act.26 truth



「待っ…」
 ようやく言葉が口から出てきたのはハボックの背が疾うに見えなくなってからだった。もう二度とその姿を見ることが出来ないようなそんな恐怖が不意に湧き上がって、ロイはぶるりと体を震わせる。その恐怖から逃げるようにロイは休憩所を飛び出した。廊下を走り抜けて司令室の扉を叩きつけるように開けると部屋の中を見渡す。
「大佐、どうかしましたか?」
 中にいたフュリーが驚いてそう聞いたがロイにはまるで聞こえていなかった。
「ハボックは?」
 震える声でそう聞けば
「少尉なら訓練に行きましたけど?」
 なんでもないことのようにフュリーが答える。その声に弾かれるようにロイは部屋を飛び出した。ハボックを失うことへの恐怖に全身から力が抜けてしまうように感じながらロイは演習場へと駆けていく。明るい空の下、太陽の光を弾いて輝く金髪を見つけるとロイはわき目も振らず一直線に向かっていった。
 部下に指示を与えていたハボックは怪訝な顔をする部下達の表情に気づいて後ろを振り返る。こちらに向かって物凄い勢いで駆けてくるロイの姿を見て目を丸くした。
「大佐?」
 部下達にちょっと待つように指示を出してハボックはロイが来るのを待つ。
(まだ言い足りないことでもあるのかな…)
 さっきの嫌がらせは流石に堪えた。これ以上何か言われたら部下達の前で醜態を晒してしまうかもしれない。ハボックはせめてそんな惨めな自分を晒さずに済むよう、ぐっと唇を噛み締めて駆け寄ってきたロイを見下ろした。ハアハアと息を弾ませるばかりで何も言わない黒曜石の瞳に耐えかねてハボックが何か言おうとするより一瞬早く、わなわなと震えたロイの唇から言葉が飛び出した。


2008/1/2