純愛2  chap.4



 目的の屋敷の少し手前で車を降りるとロイは徒歩で向かった。走り出したい気持ちを懸命に抑えて一歩一歩踏みしめるようにして近づいていく。ロイたちが屋敷の扉が見える所まで来たとき、まるでそれを待っていたかのように扉が開いた。そして、中から背の高い銀髪の男が出てきたのを目にして、全員の間を緊張が走る。男はロイににやりと笑いかけるとサングラスをはずした。その男の顔にその場の全員が目を瞠る。
「メッケル准将…」
 隣りに立つフュリーが呆然と呟くのを聞きながら、ロイは相手を睨みつける。メッケルは楽しそうに笑うと口を開いた。
「久しぶりだな、マスタング大佐。そろそろくる頃だと思っていたよ」
「…貴様、ハボックをどうしたっ?!」
「どうしたと思う?」
 メッケルの言葉にロイの中の怒りのオーラが膨れ上がる。メッケルはそれを満足そうに見つめて言った。
「貴官は私が築き上げたものを全て奪ったんだ。1つくらい貰ってもいいだろう?」
「ふざけるなっ、貴様にやるものなど1つだってあるものか!」
「随分な言い草だな」
 メッケルは呟くとロイを見つめた。
「返す気はないよ」
「っっ!!」
「返して欲しいというなら、それは…」
 メッケルは瞳をすっと細めると囁いた。
「お前の命と交換だ!」
 いつの間にかメッケルの手に握られていた銃が火を噴く。ロイは隣にいたフュリーを突き飛ばしながら身をかわして地面に転がった。半身を起こして手袋を嵌めた手を伸ばして指を擦り合わせる。ロイの指先から走った焔がメッケルの銃から飛び出した弾を熔かし、メッケルへと辿りつくと瞬く間にその身を紅いベールの中へと包み込んだ。銃を構えたまま全身を焔のベールに包まれたメッケルは、その銀髪を紅く燃え上がらせながら高らかに笑っていた。
 誰もが息を飲んで見守る中、笑い続けたそれはやがて、黒い人型の塊りとなってどおと倒れた。既に息絶えたそれがいつ笑うことをやめたのか、誰もわからないほどその笑い声はその場に居合わせた人間の耳にこびり付いて離れなかった。
 誰もが呆然と見守る中、一番最初に我を取り戻したロイがメッケルの死体を踏み越えて屋敷へと入っていく。
「大佐っ!」
 慌ててついていこうとするフュリーをロイは肩越しに振り返ると、短く「ついてくるな」と言って、扉を閉めた。


 屋敷の中はまるで人が住んでいた気配がなかった。薄っすらと埃すら積もって薄闇に沈んだ室内をロイは奥へと進んでいく。たどり着いた扉のノブに手をかけて、一瞬躊躇ったのち、ロイは静かに取っ手を回した。細く開けた隙間から体を滑り込ませて、ロイは暫しそこに立ち止まる。ベッドの上の塊りを見つめていたロイは、意を決したようにベッドへと近づいていった。カツンと何かが靴に当たって、ロイは屈みこむとそれを拾い上げる。空のアンプルに書かれた文字に目を瞠ったロイは、アンプルをポケットに突っ込むとベッドへと駆け寄った。
 ロイが見つめる視線の先でベッドに横たわった人間がゆっくりと目を開いた。どんよりと濁った薄青い瞳をロイに向けた男は苦しげな息を漏らすとロイに向かって腕を伸ばした。身動きの出来ないロイの腕を掴むと振り絞るように「薬」と呟く。ロイがどうすることも出来ずに見下ろしていると、男の瞳が苦しそうに歪められた。
「なんでもするから…っ」
 小さくそう叫ぶと、ハボックはロイの体に縋りついた。


 薬が切れて喚くハボックの体に当て身を食らわせたロイは、気を失ったハボックの体をベッドへと横たえた。部屋の中を満たすすえた匂いと、ハボックの腕に残された数え切れないほどの針の痕にこの部屋で何が為されていたのかは容易に察せられた。ロイは横たわるハボックの髪を優しくかき上げる。静かに眠るハボックの頬に、ロイの瞳から溢れた涙が零れ落ちていった。


 屋敷からハボックを助け出したロイは周囲の反対を押し切って、ハボックを軍病院へは入れずに自宅へ連れ帰った。
「自宅で治療なんて、ムリです。大佐自身への負担だって大きすぎます」
 ホークアイの言葉に、だがロイは耳を貸さなかった。これ以上、ハボックに他人の手を触れさせるのはイヤだった。自分の手の届く所で誰の目にも触れさせず、自分の力だけでハボックを守りたかった。それはロイが正気を保っていられる唯一の方法でもあった。
「中尉、ムリを言っているのは判っている。だが、こうするしかないんだ、判ってくれないか?」
 そう言うロイの姿にホークアイは言葉をなくす。緩く頭を振るとため息を零してホークアイはロイに言った。
「私達も少尉を心配する気持ちは同じです。ですから、何かあったときは必ず私達にも手伝わせてください。どうぞ一人で抱え込まないで…」
 ロイはホークアイに頷くとハボックのもとへと向かった。


