同棲2


 廊下の角を曲がる金色の頭が見えて思わず後を追った。小さな会議室の扉をそっと音もなく開けるとハボックのため息が聞こえる。
「はぁ…」
 どうやらパーティションの影にいるようだ。ゆっくりと回り込んで様子を窺う。ハボックは床に座り込んで片脚を抱え、その膝の上に頬を乗せていた。半ば伏せられた瞳は長い睫が顔に影を落としてひどく色っぽい。色素の薄い唇から漏れるため息と相まって、こんな明るい昼間だと言うのに夜の彼を思い起こさせた。
 昨夜もハボックを抱いた。しなやかな体を抱きしめて所有の印を刻み、その中に思いの丈を散々に注ぎ込んでやった。ハボックは箍が外れてしまえばかなり大胆だ。こちらの要求に応じてくれるし、激しく求めても来る。だが、その箍を外すまでが一苦労だ。すぐ「ダメ」だの「イヤ」だの言うし、のらりくらりと逃げようとする。非番の日など、「今日は非番なので会えません」と冷たいことこの上ない。時々本当に自分のことを好きなのだろうかと疑いたくなる。だからつい、肌を合わせる時は限界まで抱いて、アイツの本心を引きずり出したくなるのだ。
「ホントにもう、勘弁してくんないかな…」
 ハボックがため息と共に呟くのが聞こえた。勘弁しろとはどういうことだ。これでも、随分手加減してやってるつもりだ。とにかく、こっちは好きで好きで堪らないのに。今までこんなに追い求めた相手はいないほどだ。正直、1分だって離れているのは辛い。だからこの間からずっと言い続けているというのに。
「ハボック、一緒に暮らそう」
 ぼんやりと座っているハボックに近づいて、そっとその耳元に囁く。
「うわぁっっ」
 物凄い勢いで飛び上がったハボックはそのまま後ろに後ずさる。
「何だ、その態度は」
 まるでお化けでも出たようなその態度は何だ、失礼なヤツめ。
「な、なんでここにっ」
「後姿が見えたんでな、追ってきた」
「追ってきた、って」
 ひどく不満そうな態度にムッと来たが、まぁいい、見逃してやる。
「気だるげにため息などついて色っぽかったぞ」
 と、本当のことを言っているのに、すごく嫌そうに睨みつけてくるハボックに顔を寄せると言ってやった。
「で、何を勘弁して欲しいんだ?」
 答えによってはただじゃおかないと思ったが、しどろもどろになるハボックにいい加減痺れが切れた。手を伸ばして顎を掴むと上向かせる。
「とにかく、もう待てないからな。荷物を持って私の家に越して来い」
「いや、だから、それは…」
「どうしてイヤなんだ。理由を言え」
 そうまでして嫌がる理由は何なんだ。まさか他に好きな男がいるとか言うんじゃあるまいな。言葉に詰まるハボックの唇を舌先で舐め上げて軽くキスを落とす。
「とにかくノーはなしだ。明日にでも荷物を持って…」
「待ってください」
 言葉を遮って話し出すハボックを見つめる。
「判りました。一つだけ条件があります。それを聞いてくれるなら明日にでも大佐の家に引っ越します」
 条件?一体なんだ?
「ヤルのは週に1度だけ。そう約束してくれるなら一緒に暮らしてもいいです」
 週に1度?言うに事欠いてコイツは!即座に却下しようとして、ふと思いとどまる。
「わかった。お前がそうしたいと言うならそうしよう」
 取敢えず、家に呼ぶほうが先だ。
「だから明日、引っ越して来い」
 その先はどうにでもなる。満面の笑みを浮かべてハボックの提案をのんだ私をハボックが信じられないように見つめていた。

