不在


「え?出張ですか?」
「ああ、セントラルに1週間」
「じゃ、オレも?」
「今回は女性がいた方が都合がいい場所があるからな。護衛は中尉にして貰おうと思う」
 ロイの言葉にハボックは思わず心の中でガッツポーズをとった。
「…なんだか嬉しそうだな、少尉」
 ロイが眉を顰めて聞いてくるのにへらりと笑って答える。
「そんなことないっス。また無茶して中尉のこと困らせちゃダメっスよ」
 もっともらしい顔でそう言うハボックをロイは胡散臭げに見やったが、一言釘を刺すのを忘れなかった。
「私がいないのをいいことに浮気はするなよ」
「大佐じゃあるまいし…」
「なんだと?」
 ぼそりと呟いたハボックをロイがぎろりと睨みつける。ハボックは慌ててにっこり笑うと「ヒューズ中佐によろしく」と言ったのだった。

「はああ、なんか、こういうの久しぶり…」
 ハボックはどさりとソファに腰を下ろすと呟いた。ロイと暮らすようになってから例えいない時でも、いつもロイの気配を感じていた。それは決して不快ではなかったけれど、時々、アパートで一人で暮らしていた頃を思い出して、あの頃は随分気楽だったと思ったりもしていた。ロイは強烈な個性の持ち主であるだけに、良きにつけ悪しきにつけそれに振り回される方の身にとってはかなり大変であることは確かであった。
「とにかく、1週間、ゆっくり眠れるのが最高に嬉しいかも…」
 そして何より、ロイと暮らし始めてから慢性的に寝不足なハボックにとっては、夜、誰にも邪魔されずにゆっくり眠れると言うだけでも、何より嬉しいのであった。
「そうだ、メシ、どうしようかな…」
 ハボックは立ち上がるとキッチンの冷蔵庫を開けて中を覗いてみる。それからぱたんと冷蔵庫の扉を閉めた。
「一人分作るのも面倒だし、外に食べに行こう…」
 そう呟いて夕暮れの街へと出かけていった。

 出張3日目。
 ハボックは家の鍵を開けると中へ入る。広い家はしんと静まり返って闇の中で息を潜めているようだ。
(大佐ってよくこんな広い家に一人で住んでたよな…)
 田舎にいた頃は大家族だったハボックにとって、人の気配のない広い家はあまりに馴染みのないものだった。家の中を奥へと入っていきながら片っ端から明かりを点けていく。ロイがいる時にはこんな事はせずに必要な所にだけ明かりを点けているのだが、暗い中だだっ広い家に一人でいるのがなんとなく耐え難くて明かりを点けて回る。
(なにやってんだろ、オレ)
 ダイニングのテーブルに買い物の袋をどさりと置くとハボックは立ち竦んだ。
(ガキじゃあるまいし、バカじゃないの)
 そう考えて点けまくった明かりを消そうと部屋を出かかって、結局ダイニングに戻ってくる。
(メシ、食おう)
 ハボックは袋の中から買ってきたサンドイッチと缶コーヒーを取り出すと、椅子に座ってもそもそと食べ始めた。

 出張5日目。
「あっ、賞味期限切れてる…」
 ハボックは冷蔵庫の中から肉のパックを取り出して呟いた。パッケージを開けて匂いをかいでみるがどうも美味そうな匂いとはいいがたい。
「あー、もったいないことを」
 ハボックは仕方なしにそれをゴミ箱に入れるとため息をついた。ロイが不在の間、どうにも食事を作る気が起きず、毎日サンドイッチやピザなどで簡単に済ませてしまっていたので、冷蔵庫の中身のことはすっかり失念していたハボックであった。今日もソファに座って夕飯に買ってきたバンズタイプのサンドイッチの包みを開く。だが、それを暫く見つめた後、ハボックは包みをテーブルの上に置くとどさりと背もたれに寄りかかった。
(今頃大佐、何やってんだろう。中尉と美味いものでも食ってんのかな)
 そんなことを考えながらため息をついた。
「あーあ、大佐、早くかえって…」
 そう呟いて思わず掌を口に当てる。
「何、言ってんの、オレ…」
 そのままずるずるとソファの上で沈み込む。
「バカみてぇ…」
 ハボックは掌を目蓋にあてて長く息を吐いた。