 ロイはベッドに横たわるハボックの髪を優しく撫でていた。アンプルに残った薬剤を調べさせた所、幸いにもさほどキツイ薬ではなかったことがわかった。一種の媚薬とアッパー系の薬を混ぜ合わせたもので、服用すると神経が昂り快楽を求めずにはいられなくなる。ただ、やはりまともな薬でない以上、常用すればそれをやめた時の禁断症状も起こるわけで、体力が削られている今のハボックにとってはかなりしんどい状況になることは目に見えていた。
 ぴくんと、ハボックの体が震えてその目蓋が開く。その空色の瞳が自分を捉えていない事に、ロイは深い悲しみを覚えた。
「もっと…」
 ハボックの腕がロイを捉える。
「くれよ…悦くなれるんだろ…?」
 ハボックはロイの体を引き寄せると唇を合わせた。その冷たい感触にロイはぞくりと身を震わせる。
「ね…アンタの言うとおりにするから…」
 そう囁いて再び唇を合わせようとするハボックをロイは押し留めた。
「ダメだ」
ロイはハボックを見つめて断言する。
「ダメだ、ハボック」
 そう言うロイをハボックは信じられないというように見上げていたが、ぶるぶると体を震わせるとロイに縋りついた。
「なんでっ?なんでそんな事言うんだよっ?」
「ハボックっ!」
「ヤダっ!やだあっ!」
 暴れるハボックの体を押さえつけてロイはハボックに口付けた。そのままハボックの肌に唇を滑らせていく。泣き叫ぶハボックの体に愛撫を加えながらロイはハボックに囁いた。
「欲しがるのなら私を欲しがってくれ」
 だが、そう囁くロイをハボックは見ない。それでもロイはハボックを抱きしめるとその身を繋げていった。


 その後も数日に渡って断続的に訪れる禁断症状のたび、ロイはハボックを抱いた。他にハボックを繋ぎとめておく方法を知らなかったので。その空色の瞳が自分を映し出すことだけを祈って、ロイはハボックを抱きしめた。


 どろりと。体を重い液体が飲み込んでいく。そうかと思うと次の瞬間、まるで空に放り投げられるかのように浮遊した感覚に包まれる。快楽が体を支配して、それだけが世界の全てとなり他の事はどうでもよくなっていく。心が独りでにふらふらと漂いだして、重たい体を捨て去っていこうとする。何もかもが曖昧でどろどろと溶け出していく。腕から流れ込んでくる液体だけが心と体を1つに繋ぎとめてくれるのに、目の前の男はダメだというのだ。
 なにも判らないくせに。どうして。あの薬がないと自分をここに繋ぎとめておけない。ふらふらと漂いだす心を引きとめておけない。ああ、それなのに。どうしてどうしてどうして。だれかたすけてもうこのままではここにいられないどろどろととけだしてなにもわからなくなっていくだれかだれかだれかじぶんをここにつなぎとめてどこへもやらないでだれか―――
助けてっっ!!


 叫ぶと同時に差し出された腕をロイは掴んだ。荒い息を零すハボックの瞳がゆっくりと自分を見つめる。
「た…い、さ…?」
 ハボックの唇から零れた言葉にロイは目を瞠った。
「私がわかるのか…?」
 ロイの言葉にハボックは嬉しそうに笑う。
「たいさ…」
 綺麗な空色の瞳に見つめられて、ロイはハボックの体をかき抱いた。


 それから2週間ほどが過ぎて、ようやく普通に歩けるようになったハボックをロイは庭に連れ出した。秋の柔らかい陽射しの中、ハボックは緩やかに吹く風に金色の髪を弄らせて芝生に座り込む。
「寒くないか?」
 ハボックの隣りに腰を下ろしたロイがそう聞くとハボックは微笑んで首を振った。
「…いろいろすみませんでした」
 そう呟くハボックにロイは言った。
「お前の所為ではないだろう?あの男は私に復讐したかったのだろうから」
 それに、とロイは思う。
 酷く歪んだ形ではあったけれど、多分あの男もハボックを愛していたのだろう。ハボックを愛していて手に入れたくてだが、方法を間違ってしまった。
「たいさ…」
 ハボックの声にロイは視線をハボックに向けた。
「オレ、たいさの側にいてもいいんスか?」
 膝を抱えて俯いたままそう呟くハボックの体をロイは引き寄せる。
「いたくないと言っても、どこにもやらない」
 ロイの言葉にハボックが泣きそうに顔をゆがめた。
「側にいてくれ」
 その囁きにどちらともなく唇が重なっていく。ハボックが正気を取り戻してから触れていなかったその体にロイの心臓がとくりと音を立てた。
「たいさ…だいて…こんなオレでもいいなら…もし、イヤじゃないなら…」
「いいのか、お前の方こそ、その…そういう行為がイヤなら無理にとは…」
「たいさがイヤじゃないなら、オレは…アンタにだいてほしい…」
 泣きそうな顔で、それでもまっすぐに見つめてくる空色の瞳に、ロイはハボックを強く抱きしめた。


