| 夏梅 後編 |
| 暮れていく街並みを、ハボックはぶらぶらと歩いていた。ブレダに「一言謝れば丸く収まる」と言われたけれど、今更どんな顔をして会えばいいのか、ハボックには判らない。自分が腹を立てたこと自体は間違っていないと思う。いつものことではあるが、すぐに暴走するあの性格を何とかして欲しいとも思う。でも、あそこまでやる必要はなかった筈だ。いくら腹が立ったからといって鍵を投げつけて出てきてしまうなんて、暴走するロイの性格を責めることなんて出来やしない。ハボックは小さくため息をつくとアパートへの道を歩き続けた。俯いて歩いていたハボックが敵意に満ちた視線にふと顔を上げると、そこには7、8人の柄の悪い男たちがハボックの行く手を遮るように立っていた。 「よお、軍人さん。こんなところに一人でくるなんていい度胸してんじゃないの」 「そうそう、ここがどういうとこか判ってんの?」 軍人に対する反感も露わに取り囲んでくる男たちにハボックはため息をつくと呟いた。 「刺されんの、今日みたいよ、ブレダ」 普段だったらこんな男たちの5人や10人、どうってことのないハボックだったが、どうにも今日は自分に向けられた悪意を跳ね返すだけの気持ちが湧いてこない。いっそのこと刺されちゃってもいいかも、なんていう気にすらなって、もしブレダがここにいたら思い切りぶん殴られそうだ。それでも、殴りかかっている数人を軽いステップと僅かな動作でかわしてしまうあたり、いかにもハボックなのだが、それはむしろ相手の怒りに油を注ぐ結果にしかならなかった。 「こ、の、ヤロウッッ!!」 怒りに顔を真っ赤にした男がポケットからフォールディングナイフを取り出すと、ハボックに向かって構える。その男の顔をぼんやりと眺めて、ハボックは突っ立っていた。両手でナイフを構えた男は刃を前に突き出しながらハボックに向かって突進してくる。避けないと危ないと意識の片隅でそう思いながら、それでもなんの動きも見せずに立ち尽くすハボックにあと少しでナイフが届くという時。 「ぎゃあっ!!」 ナイフを持った男の手が焔に包まれて、男は持っていたナイフを取り落とす。ぎょっとした男たちの集団が何事かと辺りを見回すと、黒い髪に黒い瞳の男が手袋をはめた手を差し出して立っているのに気がついた。 「今度は手だけじゃ済まさんぞ」 低い声に怯んだ男たちは、「覚えてろ」とお決まりの捨て台詞を残すとバラバラと逃げていく。一人取り残されたハボックは近づいてくる男を食い入るように見つめていた。ハボックの目の前で立ち止まったロイは、ハボックの襟首を掴むと搾り出すように言った。 「どうして避けなかった?!」 怒りにきらきらと光る黒い瞳をハボックは綺麗だと思う。 「刺されるつもりだったのかっ?」 どんな時でも強い意思を秘めたこの瞳がとても好きなのだと、ハボックは思った。 「答えろ、ハボ―――」 黙ったままのハボックに焦れたロイがなおも言い募ろうとした時、ハボックがロイの肩口に顔を埋めた。びっくりしたロイが息を飲む間にも、ハボックはロイのシャツの裾を握り締めて肩口にぎゅっと顔を寄せる。 「たいさ…」 消え入りそうな声でロイを呼ぶ声にロイは口を噤んだ。 「ごめんなさい…」 呟く声にロイは目を瞠る。 「大嫌いだなんて言って、ごめんなさい…」 「ハボ…」 ロイは肩口に顔を埋めるハボックの体をぐいと離すと、その顔を覗き込む。うっすらと涙を浮かべる顔にロイは堪らない愛しさを感じて、ハボックをぎゅっと抱きしめた。そうしてポケットから鍵を取り出すとハボックの掌に載せる。ハボックは一瞬目を見開いたが、次の瞬間泣きそうに笑った。促すように肩を抱いて歩き出せば、ハボックは大人しくロイと一緒に歩き出した。 家に戻って、ハボックが持っていた鍵で玄関を開けると、ロイはハボックの手を引いて寝室へと上がった。扉を閉めてハボックを引き寄せると、ロイはそっと口付ける。啄ばむように口付けるとハボックをぎゅっと抱きしめた。そのまま何もしようとしないロイにハボックはおずおずと聞いた。 「あの…シないんスか…?」 