顰めて言う。
「どういうことだ?」
「実は、オレ達の士官学校時代の先輩が作戦行動中に亡くなったんすよ」
 ブレダの言葉に僅かにロイが目を見開いた。
「アイツ、その先輩には随分可愛がってもらってて、卒業後も結構ハボのこと気にかけててくれたんすよね」
 だから、ちょっとショックだったみたいで、というブレダにロイは目を眇めた。


 がさりと草を踏む音に中庭で寝転がっていたハボックが目を開けると、そこにはロイが立っていた。
「もうとっくに昼休みは終わっているんだぞ」
 そう言われてハボックは体を起こすと片膝を抱え込む。
「そろそろ帰ろうと思ってたとこっスよ」
「士官学校時代の先輩が亡くなったそうだな」
「ブレダに聞いたんスか?」
 ハボックはロイを振り仰いで言ったが、微かに頷くロイの顔は逆光でよく表情が判らなかった。
「いい先輩だったんスよ。随分色々世話になって。オレ達は軍人だからこんな風に別れることがあるかもって判ってた筈なのに、やっぱちょっとショックで…」
 情けないっスね、と苦く笑うハボックをロイは無言で見下ろしていたが、ぽつりと呟いた。
「もし、私が死ぬようなことがあったら、やはりお前はそうして泣いてくれるのか?」
 その言葉にハボックがきつい目でロイを振り仰いでゆっくりと言った。
「アンタが死ぬ前にオレが死ぬでしょう?オレはアンタの護衛官なんスから。アンタが死ぬのはオレがやられた後ですよ」
「でも、もし私が先に死んだら―――」
「死ぬなんて簡単に言うなっっ!!」
 ハボックは勢いよく立ち上がるとロイに向かって怒鳴った。相変わらず表情のよく判らないロイにハボックは苛々する。
「アンタが死んだらオレは―――」
 ハボックはそこまで言うと踵を返してロイに背を向けると走り出してしまった。
「ハボック!」
 咄嗟にその後を追ってロイが走る。木々の間を抜け司令部の建物の裏まで来た所で、ロイは漸くハボックの腕を掴んだ。
「ハボック!」
 腕を引いて振り向かせるとハボックはロイの手を振りほどいて怒りに空色の瞳を輝かせてロイを睨みつけてきた。
「死ぬなんて簡単に言うな…ッ」
 さっきと同じセリフを繰り返すハボックにロイは手を伸ばすとその体をそっと抱きしめた。
「…悪かった」
 呟くロイにハボックは瞳を閉じてロイの肩に額を乗せた。
「悪かった」
 ロイはもう一度呟くと言葉を続けた。
「ただ、お前にそんな風に泣いて貰えるその男が羨ましかったんだ。そんな風に思い出してその死に涙して、悼んでもらえるソイツが羨ましかった」
 ロイの言葉にハボックは目を開くと、肩に額を寄せたまま言った。
「でも、それだけだ」
 そうして早口で続ける。
「泣いて、もういないことを悲しんで、でもそれだけだ。それが終わればオレはあの人のことを忘れてしまうんだ。あんなに良くして貰ったのに、忘れてしまって二度と思い出さないんだ」
「ハボック…」
 ロイはハボックの肩を掴むとその顔を覗き込んだ。
「でも、アンタは違う」
 ハボックはロイを真っ直ぐ見つめて言った。
「もし、オレがアンタと別れる様な事になったら、きっとその時は泣いたりしない」
 その言葉にロイが僅かに傷ついた目をする。
「泣いたりしなくて、表面上は何も変わらなくて、でも」
 でも、きっと壊れる。
 囁かれたその言葉にロイの黒い瞳が大きく見開いた。ハボックは一瞬そんなロイの瞳を見つめたが、肩に乗せられたロイの手を払うと背を向けて歩き出した。ロイは暫しその背中を呆然と見つめていたが不意に走り寄るとハボックの腕を掴んでその体を抱き寄せた。そうして、噛み付くようにキスをする。何度も繰り返されるそれに、ハボックの膝から力が抜け、ハボックはロイの腕に縋りついた。見つめてくる空色の視線にロイの漆黒の視線が絡み合い、二人はまた唇を寄せた。深く口づけて舌を絡ませあいお互いの口中を味わう。ロイの手がハボックの上着のボタンを外し、シャツの中に滑り込んだ。手探りで乳首を探り当てると指先でくりくりと押しつぶす。愛撫に揺れるハボックの体を建物の壁に押し付けるとロイは更に口付けを深くした。
「ん…んっ」
 ハボックが苦しげに首を振って唇を離そうとするのを許さず、ロイはハボックの口内を蹂躙しながら堅くしこった乳首をこね回した。ハボックの唇から混ざり合った二人の唾液が銀色の糸となって零れ落ちる。あまりの息苦しさにハボックの瞳にうっすらと涙が滲んだ。乳首を弄っていたロイの指がするりと滑り落ちて、ハボックのズボンに掛かる。手早く寛げるとロイの手がハボックのズボンの中へ入り込んだ。
