| 鏡 |
| 「ちょっと止めてくれ」 仕事を終えて家に戻る途中、そう言ってロイは時が止まったような古びた看板の店の前で車を降りた。 (こんな所に骨董品店があったのか) 扉をあけると来客を知らせるようにドアベルがカランと音を立てる。古いもの特有の湿った匂いが立ち込める店の中をロイはゆっくりと見て回った。凝った装飾の置時計に磨り硝子のスタンド、他にも籐製の椅子や箪笥などもある。 (特に変わったものはなさそうだな) そう思って店を出ようとしたロイは棚の上に綺麗な象嵌細工の鏡があるのに気がついた。興味を持ったロイが手を伸ばしてそれを取るのと同時に背後から声が掛かった。 「それはいわくつきの鏡でしてね。その鏡を手にした人物はことごとく姿を消しているそうですよ」 ロイが振り向くとそこには丸眼鏡に着古したスーツを着た店の主人と思しき人物が立っていた。 「お買い求めになるというならお売りしますが、決して鏡の蓋を開けないことです。開けてしまったらその時は何が起こっても責任は持てませんよ」 笑いを含んだその声にロイは手元の鏡を暫し見つめていたが、やがて口を開くと言った。 「貰おう、いくらだ?」 ロイの言葉に、おや、と片眉を上げて、だが店の主人は金額を告げる。言われるままの金を払うと、ロイは鏡を手に店を後にした。 家に戻るとロイはコートを脱いでソファにどさりと腰を下ろした。買ったばかりの鏡の見事な象嵌細工を見つめながらロイは年下の恋人のことを考える。 些細なことで喧嘩をした。きっかけを思い出せないくらい些末なことなのに、気がついたら怒鳴りあいの大喧嘩になってしまっていた。多分悪いのはこちらの方なのだろう。きっと素直に謝ればハボックもすぐに許してくれるに違いない。だがそうするタイミングを掴めないまま気まずい時が流れて、ますます仲直りする機会を逸しているロイだった。 (くそ…) もう2日もまともに口を利いていない。そろそろ我慢も限界だ。ロイは今すぐにハボックを抱きしめてそのしなやかな体にキスを降らせたい衝動を抑えきれずに、手にした鏡を苛々ともてあそんだ。 と、その時。 パチンと音がして鏡の蓋が跳ね上がった。あっと思った瞬間古い鏡に映し出された自分の顔と向き合うことになる。そしてその途端、鏡の中の顔がにやりと冷たい笑みを浮かべた。 「な…っ?!」 驚くロイの回りに白い光が溢れ、次の瞬間、ロイは何もわからなくなった。 「く、何だったんだ、一体…」 ロイは痛む頭を押さえてふらふらと立ち上がった。そして辺りを見回してぎょっとする。そこは見慣れた家のリビングではなく、何もない真っ白な部屋だった。扉も窓もないただただ真っ白な四角い部屋の真ん中にロイは立っているのだった。 「どこだ、ここは?」 辺りを見回し白い壁に手を滑らすが、出口はどこにも見当たらない。流石に焦りを感じ始めたロイが胸ポケットの手袋を取り出そうとしたとき、壁一面に大きく自分の顔が映し出された。否、それは自分の顔をした誰かだ。 「やあ、元気かい?」 ソイツはにやりと笑うとロイにそう言った。 「誰だ、貴様?」 睨みつけてるロイにソイツは平然と答えた。 「誰だって?オレはアンタだよ。」 「ふざけるなっ!ここから出せ!!」 「イヤだね。オレは何百年もそこにいたんだ。やっと外に出られたんだからな。これからはアンタがそこにいるのさ」 「どういうことだ?!」 「そこは鏡のなかだよ、薄々わかってるんだろ?もう随分長い間あの鏡を開く者はいなかった。オレは待って待って待ち続けた。やっとアンタが鏡を開いてオレは外へ出られたんだ。二度とそこへ戻る気なんてないさ」 くくく、とイヤらしい笑いを零しながらソイツは続けた。 「オレはアンタと入れ替わるんだ。アンタの周りの人間がオレをアンタだと認めたらオレは完璧にこちらの世界の住人になれる。そしてアンタは次の誰かが鏡を覗いてくれるのを今か今かとまちつづけるのさ、かつてオレがそうしていたようにな」 「何を勝手なことをっ!今すぐ私をここから出せっ!」 「イヤだよ。