| act.22 transfer |
| 「そりゃまあ、お前みたいのがいれば俺としても助かるけどよ、ロイはそれでいいって言ってんのか?」 電話の向こうにいる相手にヒューズはそう問いかける。だが相手はそれには答えずに書類を回すからとだけ言って電話を切った。 ロイはサインしていた手を止めると、何も言わずにコーヒーを差し出す相手を見上げる。仕事の邪魔にならぬ場所にカップを置くと一礼して部屋を出て行こうとするその背にロイは思わず呼びかけていた。 「ハボック…!」 「…なんスか?」 振り返りもせずに答えるその姿が酷く遠いものに思えてロイは言葉を続けることが出来ない。 「何もないならオレ、忙しいんで」 そう言って出て行ってしまうハボックをロイは泣きそうな顔で見送っていた。 ハボックがロイを探しに来なかったあの日以来、ハボックとロイの間に奇妙な溝が生まれていた。これまで互いに意識しつつも軽口を叩き合ったり笑いあったり、いつかもっと近くに立つことが出来る、きっと上司と部下などではなく2人の生身の人間として向き合うことが出来ると、それはさほど遠い日ではないだろうと期待していたロイだったが、ここ数日、近くに立つどころか溝は深まる一方で、原因に心当たりのないロイはどうしていいか判らず途方に暮れていた。何かハボックを怒らせるようなことを言ったろうかと必死に考えてみたがまるで思い至らない。ハボックがどんどん離れていってしまうようで、切なくて苦しくてロイは震える手で積みあがった書類を1枚取る。その紙面に載った文字を見たとき、ロイの目が大きく見開かれた。 「どうして…?」 ロイが手にしているのはセントラルのマース・ヒューズの元へ転属を願い出るハボックの申請書だった。 2007/11/20 |