 やっとハボックが家にやってきた。これまでだっていろいろ世話をやきに来てくれていたし、泊まってもいった。でも、一緒に暮らすとなると又全然違う。たとえ非番だろうが夜遅く帰ろうがそこには必ずハボックがいるわけで。そう思っただけで物凄く嬉しい。
「この部屋を好きに使ってくれ」
 ハボックを2階の一室へ通すとそういった。ハボックはきょろきょろと部屋の中を見回すと、取敢えずクローゼットの中に荷物をしまう。なんだか落ちつかなげなハボックをそっと抱きしめた。
「やっと、一緒に暮らせるな」
 ハボックを抱きしめて、ようやくその実感がわいてくる。小さく笑って抱き返してくるハボックに心が満たされていく。
「キスしていいか?」
 と問えば、恥ずかしそうに目を閉じるハボックに触れるだけのキスを降らせて。ハボックの手を取ると階下へと促した。
「今日は外に食べに行こう。何がいい?」
 優しい笑みを浮かべるハボックに息が止まりそうなほど愛しさを感じた。

「大佐!早くしないと遅刻ですよ!」
 ベッドでまどろむ私の耳にハボックの大声が飛び込んできた。一緒に暮らし始めて3日。まるで昔から一緒に暮らしているかのようにハボックは自然にこの家にいた。最初のうちこそ緊張しているようだったが、時々触れるだけのキスをする以外に特に手を出さない私に、いまでは安心しきってのびのびと暮らしている。本当のことを言えば今すぐにでも押し倒して全てを奪ってしまいたいのは山々だ。だが、せっかく一緒に暮らせるようになったのだ。焦って何もかも台無しにしてしまっては仕方ない。それに急がば回れというではないか。多少時間がかかろうとも最終的に勝てばいいのだ。
「たーいーさーっ、マジ、起きてくださいよっ!朝一番で会議でしょ?遅刻したら中尉に怒られますよ!」
 上掛けをまくってそういうハボックの腕をぐいと引く。倒れこむ寸前で咄嗟に手をついてハボックは踏みとどまった。
「たいさっ」
「ん、ハボック、おはようのキスは?」
 そう強請れば赤くなるハボックはたまらなく可愛い。
「もう、いい加減にして下さいっ」
 腕を振りほどいて立ち上がるハボックに「つれないな」と笑いかける。
「朝メシ、出来てますから!」
 そういい捨ててそそくさとキッチンへと逃げ込むハボックを優しく見つめた。

 5日が過ぎ、6日が過ぎていった。もうこの頃になるとハボックを押し倒したい衝動を抑えるのはかなり大変だった。だが、ここまで来たら、なんとかハボックの方から「欲しい」と言わせたい。大体あのしなやかな体を前にして週に1度なんて、まるで拷問でしかない。こうなったら目指すは「毎日」だ。そのためには多少の我慢は仕方がない。そろそろハボックもあまりに何もしてこない私をいぶかしんでいる様だし、ここからが勝負だと自分に言い聞かせた。

「え、今日も晩飯、食わないんですか?」
「ああ、ちょっと用事があるんでな」
 ひどく傷ついた目で見つめてくるハボックに多少の罪悪感を覚えながらもそう答える。流石に2週間が過ぎても指一本触れないどころか、夜遅く帰ることを理由にベッドも別にしてから、ハボックはひどく不安そうに見えた。正直なところを言えば、同じベッドで眠ったりしたら自分を押さえる自信がないだけなのだが上手い事にハボックはそうとってはいないようだった。最近ではハボックのほうからキスを仕掛けてくるほどだが、まだそれだけではダメだ。アイツからはっきり「欲しい」という言葉を引き出すまでは忍耐あるのみ。そう考えながら最近毎日時間を潰しているバーへと向かう。
 ここは女性が経営しているというだけあって上品な雰囲気で、客も上流階級の人間が多い。一人でいると誰かしら女性が寄って来て話をしていく。ハボックと付き合う前はよくこうしていろんな女性と付き合っていたものだ。あの頃はこういう時間が楽しいものだったが、今ではただ煩わしいだけだった。本当はすぐにでも帰ってハボックの顔を見たい。そう考えながらふと、不安がよぎった。もし、ハボックがこんな態度を続ける私に愛想を尽かしてしまったらどうしよう。多くを望みすぎて一番大切なものを失ってしまったら。そう考え出したらたまらなくなった。蹴立てるように椅子から立ち上がると、家への道を駆け出していた。