 出張6日目。
「明日帰ってくるのか…」
 ハボックは上着を脱いでハンガーにかけると風呂場へと向かう。明日にはロイに会えると思うとなんだか鼻歌混じりにシャワーを浴びて、部屋着に着替えて髪をがしがしとタオルで拭いた。
(明日は大佐の好きなもの作ってあげよう)
 結局1週間ぶりに料理をすることになるのを自分でも少々呆れながら、それでもいろいろとメニューを考えてみる。それだけでなぜだかほんわりと心が暖かくなってくるから不思議だ。
 ハボックはタオルを肩にかけたまま2階の自分の寝室へと向かった。ロイの部屋の前でふと足を止め、その扉を見つめる。ノブに手をかけるとそっと部屋の扉を開けた。暗闇の中大きなベッドが置いてあるのが目に入る。普段ロイがいるときはハボックの寝室で一緒に眠ることが殆んどだったので、こちらはもっぱらロイが仮眠を取ったりするのに使っていた。ハボックはベッドの側まで来るとベッドに横になって、枕にぽすりと顔を埋める。
(大佐の匂いだ…)
 枕からは微かにロイのコロンの香りがした。ハボックは枕を抱え込むと鼻先をぐいぐいと押し付ける。
(会いたいな…)
 もう、明日には帰ってくると思うと、却って酷く遠いように感じる。早くその胸に顔を埋めてロイを全身で感じたいとハボックは思った。
 枕に顔を埋めたまま腰を持ち上げるとズボンを半ばずり下げ、自身を取り出した。ゆっくりと指を絡めて扱き出すともう一方の手をシャツの中の乳首へと這わせた。
「ん…」
 溢れ出した蜜を棹に塗りたくりぐちゅぐちゅと扱いていく。堅く尖った乳首を指でこねくり回せば自然と腰が揺れた。
『ハボック』
 自分を呼ぶロイの声を思い出し、その手がどんな風に自分を暴いていくのかを思い描いていく。
「う、ふぅ…ああ…」
 ハボックは顔を埋めてロイの匂いを嗅ぎながら、行為に没頭していった。

 ロイは車を降りると自宅の玄関の前に立った。思ったより早く仕事が終わり、一刻も早く帰ってこようと、最終の列車に飛び乗ったのだった。ロイは家を見上げて明かりが点っていないことに眉を顰める。
「ハボックのヤツ、いないのか?」
 せっかく人が急いで帰ってきたというのに遊び歩いているのかと考えて、眉間に皺を寄せる。鍵を開けて中へ入ると明かりをつけずに奥へと入っていった。てっきり出かけているのかと思ったが、家の中には何となく人がいる気配がする。
「もう、寝てるのか…?」
 通りすがりにリビングやキッチンを覗くがハボックの姿はない。仕方なしに2階へと上がり、ハボックの寝室へ行こうとして、ふと、その手前の自分の寝室の前で足を止めた。何か人の呻き声のようなものが聞こえた気がして、ロイはそっと扉をあけた。闇の中、ベッドの上で蠢く影がある。最初ロイにはそれがなんなのかよくわからなかったが、暫く見つめるうちにそれが突き出された人間の尻であることが判った。そして、それが枕に顔を埋めたまま四つに這って自身を慰めているハボックだとわかった時、ロイの心臓がどくりと跳ねた。ハボックは自身に指を絡めて懸命に扱きながらもう一方の手で乳首をもてあそんでいる。ゆらゆらと高く掲げた腰を揺らめかせながら荒い息を吐いて、時折ビクビクと体を震わせていた。そうするうち、ハボックは乳首をもてあそんでいた手を自分の後ろに回すとゆっくりと指を沈めていった。
「くぅ…っ、う、ん…っ」
 苦しげに息を吐きながら指を沈めるとくちゅくちゅとなかでうごめかす。その間にも前を慰めている手は休むことなく自身を育てていた。
「あ、は…っ、たい、さ…、たいさ…っ」
 ハボックの唇から自分を呼ぶ声が零れたのを聞いたとき、ロイは息が止まるかと思った。
「あふ…、あんっ、たいさぁ…。くぅ…」
 ぐちゅぐちゅとハボックの下腹部から淫猥な音が響き渡り、その唇からは荒い息が零れる。ハボックはロイが見つめていることに全く気づかず、行為に没頭していた。だが、ついに絶頂が近くなったと見えて脚が小刻みに震えだす。
「あ、あ、あっ、も、う…っ」
 ぐちゅぐちゅ、じゅぶじゅぶと闇の中に響きわたる音。ハボックの荒い息遣い。ロイは身動きが出来ずにハボックの痴態を見つめた。
「ああ、はあ、あ、あっ、あ、たい、さっ…たいさぁぁっっ」
 ぶるぶるとハボックの体が震え、部屋の中に微かに青臭い匂いが広がった。ハボックは荒い息を零しながらぐったりとベッドに沈み込んでいる。ロイは震える指を伸ばすとパチリと部屋の明かりを点けた。途端、柔らかい光が寝室を照らし出す。ぐったりと横たわっていたハボックの体がギクリと跳ね上がると、ゆっくりとロイの方を振り向いた。信じられないものを見るかのようにロイの顔を見つめる。
「い、つから、そこに…?」
「後ろに指を沈めたあたりから…かな」
 ハボックが顔を真っ赤に染めてベッドから逃げ出そうとするのをロイは咄嗟に押さえ込んだ。
「やっ、放して…っ」
 真っ赤になってロイの腕から逃れようともがくハボックを組み敷いて、ロイはハボックの顔を上から覗き込むと囁いた。
「私がいない間、一人でしてたのか…?」
 ロイの言葉にハボックはぎゅっと目を閉じて首を振る。
「私の名を呼びながら、自分を慰めてたのか…?」
「ちがう…っ」
「じゃあ、コレは?」
 ロイはハボックの放ったもので汚れている下肢を撫で回す。
「やだっ…」
 ロイは恥じ入るハボックの蕾に指を沈めるとぐちゃぐちゃとかき回した。
「ひあっ、っあ、やめ…」
「自分でするのとどっちが感じる?」
「や、だっ、やめて…っ」
「答えて」
 有無を言わさぬ口調で言われてハボックは目を見開いてロイを見つめる。
「ハボック」
 再度促されてハボックは瞳を伏せて答えた。
「た、いさにされる、ほうが…」
「感じる…?」
 ハボックは無我夢中で頷いた。ロイはハボックの答えに満足すると、後ろに沈めた指を引き抜いて着ていた衣服を手早く落とした。濡れた瞳で見上げてくるハボックからも衣服を剥ぎ取るとその上に覆いかぶさった。
「たい、さっ」
 耳元に口付けを落とされたハボックがびくりと体を震わせてロイを呼ぶ。
「あかり、消してくださ…」
 だが、ロイはうっすらと微笑むとハボックの体をシーツに縫いとめた。
「ダメだ。全部私に見せろ」
「な…っ」
 ロイの言葉にもがくハボックを押さえ込んで、ロイは強引にその唇を塞いだ。
 深く口中を弄って逃げるハボックの舌を絡めとリ強く吸い上げる。その間にも手はハボックの全身を余す所なく弄っていく。ロイは手で弄った後に舌先を滑らせて、一週間ぶりに触れるハボックの熱を確認していった。乳首をちろちろと舐め、脇に唇を滑らせるときつく吸い上げる。びくんと跳ねる体に気をよくしてロイは脇から腰にかけてのラインを舐め上げてはきつく吸い上げていった。
「あ、あっ、は、あ…」
 きつく目蓋を閉じてハボックは身を捩った。突然両足の太ももの辺りを掴まれ、大きく開かされてかっと頭に血が上った。
「やっ!」
 身を捩ろうにも強く押さえ込まれて動くことが出来ない。明るい光の下ロイの視線に恥ずかしい部分を晒されて羞恥に震えると共に、曝け出されることに快感を感じる自分に気づき、ハボックは狼狽した。触れられてもいないのに中心は腹に付くほど反り返りとろとろと蜜を垂れ流している。中心から続く奥まった蕾はこれから先の刺激を期待するかのように、イヤらしくひくひくと蠢いていた。
「何もしていないのに、もうすっかり蕩けてるな」
 ロイにそう言われて恥ずかしさのあまり眩暈がする。それでもその言葉にハボックの中心はとろりと更に蜜を零した。ロイが視線を落としたままハボックの中心に手を這わせぐちぐちと愛撫を加える。とろとろと零れる蜜は蕾にも垂れて、ぐっしょりと濡らしていく。ロイは片手でハボックの中心を扱きながら蕾に指をあてがいちゅくりとそこを押し開いた。そして顔を寄せると舌で蠢く襞をなめまわしていく。
「い、やぁっ、あ、やっだ…っ、はずかし…っ」
 明かりの下、隠すことも許されず、舌と指を使って押し開かれ愛撫されることに、ハボックの心は竦みあがっていたがその体は嬉々としてその行為を受け入れていた。ロイの唾液とハボックの蜜によってその部分はぐちゃぐちゃに溶かされてひくひくと蠢いている。そして更なる刺激を求めて中心からは止めどなく蜜が零れていた。
「さあ、ハボック、どうされたい?」
 意地悪く聞かれてハボックの瞳からぽろりと涙が零れ落ちた。早くロイのモノで貫かれたい、太いモノでぐちゃぐちゃにかき回して欲しい、そう思いつつも羞恥が先立ち口にすることが出来ない。
「たいさ…っ、たい、さ…っ」
 ハボックはぽろぽろと涙を零しながらロイを何度も呼んだ。その仕草にロイはたまらなくなり、ハボックの脚を抱え上げると一気に貫いた。
「あああああ――――っっ」
 仰け反る体をかき抱いて唇を合わせる。舌を絡めて貪りあいながら、ロイは抉るように深くハボックを犯していった。ぐちゅぐちゅと肉の絡みあう音と荒い息遣いが部屋の中に満ちていく。
「た、いさっ、もう…っ」
「イキたいのか…?」
 がくがくと頷くハボックの双丘を抱え込むと割り開くようにして深く自身を叩き付けた。
「んあああああっっ」
 ハボックの体がびくびくと震え反り上がったモノからびゅくびゅくと液体が吹き出た。それと同時にハボックの襞に締め付けられてロイは低く呻くとハボックの中を熱い飛沫で濡らしていった。

