愛執染着2


「だからっ、オレ、明日は演習はあるし、絶対出さなきゃいけない書類もあるし、色々忙しいんで今日は絶対シません!」
「一緒に寝るぐらいならいいだろう?」
「…アンタ、この間そんなこと言っといて寝かせてくれなかったじゃないっスか…っ」
「いや、あの時はお前がすりよってくるから…」
「とにかくっ、絶対ダメです!おやすみなさいっ!!」
 バンッと勢いよく扉が閉まる。ご丁寧に鍵まで掛ける音がしてロイは伸ばした手をぱたりと下ろした。こうなったらハボックは梃子でも出てこないだろう。がっくりと肩を落としロイはのろのろと自分の部屋に向かう。寝室の扉を開けどさりとベッドに腰を下ろしたロイは大きなため息をついた。
「なんでアイツはああも、つれないんだ…」
 そう言ってばさりとそのまま背後に倒れこむ。ぼんやりと天井を見つめていたがいきなりがばりと起き上がった。
「まさか、他に好きな男が出来たとかじゃないだろうな…?!」
 ロイは指を組んだ手の上に顎を乗せて目を細めた。
「そんなことは絶対にゆるさんぞ、ハボック…」

 ロイは苛々と執務室の机を指で叩いた。目の前には山ほどの書類。とっとと取り掛からなければまたホークアイのお小言が飛ぶのは判りきっているのだが、全くやる気にならない。ハボックは朝から書類と格闘していたかと思うと出来た書類をロイの未決済の箱に放り込み、そのまま司令室を飛び出したきり帰ってこない。昨日からゆっくりハボックと話す時間すら取れず、ロイの苛々はピークに達していた。
「ああもうっ、やってられるかっ」
 ロイはがたんと席を立ち上がると執務室を出て行く。勢いよく開いた扉に司令室にいた面々がびっくりしたように顔を上げるのを無視して、ロイは廊下へ出た。ずんずんとすれ違う人間が飛び退ってよけるような勢いで歩いていく。いくつも角を曲がり扉をぬけて外へ出る。この先へ行けば演習場があって今の時間、ハボックはそこで小隊の連中と演習を行っているはずだった。
 ロイはため息をつくと建物の壁に寄りかかった。今まで随分沢山の女性と付き合ってきたが、こんなに自分から追い求めた相手がいただろうか。どうしてここまでハボックにこだわるのか、自分でもよく判らなかった。気がついたときにはハボックに惹かれる自分がいて、そうだとわかったら何が何でも手に入れたくなった。手に入れてしまえば今度は酷く執着する自分がいて。
 どうにもならない想いをもてあますと同時に、ハボックにも同じように自分を求めて欲しくて仕方が無い。 まるで木々の向こうのハボックが見えるとでもいうように、ロイは演習場の方角をじっと見つめていた。

「これなんですけどね」
 と、目の前の男がロイの前に緑色の小瓶を差し出した。ハボックにすげなくされた夜から3日がたち、結局シフトの関係でゆっくりと話す時間もないまま時が過ぎて、ロイは時々使っている情報屋に思わず恋人がつれないと漏らしてしまったのだった。
「これ1滴で気持ちが解れてホンネも出ますし、ちょっと気持ちよくなって色々シタクなるっていう、まぁ媚薬みたいなものですかね」
 ロイは差し出された小瓶を受け取ってまじまじと見つめた。中を透かせばとろりとした液体が入っているのが見て取れる。
「…どうしてこれを?」
 確かにたまたま連絡をしてきた情報屋にぽろりとツライ胸のうちを漏らしてしまいはしたが、あくまで愚痴のようなものでこんな怪しげなものを要求したつもりは無かった。
「いや、いつも大佐にはいろいろ便宜を図っていただいてますしね、それに」
 天下のマスタング大佐ともあろう人があんなことを言うなんてちょっとびっくりしたもので、と情報屋は苦笑した。
「まぁ、お守り代わりにでもして下さい」
 そう言うと情報屋は席を立った。残されたロイは小瓶をぎゅっと握り締めるとそっと胸ポケットに滑り込ませた。

