| 調理法 |
| 「なんだ、これ」 ハボックはロイの執務室の机の影に落ちていた紙切れを拾い上げた。4つに畳んであるそれを広げたところでピタリと動きが止まる。 「…なんだ、これ…?」 さっきよりもっと訝しげに同じ言葉を繰り返した。書いてあるのは数行の言葉。上から下まで何度も読み返して、一番下の行でその視線が止まった。 『材料など、ご用命は当店まで』 その下には店名及び店のの所在地と電話番号が記してある。ハボックは手にした紙を折りたたむと胸ポケットにしまって執務室を後にした。 仕事を終えたハボックは紙に記してあった住所を頼りに目当ての店を捜していた。 「あ、ここだ」 黒い扉に金色の飾り文字で店名を記したその店は、窓一つなく中を窺い知ることが出来ない。 「なんか、胡散臭ぇな」 空色の瞳を眇めてそう呟いたハボックは、それでも扉をあけると店の中へ入っていった。カランとドアベルを鳴らしながら入った店内は酷く薄暗く、外の明るさとのギャップに暫し立ち竦んだ。ようやく目がなれて店内を見回すと、そこには天井までの棚が何本も立っており、ぎっしりと瓶詰めやら袋詰めされたものが入っている。 「げ、こん中から探すのかよ…」 ハボックが肩を落として、やっぱりやめようかななどと考えていると不意に店の奥から声が掛かった。 「お探し物ですか?」 声の主を振り向くと真っ黒のブラウスに真っ黒のロングスカートを着て、じゃらじゃらと装飾品を付けた女が立っていた。 「調味料、探してるんだけど」 そう言ってハボックは手にした紙を差し出した。 「ちょっと拝見」 女はさっと目を通すと「すぐ用意します。」と言って棚の間に消えていった。 手持ち無沙汰のハボックが、煙草吸ってもいいんかな、などと考え出した頃、女が籠に色々詰めて戻ってきた。 「調味料とそれ以外の材料も用意しました。他の店で買うよりこちらでお買い求め頂いた方が確実ですから」 そう言われて、それもそうだなと思ったハボックは財布を取り出すと値段を聞いた。 「こちらになります」 (た、高い…) 値段をみたハボックはひくひくとこめかみを震わせたが、それでも結局言われた金額を払うと材料を手に店を出た。 「あ〜、すげぇ高いんでやんの。給料日まで貧困生活確実…」 アパートに戻って材料をテーブルに置くとハボックはがっくりと椅子に腰掛けた。 「これで上手くいかなかったら目も当てられないよなぁ」 そう言いながら紙袋の中をちらりと覗き込む。 「ま、明日は休みだし、朝から頑張ってみるか」 ハボックはそう言ってポケットに突っ込んであった紙を冷蔵庫に貼り付けた。 翌朝、掃除やら洗濯やら、やるべきことを手早く済ませるとハボックは昨日買い求めた材料をテーブルに並べ、冷蔵庫から紙を外すと綺麗に伸ばしてその横に置いた。何度も目を通したそれには次のようなことが書いてあった。 「ロイ・マスタングのレシピ 1.黒砂糖 3.78 kgと紅のバラ 50.22 kgに冒険という名の調味料と悪のいう名のスパイスを加えます。 2.下ごしらえは要りません。 3.次に55分間焼き上げます。 4.最後に隠し味として失望を少々振りかけて、適当に盛り付ければでき上がり!! 」 ハボックはオーブン皿を出すとその上に紅のバラを広げて黒砂糖を振り掛けると、スパイスの小瓶を手に取った。それには「adventure」と「evil 」とそれぞれ飾り文字で記されている。 「嘘くせぇ…」 そう呟きながらその二つを加えると、余熱したオーブンに皿を突っ込み、時間を設定してボタンを押した。ブーンと低い音がして動き出したそれをハボックは暫し見つめていたが、焼きあがるまでの間コーヒーでも飲もうと棚から瓶を取り出した。 チン、と音がしてオーブンが止まる。ハボックは鍋つかみを手に取ると手早く皿をオーブンから取り出した。最後に残った「disappointment 」と書かれた小瓶を手に取ると焼きあがったものにぱらぱらと振り掛ける。 「適当に盛り付けるって、人型に成形すんのかな」 オーバル皿を出して何となく人に似せた形に盛り付けてみる。ハボックが期待に満ちた目を向けて見つめるが特に何も起こらない。 「げー、失敗かよ。…つうか、まぁ、フツウそんなもん出来る訳ないよな…」 つい変な期待をして高い金を払ってまでして作ってしまった自分を、少々恥ずかしく思いながら片付けようとした時。 それは突然ムクムクと動いたかと思うと真ん中からぱりっと割れて中から小さい人らしきものが出てきた。 「え…っ」 驚いて見つめるハボックの前で、ソレは思い切り伸びをして、それからその黒い瞳をハボックに向けた。