聞かれてロイは珍しく視線を泳がせる。 「…暴走しない自信がない…」 そう言うロイにハボックは一瞬目を瞠ると、次の瞬間プッと吹き出した。くくっと笑うハボックをロイは忌々しげに睨みつける。 「お前な…」 「だって…」 「私だって一応反省してるんだ」 不貞腐れたようにそう言うロイにハボックは笑うと囁いた。 「好きですよ、たいさ…」 そう言って笑う空色の瞳にロイは言葉を失う。 「アンタが好きです…」 その言葉を聞くと同時にロイはハボックに噛み付くように口付けた。 「んっ…んんっ」 舌を絡ませあいながらそのままベッドに倒れこむ。ベッドに押さえ込まれながらハボックはロイを見上げた。 「た、いさっ」 「お前が可愛すぎるからいけない」 そう言いながら顔中にキスを降らせてくるロイにハボックは笑いながら答えた。 「なんスか、かわいいって…オレみたいな…大おとこに、いう…ことばじゃないで、しょ…」 服を剥ぎ取られ、体を弄られてことばが途切れる。久しぶりにロイに触れられて、ハボックはほんの少しの刺激にもとんでもなく感じてしまう体を持て余した。 「たいさっ…まってっ…も、すこし…ゆっくり…っ」 「ごめん、ムリだ」 「あっ…そ、んなっ…ああっっ」 びくびくと震える体を押さえられなくて、ハボックはふるふると首を振る。頼りなげなその仕草にロイは興奮してハボックの乳首にむしゃぶりついた。 「あんっ」 思わず漏れた甘ったるい声にハボックはかあっと頭に血が上る。声を出したくなくて、噛み締めた自分の指から微かに血の香りがした。 「馬鹿、血が出てるじゃないか」 気がついたロイがハボックの指を口から外させる。 「やだっ」 ロイは血の滲むハボックの指に舌を這わせた。口に広がるハボックの血の味にぞくぞくするものを感じる。ロイはぷっくりと立ち上がる乳首に舌を這わせると、次の瞬間ぎりと歯を立てた。 「ひっ!」 痛みと食いちぎられるのではという恐怖にハボックの体が強張る。滲む血を味わいながらロイはハボックの胸を弄り続けた。 「た…さ…、も、やだ…っ…ヘンに、な、る…っ」 湧き上がってくる痛み以外のものに、ハボックはびくびくと体を震わせた。もうすっかり立ち上がってとろとろと蜜を垂らす自身をハボックはロイにこすり付ける。そのいやらしい仕草にロイはくすりと笑った。 「腰が揺れてるぞ、ハボック…」 意地悪くそう言うロイを睨みつけて、ハボックは呟く。 「意地悪…っ」 ロイはハボックの汗に濡れた髪を書き上げながら囁いた。 「どうして欲しい?」 そう聞かれてハボックは腰を揺らしながら答える。 「口で…シテ…」 欲に濡れた青い瞳を見下ろしてロイはにんまりと笑った。 「お前が望むとおりに…」 ロイはハボックの脚を大きく開かせると、そそり立つハボック自身に舌を這わせた。棹を舐めあげ口に咥えると、唇でじゅぶじゅぶと擦り上げる。やわやわと袋を揉みしだきながら舌と喉を使ってハボック自身を締め上げれば、ハボックの唇から熱い吐息が零れた。 「あ…ぅんっ…んんっ…」 瞬く間に追い上げられて、ハボックの脚がぴくぴくと震える。ロイの髪を掴むハボックの指が震え、限界を伝えてきた。 「あ…イ、くっっ」 どくん、とロイの口の中にハボックが熱を吐き出す。ロイは一滴残らず飲み干すと、ハボックの顔を覗き込んだ。 「悦かったか?」 聞かれてハボックは、顔を真っ赤に染めながらそれでも微かに頷くと、ロイにしがみ付いた。 「今度は?」 先を促すように聞いてくるロイをハボックは睨みつける。 「わかってるくせに…っ」 「はっきり言ってくれないと、判らないな」 意地悪くそう言うロイを悔しそうに睨みあげて、それでもハボックは躊躇いがちに次の行為を強請った。 「いれて…っ、いちばん、おくまで…アンタが…ほし、い…っ」 その言葉にロイはぞくぞくしてハボックの脚を高く抱えあげると、ひくつく蕾に舌を差し込んだ。 「う…んんっ」 ぬめぬめした感触が這い回るのに、ハボックの中心から新たな蜜が零れる。ロイはその蜜を掬い取ると蕾へと塗りこめ、つぷと指を差し入れた。 