「あ〜〜っ、つっかれたぁぁ…」
 そう言ってリビングのソファーにどさりと腰を下ろしたハボックをロイは見下ろした。今日は久し振りに二人で家で夕食を取り、片づけが終えたハボックはようやくソファーに座ったところだった。
「あ、コーヒー淹れますね」
 思いついて慌てて立とうとするハボックをロイは制して、そして言った。
「たまには私が淹れよう」
 そう言うロイをびっくりした顔でまじまじとハボックが見上げてくるのにロイは目を眇める。
「なんだ、その顔は」
「いや、だってアンタがそんなこと言うなんて」
 明日は嵐かも、などと失礼なことを言うハボックの頭をごつんと小突いて、ロイはキッチンへ向かった。コーヒーをセットしてカップを並べる。そうしてポケットから緑色の小瓶を取り出すとそれをじっと見つめた。部屋の中にコーヒーの香りが広がっていく中、ロイは手の中の小瓶をもてあそんだ。
『気持ちが解れてホンネも出ますし』
 頭の中に情報屋の言葉が木霊する。ハボックのホンネがすごく知りたい反面、知るのが怖い気もする。ロイはコーヒーをカップに注ぐとその琥珀色の液体をじっと見つめた。
「大佐、大丈夫っスか?」
 リビングから聞こえるハボックの声にロイはハッとする。
「今そっちに持って行く」
 ロイはそう答えると小瓶の蓋を開け、数滴垂らすとカップを手にキッチンを出た。

 ことりとハボックの前にカップを差し出すとハボックは礼を言って手を伸ばした。
「大佐でもコーヒーくらいは淹れられるんスね」
 失礼なことを言って、でもうれしそうに笑うハボックにロイの良心がちくりと痛む。自分は何をしようとしているんだろう、今ならまだ間に合う、そのコーヒーを飲むなと言えば…。
 そう思いながらもからからに乾いた口からは言葉が出てこなかった。そうこうする内にハボックはカップに口を付け、コーヒーを飲んでしまう。呆然とロイが見つめる間に、ハボックは半分ほどのコーヒーを一気に飲んでしまった。ハボックはテーブルにカップを置くと、自分を凝視するロイに気づいて首を傾げる。
「なんスか?」
 不思議そうに聞いてくるハボックから慌てて視線を逸らしてロイはぐびりとコーヒーを飲んだ。
「いや、なんでも…」
 様子のおかしいロイにハボックは首を捻ったが、ロイがおかしいのはいつものことだと残ったコーヒーも全部飲んでしまうと立ち上がった。
「大佐、すんませんけど、ちょっと疲れてるんで先に休んでてもいいっスか?」
「ああ、別に構わないが…。お前、どこか変ったこととかないか?」
 突然、訳の判らないことを聞かれてハボックがますます首を捻る。
「へ?別に何にも変りありませんけど…」
「そ、うか…。ならいいんだ」
 はっきりしないロイをハボックは暫し見下ろしていたが、一つ欠伸をすると「お先に」と言って2階へ上がっていった。ロイはそんなハボックの背中を黙って見送っていたがどさりと背もたれに体を預けると大きく息を吐いた。
「そうだな、そう都合のいい薬などあるわけが無い…」
 ロイは一つ息を吐くとソファーから立ち上がり、シャワーを浴びるべく浴室へと向かった。

 熱いシャワーを浴びるともやもやした気持ちが少しは晴れたようなきがして、ロイは髪を拭きながら浴室の扉を開けた。歩き出そうとして目の前の壁にぼすんと突き当たる。びっくりして顔を上げるとぶつかったのはハボックの胸だったと気がついた。
「ハボック?」
 俯いたハボックの表情が判らず、ロイは思わずハボックの顔を覗き込んだ。その時、突然肩を掴まれたと思うと次の瞬間には噛み付くように口付けられていた。
「―――っっ?」
 貪るような口付けに息が出来ず、ロイは無理やりハボックの手を振りほどいた。
「ハボック?!」
「たいさ…」
 見上げたハボックの様子にロイは息を呑んだ。ほんのりと上気した頬。水の膜を張って潤んだ空色の瞳。とろけるような表情を浮かべて見下ろしてくるハボックにロイの背中をぞくりとしたものが駆け上がる。
「たいさ、オレ、たいさのことが…」
 スキ、という囁きと共に唇を塞がれてロイは目を瞠った。そのまま押し倒されそうになって慌てて踏みとどまる。
「ちょっ…待てっ、ハボック!」
「なんで?オレのこと嫌いっスか?」
 途端に泣き出しそうな顔をするハボックの頬を撫でてロイは答えた。
「そんな訳ないだろうっ…ていうか、お前…」
 空色の目を大きく見開いて見つめてくるハボックをロイは見つめ返す。考えてみるとハボックからスキだと言ってきたのは本当に久し振りのことだった。例えそれが薬で箍が外れた所為だとしても、その言葉に満たされていく自分がいることにロイは呆然となった。ヒタと見つめたきりなにも言わないロイに焦れたハボックはいきなりロイの体を抱えあげると階段を駆け上がった。突然のことにロイは思わずハボックにしがみつく。
「うわっ、ちょっ…ハボックっ!何をして…っ」
 いつもなら相手を抱きかかええる立場の自分が突然女性のように抱きかかえられて、ロイはパニックに陥った。じたばたと暴れるロイを寝室に運び込むとハボックはロイをベッドの上に放り投げた。そしてそのまま圧し掛かってくるとロイの唇を強引に塞ぐ。
「ん、んん―――っっ」
 ロイが目を白黒させてハボックを押し返そうとするがウエイトのあるハボックに本気で圧し掛かられて中々思うように行かない。それでもなんとかハボックを引き剥がすとロイはぜいぜいと息をついた。
「ハボック、落ち着けっ」
「やだっ、たいさっ」
 しがみついてくるハボックを押しとどめて、ロイは何とか体勢を立て直そうとする。
「ハボック、少し落ち着いて…」
「だって、オレ…っ」
 ハボックはロイの上に四つんばいになってロイの顔を見下ろしながら呟いた。
「だってオレ、たいさのことスキだから…」
 その言葉にとくりと跳ねる心臓をなだめすかしてロイはハボックに聞いた。
「そのわりにはいつもつれない気がするが?」
「それは…オレ、たいさに触れられると最初は我慢してても途中から訳わかんなくなっちゃって…いつも我慢しなきゃって思うのに…」
 必死に言葉を紡ごうとするハボックの瞳は水の膜が張って今にも零れ落ちそうだ。
「なぜ我慢する必要があるんだ?」
「なぜって…みっともないじゃないっスか…オ、オレみたいのがたいさにね、ねだるなんて…っ」
 そう言ったハボックの目から張力いっぱいいっぱいになった水が零れ落ちた。
「みっともないだなんて、馬鹿なことを…」
 ロイの指がハボックの涙を拭く。
「私がスキか?ハボック…」
 そうロイが問えばハボックが何度も頷いた。そしてそのまま口付けてくるのをロイはうっとりと受け入れた。
「ふ…ん…」
 考えてみたらハボックから口付けてきたことなんてこれまで何度あったろうか。コトの最中でもいつも仕掛けるのは自分のような気がする。ロイは入り込んでくるハボックの舌を受け止めて自分のソレと絡ませていった。ぴちゃぴちゃという濡れた音にロイは熱を煽られていく。圧し掛かるハボックと体を入れ替えようとしてロイはバスローブの中に滑り込んできたハボックの手にギョッとなった。
「あっ」
 いきなり乳首を摘みあげられて思わず漏れた声にロイは自分でもびっくりした。ハボックが舌を這わそうとするのを押し返してロイは怒鳴る。
「待てっ、待たないかっ、ハボックっ!!」
「やっぱオレのこと嫌いっスか?」
「だから、そうではなく…っ」
 ロイの言葉を無視してハボックはバスローブの裾をはだけると熱を持ち始めたロイ自身に舌を這わせた。
「ハ、ハ、ハ、ハボック?!」
 笑いの発作でも起こしたような間抜けな呼び方で自分を呼ぶロイを尻目にハボックはロイ自身をぐちゅぐちゅと唇で扱いた。瞬く間に硬度を増すそれにハボックはうっとりと笑う。
「ちょっと待てっ、お前、ヘンだぞっ」
 いつもなら考えられない程積極的なハボックにロイはじたばたと暴れた。
「だって体が熱くて…」
 ハボックの言葉にロイの頭の中に情報屋の声が蘇った。
『ちょっと気持ちよくなって色々シタクなるという』
(それか――っ!)
 原因に思い至ってハタと動きを止めたロイの中心をハボックが再び咥える。
「んあっ」
 思わず上げてしまった声に真っ赤になってロイは自分の中心を咥えるハボックを見やると、ギクリと体を強張らせた。睫を伏せて必死にロイを咥えるハボックの姿は酷く淫靡で、その愛撫と視覚から入るその刺激とで瞬く間に集まる熱をどうすることも出来ずに、ロイは身を硬くしてハボックを見つめた。幾度か強く吸い上げられて、ロイは眉を顰めるとうめき声と共にハボックの口中に熱を放ってしまった。
(まさか、こんな…)
 ロイ・マスタングともあろうものがいい様にされた上、イかされてしまうとはロイにしてみればこんなことは初めてだった。勿論、今までにハボックにさせたことはあったが、それはあくまで自分に主導権があってのこと。こんな形でなぞロイは思い切りプライドが傷つけられた気がした。しかし、そんなロイを無視してハボックは再びロイを育てていく。そして舌と唇でロイを愛撫しながら自分の後ろに手を回すと、パジャマのズボンを引き摺り下ろし、ひくつく蕾に指を沈めた。
「う…んっ」
 ハボックの様子に目を奪われるロイの前でハボックはじゅぶじゅぶとロイを頬張り、自分の蕾をほぐしていく。空色の瞳にはうっすらと涙が浮かび、いかにも苦しそうだ。だがハボックはロイの中心から顔を上げると、ロイの上に跨ってまだいくらもほぐれていないソコへロイを飲み込もうとした。
「待てっ、ハボック!」
 我に返ってロイが慌てて止めようとするのも聞かずに、ハボックは自重で強引にロイを迎え入れてしまった。
「あああ―――っっ」
 微かに漂う血の匂いでハボックのソコが傷ついたのが判る。だがハボックはそれに構わずロイの上で腰を揺らした。
「ハボっ…おまえっ」
 熱いソコに包まれる快感に溺れそうになりながらもロイはハボックを押しとどめようとする。だが、ハボックはそれに構わず激しく腰をくねらせた。
「あんっ…あっあったいさぁ」
「よせっ、お前が…っ」
(効き過ぎだっ!)
 あまりに強力な薬の効き目にロイは焦った。まるでハボックに食われるような錯覚にロイはハボックを必死に押しとどめようとする。
「ハボック、待てと言って…るだろうがっ」
「あ、あん…たいさ…たいさあ」
 ハボックの熱い襞に押し包まれてロイは呻いた。自分の体の上で身をくねらせるハボックを見上げてその濡れた瞳にぞくりとする。ロイの視線に気づいたように見下ろしてきたハボックはロイをみてうっすらと笑った。
「ハボ…っ」
 そんなハボックに目を瞠るロイの前でハボックは自分の中心に手をやるとゆっくりと扱き出す。咥え込んだロイを熱く食みながら自らを慰めるハボックの淫らな様を、ロイは息を呑んで見つめていた。