それにオレとアンタが完全に入れ替われば、アンタも自分が誰だったかなんて忘れちまう。ただ外へ出たいっていう願望だけに支配されて、それだけが全てになるんだ。なぁに、そんなに時間はかからねぇよ。大人しく待ってな」 それだけ言うと、壁を覆い尽くしていたロイを真似たものの姿はふっつりと消えてしまう。 ロイは取り残された真っ白な部屋の中で呆然と立ち尽くした。 「……」 ハボックは執務室から出ると、扉に寄りかかってため息をついた。昨日まで機嫌が悪くてピリピリしていたロイは今日はなぜか酷く上機嫌だった。 (なんだよ、こっちはすごく気にしてたのに) 些細なことで大喧嘩になり、でも今回は絶対ロイに非があると思っていたハボックは心を鬼にして自分からは歩み寄らずにいたのだが、流石に長引くにつれ自分から謝ったほうがいいだろうかと悩んでいたのだ。今日もロイの機嫌が悪いようであれば謝ってしまおうかと考えていた矢先、やたら上機嫌なロイをみて肩透かしを食った気分になった。 (べっつにいいけどさっ。どうせ、大佐はオレとのことなんて…) わざと強気に考えようとするが、却って落ち込みそうになって、ハボックは盛大にため息をつくと自分の席に向かった。席に着くか着かないうちに執務室のドアがあいてロイが顔を覗かせる。 「ハボック少尉、コーヒーを持ってきてくれ」 それだけ言うとぱたんと扉が閉じた。 「はいはい、まったく…」 ハボックは不承不承席を立つと給湯室に向かった。 コーヒーを持って執務室に入ったハボックはぞわりと背筋を走るものを感じ、思わず足を止めた。目だけを動かして執務室の中を見回すが、特に変わったものは見当たらない。 (なんだってんだ、一体) ハボックは小さく頭を振ると机の上にコーヒーのカップを置いた。 「どうぞ」 なるだけ感情を出さないようにそう言うとそそくさと部屋を出ようとする。だが。 「ハボック」 ロイに呼び止められて仕方無しに振り向いた。 「なんスか?」 「今夜は何か予定があるのか?」 ロイの顔に浮ぶのはいつもの不敵な笑みだ。何ら変わったものはないというのに。 (なんだ?) ハボックの中に違和感が膨れ上がる。それが何なのか見極めようとするが、よく見ようとした途端、それは霧のように霞んで消えた。 「ハボック?」 呼びかけられてハボックはハッとする。 「あ、いや、オレ、今日はヤボ用があるんで…」 それだけ言うとハボックは逃げるように執務室を後にした。 自分の席についてからもハボックは自分の体が強張っているのをどうすることも出来なかった。 (一体なんだってんだ、なんで、こんな…) 確かに突然上機嫌になったとはいえ、あそこにいるのはロイなのに、どうしてこんなに落ち着かないのだろう。 「なぁ、ブレダ」 その落ち着かない気持ちのままに、ハボックは向かいの席に座る同僚に話しかけた。 「なんかさ、大佐、変じゃないか?」 ハボックの言葉にブレダが不思議そうな顔をする。 「変って?」 「いや、上手く言えないんだけどさ。その、変な感じ、しないか?」 「はぁ?お前、何いってんだよ。さっぱりわかんねぇぞ」 ハボックの言葉に半ば呆れてブレダが答える。 「変、じゃないのか。そ、うだよな。何言ってんのかな、オレ」 困ったような笑いを零すハボックをブレダは妙なものを見る目つきで見つめていた。 白い部屋の中でロイは疲れきって座り込んでいた。錬成した焔も白い壁に傷一つつけることは敵わなかった。扉か窓を錬成しようとしたが、努力は何一つ報われず、正直ロイは途方に呉れていた。 「くそ、何とかしてここを出ないと…」 焦る気持ちはだが何も生み出すことはなく、ここへ来てからどれほど時間がたったのかも判らないままロイはなす術もなくただ悪戯に時を過ごしていた。 部下達は異変に気がついているのだろうか。そう考えてロイはぎくりとした。あの太った見掛けとは裏腹に明晰な頭脳を持つあの男の名はなんと言っただろう。あの機械に滅法強い童顔な男の名は?いや、そもそもそんな男達が部下にいただろうか。 