汝的名  第四章



 結局その後、ハボックはロイの食事の支度をしたり、汗に濡れたシーツを変えたり色々と世話を焼いて、また夕方来ますといい置いて帰っていった。ロイは新しいシーツのサラリとした感触にホッと息をつくとベッドヘッドにもたせ掛けた枕に寄りかかる。
 熱を出して寝込んでいる間、ロイは夢を見ていた。ハボックの夢だ。優しく微笑む空色の瞳に好きだと囁いた。ハボックがそれになんと答えたのか、どんな顔をしたのかは覚えていない。気がついた時には本物のハボックがいて、ロイはそれが夢の続きならいいと思った。夢の中でなら本当のことが言える。ハボックを「ジャン」と呼んで愛を囁くことが出来る。だが、そう考えてロイは苦く笑った。夢の中で愛を告げたところで何になると言うのだろう。ただ空しいだけだと、ロイは震える唇を噛み締めた。


 夕方になると約束どおりハボックがやってきた。仕事はどうしたと聞けば、中尉が気を使って早くあげてくれたのだとハボックが答える。ロイは丸1日ぶりにベッドから下りると、カーディガンを羽織ってリビングのソファーに座っていた。
「明日1日ゆっくり休めばもう大丈夫ですね」
「明日からでも平気だぞ」
 ロイがそう答えればハボックは笑って首を振った。
「しっかり治した方がいいっスよ。中尉もそうしろって言ってましたし」
「…仕事が溜まって怒ってるんじゃないのか、中尉」
 心配そうにそう言うロイにハボックはくすくすと笑う。
「そこまでオニじゃないっスよ、中尉だって」
 病気なんだから仕方ないっスよ、と言うハボックにロイもため息をついた。
「熱を出したのなんて久しぶりだ」
「オレがこなかったらどうしてたんです?誰か呼ぼうとか、思わなかったんですか?」
 そう言われてロイは微かに笑う。それからふざけたように言った。
「ジーンなら来てくれると思ったからな」
 ハボックはロイの言葉に一瞬身を硬くしたが、ロイの目を見つめると言った。
「オレの名前はジーンじゃありませんよ」
「判ってるとも」
「ならジャンって呼んでください」
 苛立った様に言うハボックにロイは微かに目を見開いて答える。
「どうしたんだ、ジーン。機嫌が悪いな」
 笑いながらそう言うロイをハボックは睨んだ。
「大佐がオレを『ジーン』って呼ぶのはオレが女ならいいと思ってるってことっスか?」
 いつもと違う反応を示すハボックにロイは困惑して黙り込む。そんなロイにハボックは重ねて言った。
「オレが男だからダメだってそう思ってるってこと?」
「ジーン、何を…」
「ジャンって呼べよっ!!」
 呆然と見上げてくるロイを見下ろしてハボックは怒鳴った。
「オレはジーンじゃない、ジャンっスよ!それとも熱出して意識朦朧としてなきゃジャンって呼べないんスかっ?」
 ハボックの言葉に絶句するロイの前に跪いてハボックはロイの手を取る。
「たいさ、呼んでよ、ジャンって。呼んだら何か変わるかもしれないでしょ?」
「私は…」
 不安に揺れる黒い瞳をハボックは優しく見つめる。にっこりと笑うとロイの手を握り締めた。
「呼んで、たいさ…」
「……」
「たいさ」
「…ジャン」
「はい」
「…ジャンっ、私は…っ」
「はい、たいさ」
 見つめてくる優しい空色にロイはぎゅっと目を瞑ると振り絞るように囁いた。
「…お前が好きだっ」
 ロイがそう言った途端、ハボックがロイにしがみ付いて来る。黒い瞳を見開くロイにハボックは嬉しそうに言った。
「やっと言ってくれた…」
「ジャン…」
 ハボックはロイの胸に顔を寄せたまま囁く。
「熱に浮かされたアンタに好きだって言われた時はビックリしたけど、でも、イヤじゃなかった。むしろ嬉しくて…」
 そう言ってハボックはロイの顔を見つめると言葉を続けた。
「オレもアンタが好きみたいだ」
 そういわれた途端、ロイはハボックの体を突き放す。驚いて見上げるハボックを睨むようにしてロイは言った。
「ダメだ、お前、私が好きだと言ってる意味が判っているのかっ?私がお前をどうしたいか…っ」
「オレを抱きたい?」
 ずばりと聞き返されてロイは絶句する。そんなロイにハボックは薄っすらと笑うと言った。
「いいっスよ、アンタになら」
 ハボックはロイの隣りに腰を下ろすと囁く。
「たいさ、アンタが好きです…」
 そう言って笑うハボックにロイはくしゃりと顔を歪め、次の瞬間、噛み付くように口付けていた。


