愛執染着4


「ねえねえ、私、この間見ちゃったのよ。ハボック少尉のデート現場!」
「ええっ、ホント?」
「それがね、すっごい美人なのよー。金髪で空色の瞳でスラリと背が高くてハボック少尉とお似合いってカンジでぇ〜。 仲よさそうに腕なんて組んじゃってね、ショックだったわー。」
 ロイは昼寝をしていた書棚の陰でむくりと体を起こした。その眉間には秀麗な顔には似つかわしくない皺が刻まれている。ロイは寝起きの頭を軽く振ってハッキリさせると、今聞こえてきた言葉を整理した。
 ハボック少尉のデート現場。
 スラリと背が高くてハボック少尉とお似合いってカンジ。
 仲良さそうに腕を組んで。
 それらの言葉からロイの頭に1つの言葉が浮かび上がる。
 浮気。
 ロイはすごい勢いで立ち上がると足音も荒く司令室へと駆け出していった。

「ハボックはどこだっ!」
 司令室の扉を開けるなりそう怒鳴ったロイを部屋の中にいた面々はびっくりして見つめた。だがすぐに、ああまたいつものか、といった表情を浮かべると仕事に戻ってしまう。
「おいっ!ハボックは何処だと聞いているんだっ!」
「ハボックなら今日は大佐がサボりまくってた書類を軍法会議所に届けて、そのまま直帰ってことになってますよ」
 ぎゃあぎゃあと煩いロイにウンザリしてブレダが言った。。
「直帰?なんで勝手に帰る事にしてるんだっ?」
「大佐が言ったんでしょうが」
 ブレダはため息をついて答える。
「まっすぐ帰っていいからメシ作って待ってろって」
 もういい加減にしてほしいと思い切りその顔に書いてあるブレダを見返して、ロイは言葉に詰まった。
「そ、そんなこと言ったか?」
「言いましたよ、思いっきり」
 だからハボックならいません、とブレダは言って書類に戻ってしまった。ロイはそんなブレダを悔しそうに見つめると今度はフュリーに向かって言った。
「フュリー、車だ。すぐ車を回すように言ってくれ」
「たいさ〜〜っっ、僕、この書類、あと5分で締め切りなんですっっ」
 大佐が止めてた所為ですよっっ、と半泣きになるフュリーの言う事になど耳を貸さず、ロイは「車だっ!」と叫ぶ。フュリーは「大佐のばか〜〜っっ」と叫びながらも車を手配すべく受話器を手に取った。
(ほっときゃいいのに)
 ブレダはそんなフュリーを気の毒そうに見たものの、係わり合いになるのはゴメンだとばかりに黙って書類を書き込んでいたのだった。

