act.11 tongue



 まったく、どうしたらこの鈍い男をその気にさせることが出来るのだろう。
 ロイは執務室で書類の山に埋もれながらそんなことを考えていた。あの手この手でなんとかその気にさせようと頑張ってきたロイだったが、どれ一つとして成功したためしがない。それどころか、この間演習場の壁を乗り越えようとした一件以来、むしろロイと距離を置こうとしているような気がする。今も、ロイにコーヒーを出したついでに決済済みの箱から取り出した書類をより分けるハボックは、ロイから一番離れたソファーの端に腰掛けていた。
(余計な邪魔ばかり入るし…なんでこう、うまくいかないんだ…っ)
 自分から告白すればずっと早く展開するのでは、と言う考えはロイの頭の中には欠片も存在しない。ロイは煮え切らないハボックにムカムカと腹を立てると手にしたコーヒーをがぶりと飲んだ。
「っっ!!」
 途端、口の中を焼く液体にがしