愛執染着


「とにかくっ、オレ、明日は早番なんでもう休みますからっ」
 ハボックはそう言い捨てて階段を駆け上がっていく。不意を付かれたロイが一歩遅れて後を追うが無情にもその目の前で寝室の扉が閉まった。ガチャリと丁寧に鍵まで掛ける音がする。
「無理やり開けたら今後絶対アンタとはしませんからっ」
 ハボックが中から言う声にロイはドアノブにかけようとした手を止めた。
「ハボック。何もしないからせめて一緒に…」
「信じられません。もう寝るんで、おやすみなさい」
 そう言ったきりどんなにロイが呼ぼうとも返事のないハボックにロイはひどく傷ついた顔で扉に寄りかかった。

「アイツめ、ホントに私のことが好きなのか?」
 ロイはダイニングのテーブルでひとりもそもそと遅い朝食をとりながら呟いた。朝起きたら案の定ハボックはもう出勤した後で、テーブルの上には一人分のサンドイッチが作っておいてあった。ロイはポットからコーヒーを注ぐとがぶりと飲み込む。ロイはどうしてもハボックに言って欲しいことがあった。この間から何かにつけてその言葉をくれる様、言っているのにのらりくらりとかわすどころか、最近では仕事にならないと夜の生活を拒むことすらある。強引に押し倒してしまえば体を開くし、行為を強請る言葉を言ったりもする。だが、行為の最中ですら「好きだ」とか「愛してる」とか言ってくれないのだ。ロイはどうしてもその言葉が欲しくてなんとか言わせようとするのだが、頑として言ってくれないハボックに、最近ではその気持ちを疑いたくなってきていた。自分はこんなにハボックのことが好きなのに不公平だと思う。自分がハボックを欲しがるようにハボックにも自分を欲しがって欲しくて、ロイは正直頭がおかしくなりそうになっていた。

「大佐、この書類にサインお願い…」
「ハボック、お前、私のことをどう思っているんだ?」
 書類を差し出した手を突然ぐいと掴まれてそんな事を言い出すロイに、ハボックはウンザリした顔を向けた。
「おい、ハボ…」
「大佐、サイン下さい」
 ロイの言葉を遮るようにハボックは言うと、ため息をついた。
「大体今は仕事中です」
 冷たく言い放つハボックにロイは
「お前、本当に私のことが好きなのか?」
 と聞く。するとハボックは一瞬目を瞠ったが次の瞬間
「仕事してくれない大佐は嫌いです」
 などと平然として言ってのけるので、結局ロイは言葉を継ぐことが出来ず、しぶしぶサインなどするのだった。さっさと部屋を出て行くハボックの背をロイはひどく暗い表情で見送っていた。

 ぱたんと執務室の扉を閉めて、ハボックは扉に寄りかかってため息をついた。ここ最近、ロイが自分に「好きだ」と言わせたいのは判っていたが、ハボックは敢えてその言葉を言わないでいた。
(言ったら最後、際限ないんだもんな、あの人)
 「好きだ」と言った途端、昼間の会議室で押し倒されたことは記憶に新しい。大体好きでもない相手にどうこうされたいと思うわけないのだから、その辺は察して欲しいと思うハボックだった。

「え?明日少尉は非番なのか?」
「はい、先日ブレダ少尉と勤務時間を交代してましたので、もともと半日勤務のところが非番になっている筈ですけど」
 ホークアイに言われてロイは眉を顰めた。ハボックはそんなこと一言も言っていなかった。ここのところすれ違ってばかりでゆっくり話す暇もない。非番ならそうといってくれたらいいのに。ロイは暫く考えるとホークアイに言う。
「仕事の調整ですか?」
「ああ、どうしても明日、休みを取りたい。なんとか調整できないか?」
 いつになく真剣なロイの様子にホークアイは考え込んだ。
「そのかわり今日と明後日がかなりきついスケジュールになりますけれど?」
「かまわない、なんとかしてくれ」
 そういうロイにホークアイはため息をついてスケジュール表を捲った。

 ロイが漸く仕事を終わらせて家に帰るころには夜もだいぶ更けていた。家に戻るとハボックはリビングでコーヒーを飲みながら本を読んでいる所だった。
「遅かったっスね。メシ、どうします?」
「軽く済ませてきた」
「じゃあコーヒーでも淹れますね」
 そういってキッチンへ入っていくハボックを見送ってロイは上着を脱ぐとソファの上に放り投げた。暫くして戻ってきたハボックからコーヒーを受け取るとソファに座り込む。向かいに座って本を手に取るハボックを見つめてロイは口を開いた。
「明日は非番だそうだな」
 そう言われてハボックは本から顔を上げずに答えた。
「ええ」
「聞いてない」
 ロイの言葉にハボックは視線をあげると首を傾げた。
「…言ってませんでしたっけ?」
「聞いてないな」
「…でも、どうせ、大佐は仕事でしょ?」
 それなら溜まった家の仕事でもしてますよ、というハボックの側へカップをテーブルに置くとロイは近づいていってその顎をぐいと持ち上げた。
「お前、本当に私のことを何だと思っているんだ」
 ハボックはロイの手を振りほどくとウンザリしたように言った。
「また、その話」
 いい加減にしてくれというハボックの体の上へロイは圧し掛かるようにして低く言った。
「お前にとって私である必要はないんじゃないのか。快楽を与えてくれる相手なら誰だって…」
 ロイがそこまで言った時、ハボックが下から思い切りロイを蹴り上げた。ハボックの膝がロイの下腹に綺麗に入り、ロイは思わず呻いた。
「ふざけんなっ!アンタ、オレをバカにしてんですか?!オレが誰彼構わず脚開いてるって言いたいんスかっ!オレはアンタだから…っ」
 怒りに空色の瞳を煌めかせて怒鳴るハボックをロイは呆然と見つめた。
「アンタこそ、オレのことどう思ってんです?ただの性欲処理相手だと思ってんじゃないんですかっ?!オレだってアンタのこと好きだからアンタに抱かれたいけど、でもっ」
 ハボックの空色の瞳にみるみる水の膜が盛り上がる。
「アンタが上を目指すって言うなら軍人として役に立ちたいんスよっ!なんで判ってくれないんですっ!オレは…っっ」
 ぽろりと。
 ハボックの瞳から涙が零れ落ちた。
 ハボックは顔を伏せるとロイの体を押しやって立ち上がった。
「も、いい…」
 ふらりと部屋を出て行こうとするハボックにロイは声を掛ける。
「ハボック…っ」
 それでも振り向かないハボックの腕をロイは後ろから掴んだ。途端に思い切り振り払われて愕然とする。
「触るなっ」
 きつく睨みつけてくるハボックの体をロイはかき抱いた。逃れようと暴れるハボックに強引に口付けて。暴れるハボックの体から力が抜け落ちるまで深く深くハボックの口中を犯していく。がくりとハボックの膝が砕けて崩れ落ちそうになるのをロイはしっかりと抱き寄せた。
「すまなかった…」
 ハボックの耳元で囁く。
「すまなかった、ハボック…」
 ハボックの体をきつくかき抱いた。
「お前が好きなんだ。何も考えられなくなるくらい…。ずっと側にいて欲しい。お前が側にいてくれてこそ、上を目指せるんだ。お前がいなかったら私は…っ」
 息が止まりそうなほどきつく抱きしめられて、ハボックは黙ってロイの言葉を聞いていた。ロイの肩に頭をコツンと乗せて小さな声で尋ねる。
「オレを必要としてくれるんですか?」
「当たり前だろうっ!」
「それってただの性欲処理の…」
「いい加減にしろっ!」
 ロイはハボックの顎をぐいと掴むとその目を覗き込んだ。
「私は使えないヤツを自分の側に置いておけるほど心が広くはないんだ」
 ロイの言葉にハボックが僅かに目を見開く。
「愛してる、ハボック。昼も夜も離れずに一緒にいて欲しい。そう思うのは我が儘か?」
「たいさ…」
「愛してるよ」
 そう言って、ロイがハボックの唇を塞ごうとする寸前、ハボックは小さく呟いた。
「オレも、愛してます」
 一瞬目を見開いてロイは噛み付くようにハボックに口付けた。折れるほどの力でハボックの背をかき抱きハボックの口中を舌で弄る。きつく舌を絡めて強く吸い上げれば力の抜けたハボックの手が必死にロイの背にすがり付いてきた。
「ハボック、お前が欲しい…」
 耳元でそう囁けば微かに頷くハボックにロイは幸せそうに笑った。

「あ…っ、ぅんっ」
 つけていた衣服を脱ぐのももどかしく、性急に求め合う。ベッドの上にハボックの体を組み敷いてロイは乱暴に愛撫を施していった。項をきつく吸い上げ鮮やかな朱色を散らすと、満足気にその印に舌を這わせハボックを戦慄かせる。朱色が一つ、又一つと増えていくたび、ハボックの体に官能の焔が点り、その中心に熱を集めていった。
「ん、は…っ、たい、さ…っ」
 とろとろと先走りの蜜を零すソレをロイの下腹にこすり付けるようにしてハボックが腰を揺らめかす。その様にロイはくすりと笑みを零して立ち上がるモノをやんわりと握り締めた。
「あっ、あんっ」
 指先で蜜の零れ出る先をぐちゅぐちゅといじれば、ハボックが腰を突き出して、更なる刺激を強請る。とろとろと溢れ出る蜜はロイの手を汚し、ひくひくと蠢く蕾をしとどに濡らしていった。
「んんっ、は、たいさ、もっ、と…っ」
「もっとどうして欲しいんだ?」
「し、扱い、て…っ」
「こうか?」
 ロイはハボックの中心をじゅくじゅくと蜜をまぶしながら扱き上げていく。ハボックが脚を突っ張って腰を持ち上げるとゆらゆらと蠢かした。
「ああっ、はあっ、あ、あっ」
 だがロイは徹底的な刺激は与えてやらずにやわやわと扱くに留めた。
「あ、や、もっと、おねが…っ」
「まだ、足りないのか?」
 意地悪く尋ねるロイにハボックはがくがくと頷いた。
「どうして欲しいのか、やって見せて」
 そう言って、ロイはハボックの手を取るとその中心を握らせた。
「や、だぁ、こんな、の…っ」
「自分で可愛がってやるんだ。私はこっちを可愛がってやるから」
 そう言うとロイはハボックの蕾につぷりと指を差し込んだ。
「ひあっ…、ひ…っ」
 ぐちぐちとかき回しながら、ハボックに前をいじるように促す。ハボックは導かれるままに自分のそれを扱き始めた。
「ふぁ…っ、はんっ、ああ…っ」
 自分の体の下で自らのモノを扱きながら後ろにロイの指をくわえ込んでゆらゆらと腰を揺らめかすハボックを見つめてロイは満足そうに微笑んだ。こんな風にされて悦ぶ体にしたのは自分だと思うとゾクゾクとした悦びを感じる。ロイはハボックの蕾から指を引き抜くと、自慰行為に没頭するハボックの手を掴み、片手で頭上にまとめ上げた。
「ああっ、や、いや…っ」
 身悶えるハボックを見下ろしてロイはハボックの片脚を胸に付くほど折り曲げると、ひくひくと蠢く蕾に猛った自身を擦りつける。
「欲しいか、ハボック?」
 くちくちと入り口をロイ自身で擦ればハボックの口からうっとりしたようなため息が零れた。
「ハボック…?」
 再度促すとハボックは無我夢中で頷いた。
「ほ、ほし、い…っ、はやく…っ」
 そうして入り口にあてがわれたロイ自身に必死にこすり付ける仕草をする。ロイはにんまりと笑うとハボックの脚を抱え上げて一気にその身を沈めた。
「あああああ――――っっ」
 仰け反るハボックの体を引き寄せて、容赦なく突き上げる。その衝撃でハボック自身が白くはじけた。
「ああっ、ひ…っ、あ、きつ…っ」
 きつく眉を寄せてがくがくと体を震わせるハボックをロイはその身を繋げたまま強引に反した。
「ひぃ…っ」
 滾った熱い塊で柔らかい襞をぐるりとかき回されてハボックが悲鳴を上げる。それに構わず、ロイはハボックの腰を高く抱え上げると激しく抽送を開始した。
「ひあっ、あ、あっ、やっ、あ、もっ、くるし…っ」
 ぼろぼろと涙を零すハボックを情け容赦なく突き上げる。ハボックは再びその中心から熱い迸りを吐き出すとぶるぶると体を震わせた。殆んど間を置かずにハボックのソレがびゅくびゅくと白いものを迸らせる。
「や、やだ…っ、もう、助け…っ」
「イキっぱなしか、ハボック?」
 節操のない、と呆れるように囁かれてハボックはぼろぼろと涙を零す。その間にも反り返った中心からは白濁した液が垂れ流され、ハボックの脚を汚していった。自分をこんな風にしたのはロイなのに、そのことで酷く言われ、又その言葉に興奮する自分に気づいてハボックは混乱した。
「はあっ、ど、して…っ」
 身悶えるハボックにロイは嬉しそうに笑ってガンガンと突き上げる。その際奥へ熱いものを注ぎ込んでぶるりと体を震わせた。背後からハボックの顔を強引に振り向かせると唇を合わせる。
「た、いさ…っ、も、う…」
 放して欲しいと訴えるハボックにロイはちょっと困ったように笑うと、ハボックの中で再び硬度を増してきたモノでぐいと突き上げた。
「悪いな、ハボック。まだ放してやれそうにない…」
 ロイの言葉にハボックがびくりと体を震わせる。
「ア、ンタ、さっき、の、人のはなし…っ」
「聞いてたけど、やっぱり我慢できそうにない。」
 しれっとしてそう言い放つロイにハボックは眩暈がした。
「ち、くしょ…っ、話がち、がうっ」
「仕方ないだろう、このイヤらしい体がいけないんだ。」
 そう言って、ロイはハボックの尻を撫で回した。
「こ、の、ヘンタイ…っ」
 快感に震えながら憎まれ口を叩くハボックに楽しそうに微笑んで。
「まだまだ時間はたっぷりあるさ」
 そう言いながらロイはハボックに溺れていった。


2007/7/9


「愛執染着(あいしゅうぜんちゃく)」=愛の執着、愛に囚われる事
ハボが好きで好きでたまらないロイとロイのことが好きだけど、もっと広い意味でロイについていきたいハボのお話。結局の所は相思相愛なんですけど…。やっぱりハボはロイのペースに巻き込まれちゃうんだよね。