「んんっ…ん――っっ」
 中心を握られてハボックがロイを押し返そうとした。だがぎゅっと握りこまれて押し返す手から力が抜けた。繰り返される口付けと、ぐちぐちと中心に施される愛撫にハボックの意識に霞が掛かっていく。気がついたときにはズボンは膝の辺りまで引き摺り下ろされとろとろと蜜を零す中心が曝け出されていた。その時、やっとロイの唇が離れ、急速に空気が肺になだれ込んでくる。
「はっ…はあっ…はあっ…」
 ハボックが必死に空気を取り込んでいる隙に、ロイはハボックの前に跪くとその中心を咥えた。
「あっ…たいさ…っ」
 咄嗟に腰を引こうとするハボックの尻を抱え込んで、ロイは更にハボックを深くその口内へと導いた。じゅぶじゅぶとしゃぶり先端をちゅるりと吸い上げ、舌でちろちろと刺激する。ハボックは喉を仰け反らせて喘いだ。
「ああっ…や…あっ…あんっ」
 ロイの髪を掴む指は、ロイを引き離そうとしているとも抱き込もうとしているとも見え、ハボックはゆるゆると首を振った。ハボックの尻に添えられていた指がゆっくりと蕾の中へと押し入ってくる。まだ堅く閉ざされたそこにねじ込むように差し込まれて、ハボックはロイの髪に絡めた指に力を込めた。
「いっ…つ…んあ…」
 宥めるように中心に愛撫を加えられてハボックの腰が揺れる。だんだんと柔らかくなっていく蕾に、痛みよりも快感が押し寄せてハボックの中心に更に熱が籠っていった。
「ああ…たいさ…ふ…ん…」
 なかなか決定的な刺激を与えず、ゆるゆると加えられる愛撫に背筋をゾクゾクとしたものが這い上がる。ハボックの唇は空気が足りないとでも言うようにだらしなく開かれて、ぼんやりと膜の張った瞳からは涙が零れていた。ずるりと蕾に沈められていた指が引き抜かれて、ハボックの体が大きく揺れる。ゆっくりと立ち上がったロイにハボックが期待に濡れた瞳を向けた。
「後ろを向いて壁に手をつけ」
 ロイに低く囁かれるままにハボックはのろのろと後ろを向くと壁に手をついた。自然突き出される尻にロイの手がかかるのを感じて肩越しにロイを振り向いた。はやく、と唇が動いたのを目にしたロイはぞくりとしたものを感じ、滾る自身を取り出すとハボックの蕾を一気に貫いた。
「あああああっっ」
 ハボックの背が綺麗に反り上がり、その唇から高い悲鳴が零れ出た。ロイは逃げをうつ体を引き戻して、乱暴に突き上げる。ぐちゅっぐちゅっと濡れた音が繋がる部分から響き、ハボックは耳からも自分がロイに犯されているのを感じた。
「たいさっ…おねが…い…っ」
 ハボックは後ろから自分に覆いかぶさる男を振り向いて強請る。ロイはにやりと笑うとハボック自身を強く握り締めた。
「ひああああっっ」
 そのまま乱暴に扱かれてハボックは白濁した液を撒き散らす。激しく後ろを抜き差しされる刺激に瞬く間に登りつめるハボック自身にロイはうっとりと笑ってその先端をぐちぐちと押しつぶした。
「やっっああっっ」
 立て続けに押し寄せてくる射精感にハボックは全身が性器になったように思える。中心を弄るロイの手と後ろを出入りするロイの雄と、ハボックにはもうそれしか感じられなかった。
「あ、あ、あ、イイっ」
 何度目になるか判らない熱を吐き出した時、ロイの熱が中を濡らすのを感じ、ハボックは壁に縋るようにしてくず折れていった。


 その後、二人は別々に司令室に戻った。仕事を放って姿を消していたロイにホークアイの小言がとびだし、ロイは慌てて書類の山に向かう。ハボックは心配気な視線を投げてくるブレダに微かに笑うと気だるい体を叱咤して小隊の訓練へと向かった。もう、涙は乾いてしまった。いなくなってしまった人を悼む時間は過ぎて日常はいつもの時を刻みだす。だが、いつか二人が離れてしまう時が来たとしても、ハボックの中に刻まれた想いは消えないだろう。恐らくは何もかも壊れてしまうだろう自分の中でその想いだけがきらきらと輝き、それだけを大切に守って生きていくのだろうと、ハボックは思った。


2006/8/11


二人は軍人でハボはロイの護衛だったりするわけで、そしたらもしかしたらもしかすることも絶対ないとは言えないわけで…。そんなことを考えていたらこーんな話に。なんかいつもの二人と随分違っちゃって「誰??」って感じですが、たまにはこんなのも…ってダメ?