「あ、お帰りなさい」
 バンッ!と凄い音を立てて家に入ってきたロイに、ハボックはキッチンから声をかけた。
「もうすぐメシ、出来ますから。先にフロ、はいりますか?」
 ハボックは鍋の火を止めながら言うと、何も答えないロイをいぶかしんで視線を上げた。すると、キッチンの入り口でロイが自分を睨んでいるのとばっちり目が合ってしまった。
「た、いさ?」
 ハボックはロイの様子がおかしいのに気づいて目をぱちくりとさせた。
「ハボック、ちょっと来い」
「は?」
 恐ろしげな顔でそう囁くロイにハボックはどうしたものかと考えた。理由はわからないがロイがひどく機嫌が悪いのは判る。ここでヘタに近づくより、距離を置いて話をしたほうがいいのはこれまでの経験が物語っていた。
「えと、話ならここで聞きますよ?」
 料理、途中だし、とワザとらしく火を点けなおそうとしたハボックは、1歩でハボックの隣りに立ったロイに腕を掴まれて絶句する。
「来いと言ってるんだ」
 そう言うと、ロイはぐいぐいとハボックの腕を引っ張って歩き出した。キッチンを出てダイニングを抜けると2階への階段を上がっていく。
「ちょっと、たいさ!何なんスか、一体!」
 訳も言わずにぐいぐいと引き摺られてハボックはムッとして言った。だがロイはそんなハボックをちらりと睨みつけると寝室の扉をあけて、ベッドの上へハボックを突き飛ばした。
「何すんですかっ!」
 ぼすんとベッドの上に体を弾ませたハボックがそう叫んで体を起こそうとする前に、ロイはハボックの腹の上に膝を乗せてハボックの動きを封じ込めると囁いた。
「お前、私に言うことがあるだろう?」
「言うこと?」
 突然そんなことを言われてもハボックには全く心当たりがない。
「なんのことです?」
「今なら正直に言えば許してやらないこともない」
「ええっ?」
 許すって、許してもらわなければならないことを自分はやっただろうかとハボックは考えた。軍法会議所に届ける書類を持って司令部を出るときには、ロイに特に変わった様子はなかったように思う。むしろ、上機嫌で今日はそのまま上がっていいからメシでも作って待っていてくれ、と送り出してくれたはずだった。それが、ハボックが司令部を出てからロイが帰ってくるまでの僅かな時間に、ロイの機嫌を損ねるようなことが起きたということなのだろうか。考えても考えても全く理由が思い浮かばないハボックは、仕方なしにロイに言った。
「なんのことか、さっぱり判らないんスけど…」
 ハボックの言葉にロイの形の良い眉が跳ね上がる。
「あくまで白を切るつもりだな」
 それならこっちにも考えがある、とロイは言うと、ハボックのベルトを引き抜いてハボックの右腕をベッドヘッドに繋いでしまった。
「何するんですかっ!」
 もがくハボックのシャツの前立てに手をかけると、ロイは乱暴に左右に開いた。ぶちぶちと音を立ててボタンが弾け飛び、ハボックの肌が露わになる。ロイは肌に指を滑らせると首筋に唇を寄せた。
「いたっ!」
 びりっとした痛みが走り、顔を上げたロイの綺麗な唇にうっすらと血がついているのを見て、ハボックはロイに噛まれたのだと気がついた。
「な…」
「正直に言えないのなら体に聞いてやる」
 ロイは低く囁くと再びハボックの肌に唇をよせた。首筋に肩に次々と走る痛みにハボックはパニックに陥った。ロイが酷く怒っているのは判るのだがその原因がわからない。正直に言えと言われて必死に考えをめぐらせたが、ロイをここまで怒らせる理由は全く思い浮かばなかった。
「た、いさっ、まって…まってくださ…」
「言う気になったか?」
 冷たい黒い瞳に射すくめられて、ハボックはゆるゆると首を振った。
「なんのことだかぜんぜん…」
 ハボックがそう言った途端、ロイが乳首に歯を立てた。
「ああっ」
 体を仰け反らせて悲鳴を上げるハボックのソコに、ロイはぎりと歯を立てる。敏感な箇所に加えられた痛みと食いちぎられるのではという恐怖にハボック完全に混乱に陥ってしまった。
「いた…っ、や、めて…っ」
 びくびくと体を震わせて、ハボックは叫んだ。痛みと恐怖でぽろぽろと涙が零れるのを止められない。ロイはそんなハボックにますます怒りを募らせるともう片方の乳首にも思い切り噛み付いた。先に噛み付いて血が滲む方を指先でぐりぐりとこね回し、乱暴に抓り上げる。
「ひああっっ」
 ハボックの唇から悲鳴が上がり、見開かれた瞳から涙の滴が舞った。ロイはベッドに繋いでいない方のハボックの腕を後ろにぐいと捻り上げる。痛みに悲鳴を上げるハボックの体を俯せに押さえつけると、ロイはハボックのズボンを膝の辺りまで引き摺り下ろした。そうして下から手を差し入れて、ハボックの腰を抱え上げる。ハボックはまだ堅く閉ざしたままの蕾にロイの熱が押し当てられるのを感じてぞっとした。
「やめてっ!!」
 だが、ハボックの上げた悲鳴を無視してロイは強引に体を進めようとする。しかし、潤いのないソコはロイのことを頑なに拒み、そのことがロイの怒りに油を注いだ。ロイは腕を伸ばすとナイトテーブルの上にあったエッセンシャルオイルの瓶を手に取る。器用に片手で蓋を開けると、ハボックの蕾へと中身を垂らした。そうして再び自身を押し当てると一息にハボックを貫いた。
「あああああっっ」
 肩をベッドに押し当てて高く上げた腰をロイに貫かれて、ハボックはシーツに顔を埋めるようにして悲鳴を上げた。ハーブオイルの香りに混ざって錆びた鉄の匂いがして、ハボックのソコが傷ついたのがわかる。だが、ロイはそれに構わずハボックの体を乱暴に突き上げた。
「ひっ…あっ…ああっ」
片腕をベッドヘッドに繋いだベルトで引っ張られ、もう片腕は後ろに捻り上げられて、ハボックは息も絶え絶えになりながらロイの怒りの嵐に翻弄されていた。訳もわからずロイの熱に引き裂かれ、痛みと混乱と恐怖でハボックはどうして良いかわからずシーツに顔を埋めて泣きじゃくった。許して欲しくて、でもロイの怒りの原因が判らないだけに混乱は募るばかりだ。揺さぶられるままに身を任せるハボックを見下ろして、ロイは冷たく囁いた。
「私というものがありながら、この間は楽しそうにデートなぞしていたそうじゃないか」
「デー…ト…?」
「金髪の美人と腕を組んで歩いていたと聞いたぞ」
 ロイの言葉にハボックは一瞬考えたが、次の瞬間言葉を吐き出した。
「そ、れっ…オレの、あね、き…っ」
 切れ切れの言葉にその意味をすぐにはわかりかねて、だが、ハボックが言った言葉の意味を理解するとロイは思わず叫んだ。
「なっ…あ、姉っ?…姉って、その、兄弟の…っ??」
 驚いたロイはハボックを貫いたまま凍りついてしまった。小さくハボックが呻く声がして、ロイは慌てて体を引くと、捻り上げていた腕を放した。力尽きてベッドに沈み込むハボックを見下ろしてサーッと血の気が引いていく。ベッドに横たわったハボックは体のあちこちに血を滲ませ、特に双丘の間からは赤い血が零れてハボックの脚を汚して悲惨な状態だった。
「な、なんで早く言わないんだ…っ」
 うろたえるロイを横目でジロリと睨みあげたハボックは涙でかすれた声で囁く。
「どこに…言う暇があったって言うんです…?」
 全然聞く気なかったくせに、とひくっとしゃくりあげて呟くハボックを目に、ロイはあたふたと慌てた。
「とっ、とにかく手当てを…っ」
 ロイは慌ててベッドから飛び降りるとわたわたとズボンを引き上げざっと身繕いをすると寝室を飛び出していく。暫くして湯を張った器とタオルを手に戻ってくると、そっとハボックの体を清めだした。
「いっ…つぅ…っ…ひっく…」
 ロイの手が触れるたび、痛みにびくびくと震えて嗚咽を零すハボックにロイはいたたまれずにかける言葉を見つけられない。何とか手当てを済ませると、ロイはハボックの体をブランケットで包み込んだ。
「あ、姉って、いったい…」
 とりあえず真相を見極めようと、ロイはおずおずとハボックに尋ねた。ハボックは閉じていた瞳を薄く開くと、ベッドサイドに置いた椅子にかしこまって座っているロイを見る。
「セントラルに住んでるすぐ上の姉がこっちに来るっていうんで、あの日は久しぶりに会ってたんスよ…」
 囁くように告げるハボックの言葉にロイは絶句した。
「年が近いから、昔から仲良くて…腕組むのなんてしょっちゅう…」
 ハボックの言葉にロイは身の置き場がなくて縮こまった。そんなロイを眺めてハボックはため息をつく。
「も、いいっス…よく、判りました…」
「ハ、ハボック…?」
 ハボックの言葉にロイは不安でいっぱいになってハボックを見つめた。
「オレはいつだってアンタだけなのに…全然、信用されてないんですね…」
「そ、そう言うわけでは…」
「じゃあ、なんだって言うんです?オレの言うことなんて…聞こうともしなかったじゃないスか…」
「それはだな…っ」
「もう、しりません…どっか行ってください…」
「ハボックっっ」
 目を閉じてそれ以上口を聞こうとしないハボックにロイは慌てた。確かにやり過ぎた。やり過ぎたのは判っている。しかもハボックには全く非がなく、ハボックの言葉に耳を貸そうとしなかった自分が120%悪い。だがしかし。
「愛しているからだろうっっ!!」
 思わず大声で叫んだロイに、ハボックはびっくりして目を開いた。ロイはがばっとハボックに覆いかぶさるとハボックに口付ける。
「んんっっ!!」
 口中を思う存分舐め回すと唇を離し、ロイは言った。
「愛してるんだっ!なんでそれを判ってくれないっ?!」
「ちょっ…たいさっ!」
 何度も愛してると囁いては体に触れてくるロイに、ハボックは次第に抵抗できなくなっていく。
「ハボック…ハボ…」
 何度目か判らない口付けを受けたとき、ハボックは小さくため息をつくとロイの背に手を回した。その仕草にロイの顔がぱあっと明るくなる。嬉しそうに笑うと再び口付けてくるロイに、ハボックは自分も大概イカレていると思うのだった。


2006/10/23


バカップルな二人に迷惑千万な司令部の面々をを取り扱ったこのシリーズもついに4つめ…。ハボの浮気を疑ったロイが暴走したりすると面白いとのコメントを頂いたことがあって、ソレをネタに書いてみました。ハボ、散々ですねー。でも、それでも赦しちゃう辺りが惚れた弱み?もう、勝手にヤッてなさいというしかないバカップルな二人です。