 ロイはハボックの少し痩せてしまった体をベッドに横たえた。その上に覆いかぶさると両手で頬を包み込み静かに唇を合わせていく。啄ばむような口付けが深く貪るものに変わっていき、お互いの舌を絡ませ口内をかき回した。ロイは唇を離すと、ハボックの存在を確かめるようにその額に、眉に、目蓋に、鼻筋にと順番にキスを落としていった。首筋を辿りところどころに強く所有の印を刻んで行けば、ハボックの体がびくびくと震えた。胸の頂にたどり着くとぷくりと立ち上がったソレに丹念に愛撫を施していく。ハボックの唇から零れる熱い吐息を聞きながら、ロイは加える刺激を強くしていった。
「ん…は…たい、さ…」
 ハボックはロイの名を呼びながら腰を揺らめかせる。その中心は直接触れてもいないのに既に高くそそり立ち、とろとろと蜜を零していた。
「ハボック…」
 ロイは体をずらすととろとろと蜜を垂らすソコへ顔を寄せた。棹を舐め上げるようにして流れる蜜を舌で掬い、先端の小さな穴を舌先で押し開く。口に含んでじゅぶじゅぶと擦り上げればハボックが感じ入ったような声を上げた。
「あ…んっ…は…も…イくっ」
 ハボックの声にロイは含んだハボック自身を強く吸い上げた。一瞬大きさを増したソレは次の瞬間白く爆ぜて、ロイの口中へと熱を放つ。
「ああっ、あああっっ」
 びくびくと震えながらハボックが吐き出した熱をすべて飲み干すと、ロイはその奥まった蕾に舌を這わせた。ひくつくソコへ舌先を差し入れくにゅっとかき回せば、熱を放ったばかりのハボック自身が熱を取り戻していく。
「あ…ヤダ…っ」
 ハボックはそんな自分を浅ましいと感じて泣き出してしまった。ロイは体を起こしてハボックの顔を覗き込むと尋ねた。
「イヤか…?」
 ロイの問いにふるふると頭を振るハボックにロイは重ねて言った。
「イヤなら無理には…」
「ち、がう…っ」
 ハボックはロイを見つめてすぐさま目を逸らす。
「だって…こんな…浅ましい…」
 消え入るような声でそう呟くハボックにロイは目を瞠った。それから優しく微笑むとハボックに囁く。
「お前が感じるように私がしているのだからな…お前を快感に溺れさせて、私以外を感じられなくするように、乱してやりたくてそうしているんだ…感じて当然だろう?」
「たいさ…」
「もっと私に溺れてくれ…溺れて乱れて、その顔を私に見せろ」
 ロイの言葉に目元を染めるハボックの唇に軽く口付けて、ロイは再びハボックの蕾に顔を寄せた。たっぷりと唾液を流し込むと指を1本、また1本と沈めていく。くちゅくちゅとかき回して柔らかく解すと沈めた指を引き抜いた。
「挿れて欲しいか、ハボック…」
 ひくつくソコを意地悪く滾る自身でつつけば、ハボックの唇から熱い喘ぎが零れた。ハボックは自ら腰を突き出すようにしてロイのソレを強請る。
「あ…いれ、て…っ」
 ハボックの言葉にロイはにんまりと笑うと、滾る自身を一息にハボックの中へと突き入れた。
「あああああっっ」
 ハボックの唇から悲鳴が零れたがロイは構わず激しく抜きさしを繰り返す。乱暴に擦られる快感にハボックの中心から熱が迸った。
「あ、あ、たいさぁ…っ」
 名を呼びながら縋りついてくるハボックにロイの心を温かいものが満たしていく。薬に支配されている時はたとえ体を繋げていても決してロイを見ていなかった瞳が、自分を映してまっすぐに見つめてくるのがロイは何よりも嬉しかった。
「ハボック…ハボ…」
「たいさ…たいさ…」
二人は互いの名を呼びながら熱く溶け合っていった。


2006/10/22



「純愛」の続きです。「純愛」を書いた当初は続きを書くつもりは全くありませんでした。でも、拍手で「メッケルがリチャード・○アとかだったら萌える」というコメントを頂きまして、相手がいいオトコなら続きもありかなぁと。ハボにしてみればいい迷惑ですが(苦笑)途中、薬の記載がありますが、正直言ってあんまりちゃんと調べてません。ので、かなりいい加減です。ですからどうぞいい加減な所は多めに見てやってください。それ以外でもいろいろおかしい部分はあると思いますが、目を瞑ってくださいね。そうそう、それから実はコレ、最後にロイとハボのHを書くかどうかでとっても悩みました。だってねぇ、あまりにそういうシーンばかりでちょっと食傷気味かなぁって。なので最初はキスシーンで終わろうと思っていたのです。でも「Hがなかったら大佐が可哀相過ぎ」というコメントを頂きまして「ああ、そういうもんか」と言うわけでHありになった次第です〜。(考えてみると結構拍手コメントに影響されやすい性格ですね、私…)エロシーンばっかな話ですみません。書いている本人は結構面白かったのですが、少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです。