蛍 2



 浅い呼吸を繰り返すハボックの胸に顔を寄せる。何度彼の中に欲望を放ったか、彼に吐き出させたのか、もう全く判らなかった。辺りは自分たちの放ったものと踏みしだかれた草の青臭い匂いが立ち込めていた。目を閉じたハボックの顔を覗き込む。ムリをさせすぎた体はきっと明日はかなり辛いことになるだろう。出張先のこんな場所で後先も考えずにこんなことをするほどハボックに溺れきっている自分が信じられない。今までだって好きになった女性はいた。その場限りの遊びでなく、自分なりに真剣に付き合っていた女性がいたはずだ。でも、その時ですらここまでのめり込んだ相手はいなかった。コイツは私よりデカイ男で、私の部下だ。それをこれほど迄ものめり込んで、ほんのひと時ですら私の前からいなくなることを恐怖するなんて、最初にコイツへの気持ちに気づいた時には思いもよらなかった。
 いつかコイツを壊してしまうかもしれない。そんなことを思った時、ハボックがゆっくりと目を開いた。
「たいさ…」
 見つめてくる視線に耐え切れず目を逸らす。
「その、悪かったな、…ムリをさせた」
 そう言うと、微かに笑う気配がして顔を引き寄せられた。
「なんで謝るんです?オレだってしたかったのに」
「ハボック」
「アンタに触れたくて、アンタに抱かれてぐちゃぐちゃにされたいと思ってるのに」
 そんな事を言うハボックに思わず目を瞠る。
「今だってほら、そんなこと考えただけで」
 ハボックは私の手を取るとハボックの中心へと導いた。さっきから散々欲望を吐き出したはずのソコは緩く立ち上がっていた。
「変ですかね、オレ。でも、アンタのこと考えると勝手にこうなっちまう」
「ハボック…」
「アンタに触れてもらえない夜はアンタのこと考えて一人でヤッてるって言ったら、軽蔑します?」
 空色の瞳が僅かに不安を含んで、でも真摯な光を湛えて見上げてくる。そんなハボックに小さく首を振って微笑んだ。
「いや、私だって同じようなものだ」
 そう言ってハボックの脚に熱を持ち始めた自身を押し付けた。安心したように笑うハボックに大事にしたいと愛しく想う気持ちと、めちゃめちゃに啼かせてやりたいという気持が同時に押し寄せてきて、息が詰まった。
「…見せてくれ」
「え?」
「お前が私を想いながらどうやって自分を慰めるのか、今ここで見せてくれ」
 その言葉にハボックの顔が赤くなった。
「ハボック…」
 強請るように囁けば、私の顔を見ずに体を起こそうとするのを手伝って手を引いてやる。草の上に座り込んだハボックから少し身を引いて、でも、その表情が見える位置から遠くへは行かずにハボックの顔を見つめた。目を閉じたハボックは躊躇いがちに中心に指を絡めるとゆっくりと扱いていく。先端の柔らかい部分を指先で捏ね上げ、あふれ出てくる透明な蜜を棹に塗りこめて扱く速度を上げていく。空いたもう一方の手でさわさわと袋を弄っていたが、少し躊躇った後、後ろの蕾にゆっくりと指を沈めていった。
「う…ん、…ふぅ…っ」
 沈めた指が後ろを弄るたび、さっき散々注ぎ込んだものが濡れた音とともにあふれ出てきた。白濁した液を垂れ流しながら、自身を慰めるハボックの姿は酷く淫猥だった。引き付けられたまま視線が離せない。急にその瞳が見たくなって自慰行為に没頭するハボックに囁いた。
「ハボック、私を見ろ」
 びくりと肩を跳ね上げてハボックが目を開いた。見られていた事を忘れていたように彷徨う視線を上げてこちらを見る。食い入るようにハボックを見つめる視線に絡め取られたように、小さく息を吸い込むとハボックは目を逸らせなくなった様だった。
「あ…」
 真っ赤になって、でも快楽に支配された体は行為をとめることも出来ずに、ハボックはこちらに視線を釘付けたまま自身を追い上げていった。
「や、た…さ…っ、見、ない、で…っ」
 ぐちゅぐちゅと淫靡な音を響かせてハボックが囁く。そそり立ったそこは一瞬ふるりと震えると、びゅくびゅくと白濁した液を撒き散らした。
「んあっ…っ、た、たいさぁ…っ」
 体を突っ張らせながら射精したハボックは荒い息を吐きながらこちらを見つめてきた。唇をゆっくりと舐めると後ろに回した指を広げてみせる。白い液に汚れた熱い襞が露わになった。
「たいさ…も、我慢できな…っ」
「…ハボック…っ」
「言う、とおり…し、た、でしょ…っ、だ、からっ、はやく…っ」
 熱い吐息と共に言葉を吐き出すハボックの体を乱暴に押し倒した。熱くそそり立った自身を宛がうと一気に貫いた。
「う、あっ、あああっ」
 仰け反るハボックの背を引き寄せて、更に奥へと体を進める。思い切り開かせた脚がぴくぴくと震えてハボックの快感を伝えてきた。そのまま殆んど抜けそうになるまで体を引くと、ハボックの襞が行かせまいと絡み付いてくる。脳天を突き抜けそうなほどの快感に我を忘れて抜き差しを繰り返した。
「あっ、は…っ、い、イイ…っ」
 もっと、と囁いてしがみ付いてきたハボックに乱暴に口付けた。ハボックの指が髪に差し込まれてくしゃりとかき回していく。その間にも、ハボックを犯す動きは止まらず、何度も最奥を突かれたハボックが耐え切れずに射精した。
「ああ…っ、はぁっ、あ、…きもち、い、いっ…」
 さっきから淫らな言葉を呟いているハボックに一際熱を追い上げられてハボックの中へと叩きつける。
「あつ…っ、ああ、入ってく、る…っ」
「ハボック…」
「た、いさっ、オレ、もう…っ」
「ハボ…」
「ヘンだ、アンタが、欲しくて…っ、も、…っ」
 おかしくなる、と呟いたハボックの瞳から涙が零れ落ちた。その滴を唇で受け止めて、囁いた。
「私も同じだ…」
だから、いいんだと言えばハボックが僅かに目を瞠った。
「もっと、私を欲しがってくれ…」
 ハボックの脚を抱え上げてより深い場所を何度も突き上げれば、ハボックの唇から絶え間ない嬌声が上がる。その声をうっとりと聞きながらハボックに溺れて行く。
「ハボックっ、ハボック…っ」
「たいさっ、あっ、はぁっ、もっ、と、…っ」
「お前は私にモノだ、逃がさないから、覚悟しておけ…っ」
「いやだ、っても、つ、いてくから…っ」

 情欲に溺れる空色の瞳で。掠れる声で。熱い吐息で。自分を求めて絡み付いてくる中で。ハボックを形作るものだけで自分を満たして。何もかも忘れて目の前の相手しか見えずに。今この瞬間だけは。
 それだけを願って縋り付いて来る体をきつく抱きしめた。


 重い目蓋を開けて、朝がやってきたことを知る。ふと目をやって隣の温もりが既にないことに気づいて慌てて飛び起きた。そんな私に開かれた扉の向こうから声がかかった。
「おはようございます、大佐」
 声のするほうに振り向けば既に軍服を着込んだハボックが立っていた。顔色はかなり悪いが、それでも背筋を伸ばしてきちんと立っている。その姿からは昨日の乱れた様子は微塵も感じられなかった。そんなハボックを見るうち、自然笑みが浮んでくる。ベッドから降りるとハボックに声をかけた。
「食事が済んだらすぐ出発する。そのつもりでいてくれ」
「Yes, sir 」
 素早く着替えて朝食を取るべく部屋を出る。半歩後ろを歩いてくるハボックの気配に僅かに微笑んで。
 二人の想いを隠すように静かに部屋の扉を閉めた。


2006/6/25



溺れる二人です。いいのか、出張先で…(汗)