思い出せない。 自分の存在が希薄になっていくような、そんな漠然とした恐怖がロイの中に広がっていった。 恐怖に押しつぶされそうになりながら、だが何とか現状を打開できる糸口がないかと必死に頭を巡らせるロイの前の壁が揺らいだと思うと、目の前にまたあの顔が映し出された。ハッとして顔をあげればニヤニヤと楽しそうに嗤っている。 「よう、どうだ?もうだいぶ記憶が怪しくなってきただろう?」 その言葉にロイが睨みつけるのをむしろ嬉しがるようにソイツは続けた。 「あと少しだ。そうしたらオレは完璧に存在できる。お前と入れ替われるんだ。ははは、どれだけこの時を待っていたことか。そうだな、あの金髪の男、アイツがオレを認めれば何もかも終わりだ」 ロイの体がびくりと震えた。 (ハボック) 空色の瞳を細めて笑うハボックの姿が浮んだ。それと同時に堪らない愛しさが。 (忘れたくない) 忘れられるより何より、自分自身がハボックを忘れたくない。アイツのことを忘れてしまうなら自分が消えてしまった方がましだ。 「そうだ、イイコトを思いついたよ。あの男がオレを受け入れる所を見せてやろう。そうしてじわじわと自分を形作る記憶が消えていく恐怖を味わうといい」 「ハボックに手を出すな!」 ロイは思わず叫んだ。 「くくく…。まぁ、楽しみに待っているんだな」 「待てっ!」 ぞっとする嗤いを響かせて消えてしまったその壁にロイは走りよって縋りついた。 「ハボック…っ!」 白い壁に手をついて、ロイはなす術もなく立ち尽くした。 (何をオレは気にしてるんだろう) ハボックは一向に頭に入ってこない書類をパラパラと眺めて吸っていた煙草を灰皿に押し付けた。そうして新しいものに火をつけるとため息と煙を同時に吐き出す。 (ブレダもフュリーもおかしい所なんてないっていってるんだし。なのに、何をオレはぐだぐだと気にしてるんだろう) 考えれば考えるほど、何がおかしいと感じているのか曖昧になって行く。でも、それでも漠然とした不安は消えてくれずぞわぞわと背中を這い上がってくるものにじっと座っていることも出来なくなってくる。 (ああ、くそっ、キモチわりぃ…) ハボックががしがしと頭をかいて煙草を灰皿に押し付けた時、司令室にロイが入ってきた。ぎくりと体を強張らせたハボックの側に立つとその肩に手をおいて言った。 「あと30分したらあがるから車を回しておいてくれ」 「…Yes, sir …」 肩に置かれた手を鉛のように感じながらハボックは答えた。 車を家の前につけるとハボックは車を降りてロイの為に扉をあける。 「大佐」 ハボックに促されてロイは車から降りるとハボックの手を取った。 「車を裏に回して、今日は泊まっていけ」 「いえ、車、戻してきますんで。仕事もありますし」 ロイの目を見ずにハボックが答える。 「車のことは中尉に言ってある。仕事も明日でいい。泊まっていくんだ」 ぐっと力を込めて握ってくる手を振りほどきたい衝動に駆られてハボックは唇を噛んだ。 「ハボック」 再度名前を呼ばれてハボックはため息をつくと「Yes, sir 」と答えた。 見慣れたリビングがまるで違うところのように感じられてハボックは小さく身震いした。ソファに座ることもせず所在無げに立ち竦んでいると、ロイが酒とグラスを持ってやって来た。 「何をボケッと立っている。座れ」 ロイはテーブルに持っていたものを置くとソファに腰掛けた。 「ハボック」 立ち竦むハボックを見上げて名を呼ぶとその腕を引いて自分の隣に座らせる。グラスに酒を注ぐとハボックへと差し出した。ハボックは無言でそれを受け取るが、その視線は落ちつか無げにうろうろと部屋を彷徨っていた。そんなハボックにロイはくすりと笑みを零してハボックの腿に手を置く。びくりと身を竦ませるハボックに身を寄せてその耳元に囁いた。 「どうした、落ち着かないな。初めてでもあるまいに」 そういいながらその唇に自分のそれを重ねようとする。だがそんなロイをハボックは咄嗟に突き飛ばしていた。そしてそうしたことで酷く動揺するハボックをロイの黒い双眸が見つめ、その視線に縫いとめられるようにハボックは身動きできないでいた。 白い部屋にガチャリと音が響いた。音のするほうを振り向いたロイの目に白い壁を透かして見慣れたリビングの様子が映し出された。扉を開いて入ってきたのは自分自身の姿をした化け物と金髪の恋人。 「ハボックっ」 ロイは壁に映し出されるハボックに駆け寄ったが、手に触れたのは堅い壁の感触だけだ。 ハボックは空色の瞳を不安げに揺らめかせて立ち尽くしている。そんなハボックの下に酒の用意をしたソレは近づいてくるとハボックに座るよう促している。酒を手渡されたハボックは落ちつか無げに視線を彷徨わせていたが、ソレに擦り寄られて咄嗟に突き飛ばしていた。だが次の瞬間凍りついたように身動きできずにいるハボックにロイは聞こえないと判っていながら大声でその名を呼んでいた。 「ハボックっっ!」 誰かに呼ばれたような気がして、ハボックはハッとして身じろぎした。そうして、自分に覆いかぶさるように近づいてくるロイに考える間もなく手にしたグラスの中身をぶちまけていた。突然酒を掛けられた相手は呆然とした次の瞬間、ハボックを押さえ込もうとして手を伸ばしてきた。その手に触れられてハボックの体を冷たい感触が走り抜ける。 「…アンタ、だれだ…?」 考えたわけでもなく、その言葉がするりと口を突いて出た。そう問われてハボックの上に圧し掛かる相手は唇に笑みを浮かべて答える。 「何、バカなことを言っている?私が誰に見えるというんだ」 そういう相手の顔を見つめてハボックは瞬きをした。確かに目の前にあるのはロイの顔だ。でも。 「…違う、大佐じゃない。誰だ、お前…っ?」 自分を押さえ込もうとする腕にとてつもない力が入り、ハボックは思わず呻いた。その腕を振りほどこうとするがびくともしない。 「冗談はそれ位にしておけ。あまりしつこいと笑えないぞ」 そう言って圧し掛かってくる相手からなんとか逃げようとハボックはもがいた。 「やめろっ!オレに触るなっ!」 「ハボック…」 自分を呼ぶ声にぞわりと悪寒が走る。ハボックは思い切り腕を突っぱねて叫んでいた。 「イヤだっ!…た、いさっ…大佐っっ!」 ハボックが叫ぶのと同時に部屋の中を真っ白な光が満たし、何も見えなくなっていった。 「く…っ」 ハボックは何度か目を瞬かせて目の前の人物に焦点を合わせた。それが誰だかわかるとギクリと身を強張らせたが、次の瞬間体から力を抜いた。 「たいさ…?」 目の前の人物が呆然と自分を見下ろしている。 「ハボック…」 ハボックがその人の頬に手を伸ばそうとした瞬間、棚の上に置いてあった象嵌細工の鏡が独りでにカタカタと大きな音を立てて動いた。ギョッとして鏡を見るハボックの前で、ロイは胸ポケットから手袋を取り出して素早く嵌めると指を擦り合わせた。その瞬間鏡がボッと焔を纏う。焔に包まれてもがき苦しむようにカタカタと回り続けていた鏡はやがて息絶えたようにカタンと棚から落ちて動かなくなった。 呆然とその様子を見つめていたハボックだったが、ゆっくりとロイに視線を向けると囁くように言った。 「大佐…ですよね?」 ロイは答える代わりにハボックに口付けた。啄ばむようなそれが段々と互いを貪る深いものに変わっていく。ようやく唇が離れると、息の上がったハボックはロイに尋ねた。 「一体どういうことです?あの鏡は…っ」 言い終わらぬうちに再び唇を塞がれてハボックはロイを押しやろうとした。 「たい、さっ」 「後だ」 ロイは一言でハボックを黙らせると乱暴にその衣服を剥ぎ取っていく。 「待って、たいさっ」 「後だと言ったろうっ」 尚も言い募ろうとするハボックにロイは叫ぶように言う。そんな切羽詰った様子のロイにハボックは一瞬目を瞠ると苦笑してロイの頬に手を伸ばした。 「せめてベッドに行きませんか?」 囁くように言われて、ロイは動きを止めると次の瞬間ハボックの腕を力任せに引っ張り上げて立たせ、ぐいぐいと引き摺るように寝室まで足早に向かった。