 ロイはひどく疲れた様子で天井を見上げていた。やっていることはいつもと変らないというか、積極的にハボックが動いた分ロイはむしろ何もしなくていい位のものだったが、自分に主導権がないのがこんなに疲れるものとは知らなかった。なんだかハボックに食い尽くされた気がするのはなぜだろう。ロイがちらりと横に目をやれば当のハボックはブランケットを頭からすっぽりとかぶって丸まっている。
「ハボック?」
 ロイの声にびくりとブランケットの塊が震えた。
「大丈夫か?」
「…忘れて下さい…」
 くぐもった声がブランケットの中から聞こえる。
「なんでオレ…あんな色情狂みたいな…」
 消え入りそうな声で言うハボックにロイは流石に罪悪感を覚えて、うーっとうなった。
「あれはだな、決してお前の所為ではなく、その…薬の…」
 ロイのしどろもどろの説明にハボックががばりと身を起こした。が、すぐ、イテテとベッドにへたり込んでしまう。それでも視線だけはピタリとロイに向けたまま聞いてきた。
「薬って…どういうことです…?」
「いや、その、お前があんまりつれないからだな、そのお前のホンネを…」
「オレに薬を盛ったんですか…?」
「だからお前のホンネを知りたくて…」
「…信じらんねぇっ!」
 ハボックはボスンとロイに向かって枕を投げつけた。
「アンタって人は…っ」
「仕方ないだろうっ、元はといえばお前がつれなくするからいけないんだっ」
「オレのせいっ?!だからって薬を使うことはないでしょうっ?!」
「お前にもっとスキだと言って欲しいんだ、私はっ」
 ガバッと起き上がったロイに上から見下ろされて言われた言葉にハボックは目を瞠った。みるみる真っ赤になって、それでもひたと見上げてくる空色の瞳に決まり悪そうにロイが視線を逸らす。
「…いつも言うのは私ばかりだ」
 不機嫌そうに呟く声にハボックは苦笑した。
「スキですよ、たいさ…」
 囁く声にロイはハッとして振り向く。
「スキだからこうして傍にいるんでしょ」
「…それはそうだが…」
 言葉も欲しいんだ、と呟くロイの体をハボックは引き寄せた。その胸に顔を埋めながら言う。
「オレはたいさみたいにはなれないっス…」
 言わなくても判ってくれというハボックをロイはそっと抱きしめる。恥ずかしそうに目元を染めたハボックの金色の髪にそっと口付ければ見上げてくる空色の瞳に優しく微笑んで。
「それでも偶には言ってくれ…」
 強請る言葉にくすりと笑うハボックにロイはゆっくりと口付けていった。


2006/8/22


えっと、少し前にアンケートで「受けなのに優位に立っているハボ。もうカンベンしてくれよー、と言う攻めのロイが見たい」と言うコメントを頂きまして、書いてみた話がコレという…。なんでこんなヘンタイネタに…。優位に立つハボってのがどうにも考え付かなかったもので。しかし、うちのハボは酔ってるとかラリってるとかそんなんで箍が外れるのばっかですね…。だからワンパターンって言われちゃうんだよな。反省…。