因幡



 ハボックの姿が見えないのに気づいたロイが散々捜した挙句ようやく見つけ出した時、ハボックは庭の片隅の用具置き場の陰でなにやらごそごそとしていた。
「ハボック、何をしてる?」
 ロイがかけた声にあからさまにびくりと肩を震わせたハボックは、しゃがみこんだまま首だけ振り返ってロイを見る。
「え…いや、別に何も…」
 その答えがいかに無理があるか、言った本人にもよく判っている筈なのにハボックはむりやり顔に笑みを貼り付けるとなんとかその場を取り繕うとした。
「ハボック」
 だが、ロイがそんなことを赦すはずもなく、さっきより数段きつい口調で名前を呼ばれればハボックは口を噤むしかない。
「持っているものを見せなさい」
「え…いや大したものじゃないから…」
「ハボック」
「〜〜っっ」
 結局ロイに逆らうことが出来ずにハボックは渋々と立ち上がるとロイと向き合った。そうしてハボックが胸元に抱えているものを見て、ロイは目を丸くする。
「うさぎ?」
「はあ」
「どうしたんだ、ソレ」
「拾ったんス、3日前。すごい弱ってて、雨降ってたし、そのまんまにしておけなくて…」
 モコモコとした塊りをぎゅっと抱きしめるハボックにロイはため息をつくと言った。
「元いた場所に返してくるんだ」
「飼っちゃだめっスか?ちゃんと面倒見るしっ」
 即座にそう言ってくるハボックにロイは言い聞かせるように言う。
「飼える訳ないだろう。お前も私も生活が不規則なんだから。これまでだってそう言って飼ってこなかったんだろう」
「そうっスけど…」
 しょんぼりと耳と尻尾を垂れた犬のようなハボックにロイはため息をついた。
「ウサギってのはな、淋しがりやなんだ。放っておくと淋しくて死んでしまうんだぞ」
「えっ、そうなんスか?」
 目を丸くしてそう言うハボックが妙に幼く見えて、ロイは小さく笑うと言った。
「仕方ないな、1週間やるから貰い手を捜して来い。それまでは手元においていいから」
 ロイの言葉に顔を輝かせるハボックにロイはワザとらしく顰め面をしてみせる。
「1週間だぞ。それ以上はダメだ」
「見つけます、ちゃんと」
 嬉しそうにウサギに頬を摺り寄せるハボックに内心、心穏やかではいられなかったが、下らぬヤキモチを焼いてハボックを怒らせたことがまだ記憶に新しいこともあり、ロイは必死に自分を宥めた。
「ありがとうございます、たいさ」
 それでもにっこり笑って言うハボックにほんわりと心が温かくなるロイだった。


「たいさ、今日は自分のベッドで寝て下さいよ」
「は?」
「オレ、コイツと寝るし」
 ハボックはそう言うと胸に抱いたウサギの背を撫でる。
「なんでソイツと寝ると私が自分のベッドで寝なきゃいけないんだ」
「だって潰したら困るでしょ」
 じゃあ、おやすみなさい、と言ってさっさと寝室に入ってしまうハボックをロイは呆然と見送った。
「ウサギに負けたってことか…?」
 まさかウサギに恋人を寝取られるとは、腹が立つと言うより開いた口が塞がらない。なんだか起こる気力も削がれてロイはすごすごと殆んど使ったことのない自分の寝室へと向かったのだった。


「眠れない…」
 普段ならハボックを抱きしめて眠るのに今日は広いベッドに一人きりだ。これが夜勤や出張と言うならまだしも、すぐそこにハボックがいるというのに一人で眠らなくてはならないと言う理不尽さにロイは悶々ともう何度目か判らない寝返りをうった。そうして暫くベッドの上でごろごろと向きを変えていたロイだったが、がばりと起き上がるとベッドから下りる。
「だめだ、このままじゃ徹夜になってしまう」
 仕事ならともかく、こんな形の徹夜なんてごめんだ。ロイは暗い廊下に出るとハボックの寝室の扉をそっと開ける。開けた途端聞こえる穏やかな寝息にほんの少し面白くないものを感じながら、ロイはベッドを覗き込んだ。そうして目にした光景に目を丸くした次の瞬間優しく目を細める。ベッドの中ではハボックが大事そうに柔らかい毛玉のようなウサギを抱えて眠っていた。まるで大きな犬が小さなウサギを守っているような光景にロイは思わずくすくすと笑いを零す。
「まったく…」
 ロイは優しく微笑みながらハボックの髪をくしゃりと撫ぜた。暫く黙ったままハボックを見つめていたロイだったが、ぶるりと寒さに体を震わせるとそっとブランケットを持ち上げる。
「私も混ぜろ」
 ロイはそう呟くとウサギをハボックとの間に挟むようにしてベッドにもぐりこんだ。手を伸ばしてハボックの髪に触れるとハボックがくすぐったそうに首をすくめる。
「ん…たいさ…」
 その唇から零れる囁きに嬉しそうに微笑んで。
 暖かいウサギの毛を撫でながらロイは眠りに落ちていった。


2006/12/31



うさぎの話で盛り上がった時、うさぎを抱っこしたハボを思わず書きたくなってしまってこんなのを書いてしまいました。でも、後で聞いたらいっぱい間違いが…。うさぎさん、淋しがり屋じゃないし、抱っこされるの好きじゃないし…。す、すみません、嘘ばっかりで(滝汗)その辺は笑ってスルーしていただけるとー(ぺこぺこ) タイトルの因幡は「因幡のしろうさぎ」から。ロイハボのタイトルは感じで統一しているので、「兎」でもよかったのですが、何となく変えたかったので。深い意味はないですー。