「んっ…ふ…」
 ソファーに押し倒されて深く口付けられる。何度も角度を変えて繰り返されるそれに、ハボックは意識が朦朧としてきた。気がつけばシャツを肌蹴られ、ロイの唇が白い肌を辿っていく。時折強く吸い上げられ、そのたびぴくりと体が震えるのを止められない。きゅっと乳首を捻り上げられてハボックの唇から甘い声が上がった。
「んあっ」
 そのあまりの甘ったるさにハボックはかあっと顔を染めると、唇を噛み締める。ロイはそんなハボックにうっすらと笑うとその唇を指で辿った。
「声を聞かせてくれ…」
「な、に言って…」
「声が聞きたい…」
 そう囁くとロイはハボックの乳首をぐりぐりとこね回した。
「やっ…あんんっ」
 胸から広がる甘い疼きに零れる声を止められない。ハボックはロイの手首を掴むと必死にソコから離させようとした。ロイは無駄な抵抗をするハボックにくすりと笑って、その唇をハボックの硬く立ち上がった乳首に寄せるとぺろりと舐めあげた。
「ひあっ」
 びくんと体を仰け反らせるハボックの力の抜けた手から自分の腕を取り戻すと、ロイは舌と指を使ってハボックの両方の乳首を責め立てた。
「ひぅんっ…んんっ…や、め…っ」
 そんなところをいじられてこんなに感じてしまうなんて、自分が信じられない。甘ったるい自分の声を聞くに堪えなくて、ハボックは自分の腕に歯をたてた。
「ん…っ、んふ…」
「まったく、お前は…」
 どうしても声を上げようとしないハボックに呆れたようなため息をついて、ロイはハボックの腕を外させる。
「血が出てるじゃないか…」
 ロイはそう言うと血が滲むハボックの腕をぺろりと舐めた。
「あ…」
 傷口を舐められてピリとした痛みと共にぞくりと快感が背筋を走る。ぎゅっと目を瞑るハボックに薄っすらと笑うとロイは手を滑らせてハボックの中心を握り締めた。
「んああっっ!」
 そのままやんわりと擦り上げればハボックはビクビクと体を震わせながら喘いだ。顔の前に腕を交差させて覗き込むロイの視線から隠れようとするハボックの中心を強く握り締めると、ハボックの唇から悲鳴が上がる。
「ハボック、顔を見せろ…」
「や…だって、ここ…あかるい…っ」
 激情に流されるままこんなところで行為に及んでしまったが、淡い室内灯に照らされた部屋は十分に明るくハボックは自分を押さえ込むロイの男らしい色気に満ちた表情を見るにつけ、一体自分はどう、相手に見られているのかと考え、とてもじゃないが顔を曝してなどいられなかった。必死に腕を上げて顔を隠そうとする相手にロイはくすりと笑うとその耳元に囁く。
「顔をみせて…」
 そういえばふるふると首を振るハボックに、力ずくで腕を外させようかとロイが思った時、腕の隙間からハボックが目を覗かせて答えた。
「なまえ…」
「え?」
「なまえ、ちゃんと呼んでくれたら…そしたらアンタのいうこと…なんでもききます…」
 目元を染めてそんなことを言うハボックをロイは目を見開いて見つめる。胸の中に広がる温かい想いに、自然と笑みが浮ぶ。
「後でなしって言うなよ」
「…い、いません、よ…っ」
 言葉を交わす間もやわやわと刺激されて、ハボックの声が不自然に途切れる。ロイは腕の奥から自分をまっすぐに見つめる瞳を見返すと囁いた。
「ジャン…」
 びくんと震える体を抱きしめてロイは囁く。
「ジャン…愛しているよ」
 その途端、ハボックの顔を覆っていた腕がほどけて、ロイの背に回された。かき抱くように引き寄せられて自然と唇が合わさる。舌をきつく絡めあって互いの口中を貪る間も、ロイの手がハボックの中心に絡みつき熱を煽っていく。ロイの口内に吹き込まれるハボックの呼吸が熱さを増し、限界が近いことを知らせていた。
「あっ…や、も、ダメッ」
 振りほどくように唇を離してハボックが叫ぶ。押し返そうとする体を押さえ込んできつく先端を引っ掻けばハボックの体が大きく震えた。
「アッアア―――ッ!」
 喉を仰け反らせてロイの手の中に熱を迸らせる。びくびくと小さく痙攣して、熱を吐き出す体を愛しげに抱きしめてロイは熱に濡れた指をハボックの奥へと差し入れた。
「いっ」
「力を抜いて…」
「は…あっ」
 ロイは体を起こすと一度ハボックの蕾から指を引き抜き、その長い脚を大きく開かせた。
「ちょっ…やだっ」
 灯りの下に恥ずかしい部分を曝されて身を捩るハボックの脚をM字型に開かせると、ハボックの手を太腿に添えさせた。
「ジャン…こうやって持っているんだ」
「いやだっ、恥ずかし…っ」
「何でも言うことを聞くんだろう、ジャン…」
 そう言われてハボックはかあっと顔を染める。それでも目をぎゅっと瞑ると言われたとおりに脚を支えた。再び熱を取り戻してそそり立つハボック自身とその奥でひくつく蕾が灯りの下で曝け出され、ロイはその淫猥な光景をうっとりと見つめる。そうして顔を近づけると、ひくひくと蠢く蕾に舌を差し入れた。
「ひぃっ」
 途端に逃げ出そうとする腰を押さえつけてロイは舌を這わせる。ぴちゃぴちゃといやらしい水音が響き渡り、その上をハボックの喘ぎ声が流れていった。
「んんっ…んふっ…ぅああっ」
 止めどなく蜜が零れて、ロイが舌を這わせる蕾をも濡らしていく。顔を離してぐっしょりと濡れたソコへ指を突き入れれば、ハボックの喘ぎが大きくなった。
「ひあ…んっ…あふ…」
 ぐちぐちとかき回し沈める指を増やしていく。焦れたように揺れる腰にロイは指を引き抜くと熱く滾った自身を押し当てた。ぐぐっと押し入れば、途端にハボックの体が強張る。ロイはハボックを落ち着かせるようにその頬を撫でると、そっと囁いた。
「ジャン…」
 優しく囁く声に、引き瞑っていたハボックの瞳がゆっくりと開いた。濡れた蒼い瞳を見つめてロイは優しく微笑んだ。そうしてゆっくりと抽送を始めれば、ハボックの唇から甘い喘ぎが零れる。
「ぅん…あ…あんっ…は、ああっ」
 ぐちゅぐちゅと濡れた音と甘い喘ぎ声、荒い息遣いが響き、ハボックは耳からも犯されているような気になる。だが、それは決して不快なものではなく、むしろもっともっとと貪りたくなるのだった。
「ああんっ…たいさぁっ」
 ロイの動きに合わせて自らも腰を揺らしながらハボックはロイを呼んだ。ロイの熱が熱い襞を擦り、そこから堪らない快感が全身を支配していく。ぐずぐずに溶かされてしまいそうな不安に、ハボックはロイに縋りついた。
「あ…ヘンになる…っ」
 体中の細胞がロイに染められて自分のものではないような気がする。遠くに聞こえる甘い声が自分のものだと気づき、ハボックは恥ずかしさに頬を染めながらロイにしがみ付いた。その途端ガツンと最奥を突かれて白く爆ぜる。
「あっあっ…や、も…た、いさっ」
 達したばかりの敏感な体を、だがロイは容赦してくれない。ハボックはボロボロと涙を零しながらロイに赦しを乞うた。
「も、ムリ…っ、まって…ひああっっ」
 熱い塊りがハボックの一番感じるところを突き上げる。胸を仰け反らせて続けざまに白濁を吐き出すハボックにロイはうっとりと笑った。
「もう、離さない…ジャン…」
 囁く声がハボックの胸を熱く満たしていく。ハボックはロイの背を抱きしめると深く口付けていった。