暫くハボックのことを不思議そうに見つめていたが、ニッコリ微笑むとテトテトとテーブルの上をハボックの方に走り寄ってきて、ハボックの腰に縋りついた。 (かっ、かわいいっっ!!) ハボックの腰に縋りついたソレはロイをそのまま小さい子供の人形にしたようで、黒髪にまあるい黒い瞳に透き通るような白い肌をしている。腰に縋りついたまま大きな瞳を自分の方に向けてニコニコする姿にハボックは一発でやられてしまった。 「すげーっ、ほんとに大佐だぁ」 その足元に手のひらを出すとチョコンと乗ってくる。 「おわっ、手乗り大佐っ」 その小さな顎に指をあてて擦ってやれば甘えるように擦り寄ってきた。 「かっわいいなぁ。オレのこと呼んでくれないかな」 ハボックはそう呟くとちっちゃいロイに顔を寄せて自分の方を指差しながら言ってみた。 「ハボック。オレの名前、ハボック。…判るかなぁ」 何度か繰り返してみたが不思議そうに首を傾げている姿にやっぱりダメかと諦めかけた時。 「は〜ぼ?」 と、高い声でソレが言った。 「…っ」 「は〜ぼ」 そう言ってハボックに擦り寄ってくる。 「かわいいっっ!!」 思わずむぎゅっと抱きしめるとぷひゅっと風船が潰れたような声を上げた。 「あ、ゴメン、ゴメン」 慌てて力を緩めると、ぶるぶると頭を振ってニッコリと笑った。それから、くしっ、と小さくクシャミをする。 「そういや、裸だったな。」 ちょっと待ってて、とちびロイをテーブルに下ろすと棚からハンカチと裁縫道具を取り出して手早く小さなワンピースを縫い上げた。 「ほら、これでも取敢えず着とけ」 そう言って頭から被せてやる。着せられたソレをちびロイは不思議そうに見ていたが、ハボックを見上げると嬉しそうにニッコリと笑った。 (うっわぁ、もう、犯罪的…) ハボックは手のひらを顔に当てると真っ赤になって目を瞑る。ぐぐぅ〜という音に目を開けばちびロイがお腹を押さえてハボックを見ていた。 「腹が減ったのか」 ハボックは冷蔵庫の中を覗くと暫し考えた。 「何、食うのかな?」 取敢えず卵を取り出すと手早くオムレツを作ってみる。 「ほれ」 とケチャップをかけたそれを差し出すと、ちびロイは恐る恐るという感じでオムレツに手を当てた。その途端、熱さに飛び上がる。 「出来立てなんだから熱いに決まってるだろ」 ハボックは苦笑してスプーンで少しだけ取ると、ふうふうと息を吹きかけてからちびロイに差し出す。ちびロイはオムレツとハボックを交互に見つめていたが、そっと口をつけるともぐもぐとオムレツを食べた。その途端ぱあっと顔が明るくなる。はふはふ言いながらどんどん食べるちびロイの様子をハボックは目を細めて見つめていた。 4分の1ほどオムレツを食べるとちびロイはふわぁと欠伸をしてテーブルに横になった。 「なんだよ、腹が膨れたら眠くなったのか」 くすくす笑いながらハボックはその小さな体にタオルをかけてやる。ちびロイは一度目を開くとにっこりハボックに笑いかけ、それから再び目を閉じるとすうすうと寝息を立て始めた。ハボックは席を立つとフライパンやら何やらを片付け始める。綺麗に洗い上げて片付けてしまうとハボックはちびロイのところへ戻ってきた。そして、その顔を覗き込んでギクリとする。 (息…してない?) 慌ててその体に触れた途端、小さな体は砂山のようにほろりと崩れ落ちた。 「遅いっ!!」 ロイは待ち合わせの時計台の下で大声を上げた。今日は非番のハボックと待ち合わせるために早番で出ていたロイは超特急で仕事を終わらせてやってきたのに、肝心のハボックは待てど暮らせどやってくる気配がない。ロイは思い切り舌打ちするとハボックのアパートへと歩き出した。 ハボックの部屋の前に着くと力任せにどんどんと扉を叩く。 「ハボックっ!!私を待たせるとはどういうことだ?!ハボックっっ!!」 アパート中に響き渡る声で怒鳴ると壊れるほどの勢いで扉を叩いた。なかなか出てこないハボックに怒りもピークに差し掛かり、いっそ燃やしてやろうかと考え始めた時。 カチャリと鍵の開く音がしてハボックが顔を出した。その途端怒鳴りつけようとしたロイはハボックの目元が赤く染まっているのに、言葉を飲み込む。 「お前、泣いているのか…?」 俯いたまま何も答えないハボックを押すようにして中へ入ると、ロイは扉を閉めた。 「何があった?」 顔を覗き込むようにして問えば、ハボックは部屋の中へ入っていく。ハボックの後を付いてキッチンまで行くと、テーブルの上にはタオルを被せられたちいさな砂の山があった。ハボックはその側に置いてあった紙をとるとロイに渡す。ロイはそれを見ると一瞬目を瞠って、それからハボックを見つめた。 「作ったのか?」 そう問えば、小さくハボックが頷いた。 「だがもう、砂になったか…」 呟いたロイの言葉にハボックがぼろぼろと涙を零す。ロイはため息をついて右手を伸ばすとハボックの首を引き寄せるようにして、ハボックの頭を自分の肩口によせた。 「ったく、でかい図体して泣くんじゃない」 「…だって…っ」 優しくハボックの頭を撫でながらロイは低い声で話した。 「アレはすごく不完全なものなんだ。人体練成とはまた少し違うがな。せいぜいもって1時間という所だろう。それを過ぎると砂になって崩れてしまう」 ハボックはロイの肩に顔を埋めたままロイの腰に手を回すとぎゅっとしがみ付いた。 「すっげー可愛かったんです。擦り寄ってきてオレのこと、ハボ、って」 そう言ってまた涙が零れてきたのか鼻をすする音がする。 「まったく、名前くらいいくらでも呼んでやる」 そう言って耳元で「ハボック」と囁けば、ハボックがしがみ付く腕に力を込めた。 そうして暫くしがみ付くままにさせていると、やがてハボックがロイの肩口に埋めていた顔を上げて恥ずかしそうに微笑んだ。まだ赤い目元をそっと指で拭いてやればくすぐったそうに目を細める。テーブルの上の砂の山に目をやってハボックは一瞬悲しそうな顔をしたが、もう涙は零れなかった。そんなハボックを引き寄せてロイは唇を重ねる。啄ばむようなキスを繰り返すうち、ハボックが「あれ?」と声を漏らしてロイを押し留めた。 「ハボック?」 「大佐、なんでアレが1時間くらいしかもたないって知ってたんです?」 不思議そうに聞いてくるハボックからわざとらしく視線を逸らしてロイはもごもごと口ごもった。 「大佐、まさか…」 目を細めて聞いてくるハボックに苦笑してロイは答えた。 「お前のレシピもあったんだ」 その言葉にハボックが嫌そうな顔をする。 「アンタが作ったんスか?」 「そうだが、なんだ、その嫌そうな顔は」 「えー、だって普段料理なんてしないアンタが作ったんでしょ?なんか、すっごいデブのオレとかマッチ棒みたいに細いオレとかできてそうなんスけど…」 やだなぁ、とぼやくハボックの口元をロイは思い切り抓り上げた。 「失礼なヤツだな。お前なんて目じゃないほど可愛かったんだぞ。『ロイ』とか呼んでな」 「ええっ、ファーストネームで呼ばせたんスか?」 ハボックが赤くなった口元をこすりながら言う。 「まぁな。そうだ、お前もこれから私のことをファーストネームで呼ぶというのはどうだ」 悪戯っぽく言うロイにハボックは思い切り口を歪めた。 「絶対イヤです!」 「なんでだ、私もファーストネームで呼んでやろう」 耳元に口を寄せて「ジャン」と囁けば、ハボックが思いっきり体を引いた。 「やめてくださいよっ!そんな恥ずかしいことっ!」 「何が恥ずかしいんだ?もっと恥ずかしいことを散々やってるだろうが」 「それとこれとは別です!絶対イヤですからね、ファーストネームで呼ぶのも呼ばれるのも!」 嫌がるハボックを引き寄せて「ジャン」と囁き続ける。二人の間を優しい風が通り過ぎていった。 2006/6/14 |
「レシピ診断」っていうサイト様があるんですよ。診断したいものの名前を入れて解析かけるとレシピがでてくるんです。ちなみにこのレシピには備考欄があって、ロイの備考欄には 「備考 ロイ・マスタングが手に入る所:河原のキャンプ場 お値段 (一人前):3677万円 」 とありました。高いな、おい。このお値段だとハボの給料ですぐ買えないので、今回のお話ではまぁ、なしってことで(笑)それと、この分量でできるのは普通の大きさだと思うのですが、そんなの出来ても可愛くないので手のりサイズにしてしまいました。ご了承の程を。 で、ハボックのレシピもきになりますよねー。 「ジャン・ハボックのレシピ 1.ポット 15.66 kgと中濃ソース 38.34 kgに利益という名の調味料と大地のぬくもりのいう名のスパイスを加えます。 2.これらを良く混ぜ合わせます。 3.次に59分間焼き上げます。 4.最後に隠し味として悲しみを少々振りかけて、適当に盛り付ければでき上がり!! 備考 ジャン・ハボックが手に入る所:河原のキャンプ場 お値段 (一人前):6284万円 」 おお、ハボの方がもっと高い!ついでにみつきは本名でやったところ、人参とたこ糸の煮物で、ネットオークションで手に入るとか出てきました。うーむ。 「レシピ診断」さまのアドレスは ttp://essence.matrix.jp/recipe/index.htm 興味のある方はhを足してコピペしてください。 |