「あ…ああっ」 ぐちゅぐちゅとかき回されて、ハボックは我慢がきかなくなる。 「も、いいから…は、やくっ」 挿れて、と囁かれて、ロイはハボックの脚を押し開くと熱く滾る自身を宛がった。 「あ…」 ロイの熱に犯されることへの期待にハボックの唇から吐息が零れる。くちくちと入り口を熱で弄られて、ハボックの腰がもどかしげに揺れた。 「たいさっ」 焦らすロイの動きに焦れたハボックがロイを呼ぶ。ロイはにんまりと笑うと、ゆっくりとハボックの中へ己を埋めていった。 「あ、あ、あ」 じわじわと犯される感触にハボックがぴくぴくと震える。割り開かれる快感に、ハボックの中心から熱が迸った。 「我慢がきかないヤツだな」 呆れたようにそう言われて、ハボックの頬に血が上る。だが快感に支配された心は何も言い返すことが出来なかった。根元まで全部埋めて、ロイはゆっくりと抽送を始める。快感に濡れた声がハボックの唇から零れ、ロイの心を満たしていった。 「あ、んっ…たいさぁ」 「ハボック…っ」 「う…んんっ…はあっ」 「ハボ…ハボ…」 絡みつく熱い襞に、理性が焼ききれそうになるのを感じて、ロイは激しく突き上げる。びゅるりとハボックは熱を吐き出して、だが、瞬く間に登りつめていく自身にふるふると首を振った。 「ああっ…イイっ…キモチ、イイっっ」 「あつい、な…おまえの、なかは…」 ロイの言葉にハボックは無意識にきゅっとロイを締め上げる。眉を顰めて射精感を逃したロイはハボックの最奥をガンガンと突き上げた。 「ひっ…ああっ…あああっ」 何度目かの熱を吐き出しながら、ハボックがロイに縋ってくる。それを抱き返してロイは容赦なく突き上げた。 「た、いさぁ…おくに…ちょうだ、い…っ」 囁くハボックの言葉にロイ自身がぐっと嵩を増す。 「ああんんっっ」 無意識にずり上がる体を引き戻してロイは激しく突き上げると、ハボックの最奥へ熱を叩きつけた。 「ん…」 ロイの胸元に頭を摺り寄せるようにして身を寄せるハボックをロイは優しく抱きしめた。微かに笑う気配にロイは金色の髪をいじりながらハボックの名を呼ぶ。 「なんでもないっス…」 「なんでもないのに笑うのか、お前は」 はっきり答えないハボックにロイは面白くなさそうに言った。 「聞いたらきっと寒いっスよ?」 「いいから言え」 そう言われてハボックはロイの胸に更に頭を押し付けるようにして囁いた。 「幸せだなって思っただけ」 それを聞いてロイの顔が泣きそうに歪む。 「たいさ?」 何も言わないロイをいぶかしんでハボックが声をかければロイが小さな声で答えた。 「やっぱりお前は可愛い」 「え?」 そう言うと、ロイはハボックの脚を自分の脚で割るとゆっくりと体を繋げていく。 「えっ…う、そっ…ちょ、まってっ」 散々に愛し合った体はまだしっとりと解れていて、すんなりとロイを飲み込んでいった。 「アンタ…ひどっ」 もうこれ以上はムリだと散々泣きをいれてようやく解放されたと思ったのに、結局また含まされて、ハボックの体がぴくぴくと震える。ハボックは繋がる部分から湧き上がってくる快感が辛くて、ロイの体にぎゅっとしがみ付いた。 「たいさ…も、ムリ…っ」 「ぎゅうぎゅう締め付けてきてるじゃないか」 「なにいって…ああっ」 やんわりと突き上げられてハボックの唇から嬌声が零れる。 「私も幸せだよ」 ロイはハボックの耳元にそう囁くとゆっくりとハボックを追い上げていった。 2006/11/22 |
| 「猫」の続きです。思いがけず飛び出してしまったハボですが、結局はバカップル変わらず(苦笑)護衛の仕事はどうした、とのツッコミはなしでお願いします〜。タイトルの「夏梅」はマタタビのことです。昔から猫を飼ってらっしゃると言うアイシサイトマスターのイサヲさまのお話だと、猫にマタタビあげるとホントにヘロヘロになってしまうのだとか。でもって、いつまでもマタタビから離れないのだそうです。ロイにとってのマタタビがハボでハボにとってのマタタビはロイなのだと思っております。それにしても、いつも苦労するのは司令室の面々(特にブレダ)な気が…(笑) |