2007/2/19


というわけで偽者の大佐とハボの話でしたー(苦笑)とてもうちのロイハボのロイとは思えないほど健気で、まぁ、たまにはこんなのもいいかなぁと…。ハボックの名前がどうしてフランス語読みなのか、オフィシャルで何か説明があったのかはよく判らないのですが、どうにも気になって、しかも英語読みなら女性の名だし、とずっと思っておりまして。で、こんなネタ、どっかに転がっていそうだよねと思いつつお目にかかったことがなかったので自分で書いてみた、と。ロイはともかく中尉が来る直前までちゃんと書類を確かめてないなんてあり得ないと思うのですが、まあ、そこはこれ、そうでないとお話が成り立たないので多めに見て頂ければと〜。基本、うちの2人には「ハボック」「大佐」と呼び合って欲しいのですが、今回は特別「ジャン」と呼ばせてみました。うう、違和感ありあり〜(汗)最後のえちシーンではいつものロイっぽかったかな、と。そんなこんなでお楽しみ頂ければいいなっ。
あ、そうそう、タイトルの「汝的名」、ホントは日本語で「君の名は」としたかったのですが、pearlに格納しているssは漢字タイトルにしているので苦しい時の中国語頼みってわけで、でも本当は「汝」ではなく、他の「あなた」という意味のある漢字だったのですが、それがどうしてもパソで出せませんで、仕方なしに同じ「あなた」という意味のある「汝」を使った次第です。造語中国語ですね、かなり苦しい(汗)