 くったりと力の抜けた体を抱きしめてロイは金色の睫にキスを落とした。ハボックはくすぐったそうに身を捩ると、ロイの肩口に顔を擦り付ける。
「たいさの匂いだ…」
そう呟くハボックにロイは苦笑する。
「犬だな、お前は」
 そう言われて尚、ハボックはロイの体に擦り寄って来る。
「おい…」
 擦り寄るハボックの髪がさわさわとロイの官能を刺激し、煽っていくのを当のハボックは気づいていない。幸せそうに顔を寄せるハボックにどうしたものかとロイが悩んでいると、いつの間にかハボックの唇からは穏やかな寝息が零れていた。ロイはまじまじとハボックの顔を見つめたが、くすりと笑うとハボックの体を引き寄せて、その香りに顔を埋めて眠りに落ちていった。


2006/7/10


先日、セロリパセリのセロリさんの「再録集2」を拝見しましたら、このssとネタのばっちり被った作品が載っていまして、なんだかこれをそのまま載せるのが物凄く気が引けてしまい、セロリさんに「ネタ、被っちゃったんですけど…」とお伺いを立てましたところ「全然気にしないで載せてください」と仰ってくださいましたので、めでたくご披露することが出来ました。セロリさんのは漫画なのですが、ものすご〜くハボが可愛くって、それに比べたら私のは…ごにょごにょ…。最後にハボがロイに「お帰りなさい」って言うのもすごく可愛いしっ、こういう風にラスト持って行けばいいのかぁと、同じネタでも随分デキが違うなぁとつくづく思いました。ともあれ、快く承諾くださいましたセロリさん、本当にありがとうございました。