ハボックを突き飛ばすようにベッドに寝かせるとその体の上に圧し掛かっていく。残った服を剥ぎ取るのももどかしく、ロイはハボックの体にキスを降らすと、奥まった蕾に指を差し入れた。 「くぅ…っ」 あまりに性急に求められてハボックは気持ちがついていかない。いつもなら熔かされて快楽に流される自分を意識する余裕もなくなってからなされる行為が、今日はまだ意識がはっきりとしているうちに施されて、正直恥ずかしくて頭がおかしくなりそうだ。だが、やめてくれと言おうとして見上げたロイの切羽詰った様子に何も言えなくなってしまった。 「ハボック…」 何度も何度も自分のことを呼んでくるロイに自然に笑みが零れて。 「そんなに、よばなくっても…ここにいるから…」 そう囁いてロイの首に手を回して唇を合わせる。足を抱えられて熱く滾ったロイが自分の中に入ってくるのを僅かな痛みとともに受け止めていった。 「で、アレは何だったんです?」 何度も求めてこようとするロイを押し留めて、きちんと説明を聞かないうちはもうしないと言い張るハボックに不承不承折れたロイはハボックの肩口に小さなキスを降らせている。 「…たいさっ」 ハボックがそんなロイを押しやって睨みつけるとわざとらしくため息をついて、ロイはハボックの胸に顔を伏せた。 「…お前はなんでアレが私じゃないとわかったんだ?」 逆に問い返すとハボックはきょとんとした顔をする。 「何でって言われても…」 「違うと思った理由があるだろう?」 そう言われてハボックは首を傾げた。 「んー…なんとなく…?」 「何となくってお前…」 もっとちゃんとした理由を期待していたロイは肩透かしを食ったようで呆れたようにハボックを見下ろした。 「キモチ悪かったから」 「どういうことだ?」 「アイツの側によるとなんかすごいざわざわして気持ち悪かったから」 そういうハボックをしげしげと眺めてロイはがっくりと肩を落とした。 「犬の本能というわけか…」 「で、アレは何だったんスか?」 質問に答えたのだから今度はあんたの番だとでも言いたげに、ハボックが最初の質問を繰り返した。 「アレは鏡の中に巣食っていた化けもんだ」 「鏡ってさっき燃やした?」 「ああ」 と答えて、ロイは鏡を手に入れた経緯からざっと説明した。説明を聞き終えたハボックが呆れた顔をして見上げているのをロイは怪訝そうに見やる。 「開けるなって言われた鏡を開けたんスか?」 「あけようと思って開けたんじゃない。いじってたら勝手に開いたんだ」 「勝手にって、いじってたら開くかもしれないってわかりきってるじゃないっスか」 アンタ、バカじゃないの、と続けられてロイはムッとして言った。 「元はと言えば私をいらいらさせたお前が悪いんだろうが」 「はぁっ?オレの所為っスか?苛々してたのは元々アンタが悪いんでしょうが。それをオレの所為?!」 カッとして言い返してくるハボックにロイは一瞬口をつぐんで、ハボックの肩口に顔を埋めてため息をついた。 「…いや、私の所為だな。私自身の所為だ」 しおらしくそういうロイにハボックは目を瞠って呟いた。 「…アンタ、ほんとに大佐ですよね?」 「…どういう意味だ?」 「いやだって、自分からそんなこと言うなんて、実はアンタも偽者だったりして」 「…ハボック…」 「えー、だって、普段120%自分が悪くたって絶対そうだって認めないし」 だから偽者かなぁって、などとぬかすハボックをロイは冷めた目で見下ろした。 「いいだろう、私が本物だってことをその体にじっくり教えてやろうじゃないか」 「…え…っ?」 しまったと思ったときには身動きできないようにベッドに押さえ込まれて。 「待って!いや、本物だってわかって、る、から…っ!」 後悔しても時既に遅く、ハボックはその後たっぷりロイが本物であることをその体に教え込まれたのだった。 2006/6/13 |
テレビのニュースで「古い鏡がどうの」というのをやっていて思いつきました。日々ネタ探し…。ハボックは絶対野生の本能でロイが偽者だって気づきそうですよね。 |