 見上げる家の窓には明かりが付いていなかった。先に休んでいいと言ってあるのだから仕方がないが、それでもちくりと胸が痛んだ。2階に上がり、寝室の明かりをつけてぎくりとした。ベッドの上に座り込むハボックに恐る恐る声をかける。
「ハボック」
 呼ぶ声に顔を上げたハボックの頬を涙が流れているのを見て、目を瞠った。
「泣いているのか」
 そういって思わずベッドに近づくが、手を伸ばすのが躊躇われて立ち止まってしまう。
「たいさ…」
 ハボックは涙で掠れる声で言う。
「オレのこと、嫌いになりました?」
「何を言って…」
「だって、一緒に暮らし始めて2週間も経つのに、指一本触れようとしないじゃないですかっ」
 ぼろぼろと涙を流しながら叫ぶハボックを呆然と見つめる。これはもしかすると。
「ハボック、落ち着け」
 近寄って抱きしめたい気持ちをぐっと抑えて、そう言った。ここがきっと正念場だ。うまくいけば―――。
「抱いてよっ、オレ、大佐のこと…っ」
 ハボックの言葉に頭の中でファンファーレが鳴り響いた。心の中でぐっと拳を握り締める。
「抱いていいのか…?」
 涙に濡れた頬にそっと触れながら問いかければ
「なんでそんなこと…っ」
 となじってくる。思わず緩みそうになる顔をぐっとひきしめた。
「お前が嫌がるから、私は」
「嫌がってなんかいません、ずっと抱いて欲しかったのにっ」
「ハボック…」
 はやる気持ちを抑えてそっと抱きしめればハボックが縋りついてきた。
「今抱いたら、もう、毎日だって求めずにはいられないぞ」
「たいさ…」
 涙に潤んだ空色の瞳が見つめてくる。
「いいんだな?」
 小さく頷くハボックに思わず万歳と叫びだしそうになるのをこらえる為に、噛み付くようにキスをする。今まで我慢してきた思いの丈を込めてきつく抱きしめた。苦しげに唇を開いたハボックの口中に舌を差し入れハボックのそれをきつく吸い上げた。貪るような口付けにハボックの体から力が抜けていく。ゆっくりベッドに押し倒すと急いで服を脱ぎ捨てハボックの上に覆いかぶさっていった。愛おしそうに肩や腕の筋肉を撫で擦ってくるハボックに思わず笑みが零れる。胸の筋肉を辿るハボックの手を取ると、指先に口付けてそのままベッドに縫いとめた。
「私にも触らせろ」
 微かに頷くハボックの服を剥ぎ取り、乳首をゆっくりと捏ね上げる。びくりと震えるのにうっすらと笑うと舌を這わせた。
「あっ、はぁ…っ」
 長いこと触れなかった体は、僅かな刺激にも瞬く間に熱を上げる。あっという間に硬度を増していくソレを、恥ずかしげに離そうとするので、ぐいと引き寄せてやった。
「今日は早いな」
 そう囁けばハボックは真っ赤になって目を伏せた。可愛らしい反応に小さく笑った。やんわりとソコを握ると甘い吐息が零れる。
「んぁっ…、あ、は…っ、やっ」
 数度扱いただけであっという間に上り詰めていく。
「や、あっ、も、でる…っ」
 これまでにない程あっけなくハボックは熱を放っていた。手の中に吐き出されたものをぺろりと舐めながら低く笑う。
「随分たまってたようだな」
 意地悪くそういえばハボックは耳まで真っ赤になってしまった。あまりの可愛さに思わず深く口付ける。そうして後ろに手を回すと蕾に指を沈めていった。
「んんっ、あんっ」
 思わずくらりと来そうな甘い声がハボックの口から零れた。慌てて口を塞ぐハボックの手をそっと引き剥がして囁く。
「声を聞かせろ」
「そ、んな…」
 恥ずかしくて死にそうだなどと可愛いことを言うのを無視して沈める指の数を増やしてぐちゃぐちゃとかき回してやる。
「あっ、やん、は、ああ…っ」
 更に感じるところをしつこく弄ってやればハボックの唇から甘い喘ぎが絶え間なく零れ落ちていった。恥ずかしさのあまりぽろりと零れた涙を舐め取って軽く口付ける。
「可愛いよ、ハボック」
 その言葉にかぶりを振るハボックの中から指を引き抜いて低く囁いた。
「入れていいか?」
 ハボックから強請って欲しくて答えを促す。するとハボックは自分の胸元に顔を伏せて消え入りそうな声で「入れて」と呟いた。その様子にかっと熱が上がって乱暴に脚を抱え上げると一気に奥まで貫く。ハボックの口から耐え切れない悲鳴が零れた。
「あああああ―――っ」
無意識にずり上がる体を引き戻して強引に突き上げた。
「あ、はっ、ああっ、たい、さ、たいさぁ」
 名を呼んで縋り付いて来る体を抱きしめて更に奥を抉る。ハボックは大きく震えると二人の間に熱い液体を迸らせた。達した余韻に震える体を容赦なく攻め立てれば、瞬く間に追い上げられたハボックは殆んど間を置かずに再び白濁した液体を撒き散らした。
「あ、やだぁ、もうっ」
 無我夢中で縋り付いて来るハボックにたまらない愛しさを感じる。ハボックの背中に腕を回すと強引に引き上げてベッドの上に向かい合ってすわる。そのままハボックの蕾を猛る自身の上に下ろした。
「ああ―――っっ」
 自重で深く貫かれてハボックの唇から悲鳴が上がる。その声に煽られて乱暴に下から突き上げた。
「やあっ、もう、やめ、てっ」
 がくがくと体を震わせて許しを請うハボックをもっと啼かせたくて更に激しく突き上げれば腹に付くほどそりあがったハボック自身からびゅくびゅくと白濁した液が迸る。その様子にハボックの中に深く埋め込んだ自身が一際膨れ上がった。そのまま達しそうになるのを眉を顰めてやり過ごし、そうしてハボックが壊れてしまうのではないかと思える程、がんがんと揺さぶり続けた。
「は、なん、でっ…」
 もう、解放して欲しい、死んでしまうと啼きながら訴えるハボックにうっとりと笑みが浮ぶ。猛った自身で一層深くハボックを犯し熱い飛沫を最奥へと叩き込むと同時にがっくりと力を失って倒れこんできたハボックを抱きしめた。

 結局、数え切れないほどハボックを追い上げてはアイツの中へ熱を吐き出した。無我夢中でハボックを貪って、気がつくと夜が白んでいた。ハボックはぐったりとベッドにその身を横たえて、指一本動かすのですら辛そうだ。ベッドに半身を起こして、ハボックの髪を撫でてやるとうっとりと目を閉じている様子に嬉しさがこみ上げて、思わずその耳元で囁いた。
「これから毎日できるな」
 その言葉にハボックがぎょっとしたように目を見開く。ああ、やっぱり、あの時自分が言ったのを判っていないんじゃないかと思ったら。
「言ったはずだぞ。今抱いたら毎日だって抱かずにはいられないと」
「だって、そんなの、言葉のあやで…っ」
 案の定、焦りまくっているハボックは堪らなく可愛い。
「いいんだな、と聞いたろう?」
「でも…っ」
 ちゃんと確認とってやったろう。
「頷いただろうが」
「…っっ」
 真っ赤になって絶句するハボックに思わず笑いがこみ上げて硬直する体を抱きしめる。これから毎日愛してやるから。

 可愛い恋人を確実にこの蜘蛛の糸で絡めとって、二度と逃がさないと誓った。


2006/7/6



「同棲」のロイsideです。もうどうやってもハボはロイには敵わないのに、それでもジタバタする所がきっとロイにはたまらなく可愛いんだと思います。