act.12 tongue2


「か、鏡っス…」
 不機嫌そうに椅子に座るロイにハボックはおずおずと手鏡を差し出した。暫く黙ってハボックを見ていたロイはひったくるように鏡をもぎ取る。そうして口を開くと、鏡の中の己の舌をしげしげと見つめた。
「紅くなってる…」
 呟くようにそういえば、ハボックが答えた。
「淹れたてだったから、かなり熱かったっスもんね」
 へらりと笑うハボックをロイはジロリと睨みつけた。
「どうしてくれるんだ」
「へ?」
「お前の所為だろう、どうしてくれるんだ」
「オレの所為って、なんで…」
 訳がわからないと目を丸くするハボックにロイは言った。
「お前があんな熱いコーヒーを淹れてくるからいけないんだ」
「えー、だって…」
「だってもくそもあるか、責任とれ」
「そんなムチャクチャな…」
 あまりに勝手なことを言うロイに、ハボックは途方に暮れた顔をする。ロイはがたんと席を立つとハボックに言った。
「こっちに来い、ハボック」
「はあ…」
 責任をとれだなんて、一体何をやらされるんだろうと、不安そうにロイを見つめるハボックに、ロイはソファーを指差す。
「そこに座れ」
「はい…」
 言われるままにソファーに腰を下ろすと、ハボックは自分を睨め付けるロイを見上げた。
「唾をつけとけば治るって言う言葉、聞いたことがあるだろう?」
「へ?え、ええ。かすり傷なんかの時はそう言いますね」
「知ってるなら話が早い。お前が唾をつけて治せ」
「はい?」
 ぽかんと見上げてくるハボックの隣にどさりと腰を下ろすと、ロイはハボックの肩を掴む。
「ココ。唾をつけて治してもらおうか」
 ロイはそう言うと紅くなった舌を差し出してハボックに顔を寄せた。
「たっ、たいさっっ!!」
 顔を寄せられた分だけ体を反らせてハボックは必死にロイから顔を遠ざけようとする。
「待って、待ってっ!!そこならもう、大佐の唾がついてるっ!!」
「だからなんだ。関係ないだろう」
「いや、だっておかしいでしょうがっ!」
「責任を取らない気か?」
「だから、そのっ…」
 ハボックがなんとかロイを遠ざけようと必死になっていると、がちゃりと執務室の扉が開いた。
「よっ、ロイ、元気か…って、なにやってんの、お前ら」
 ソファーの上で押し合いをしている二人をヒューズが不思議そうに見下ろして言う。
「ちゅっ、ちゅうさあ〜〜」
 突然のヒューズの登場に凍り付いているロイを押しやってハボックはヒューズに泣きついた。
「あー、よしよし、どうした。ロイに虐められたか?」
 ぽんぽんとハボックの頭を叩くヒューズはその途端部屋の温度が10度は下がった事に気づく。背後のロイを振り向く勇気もないまま、ヒューズは慌ててハボックと執務室を飛び出したのだった。



2007/1/22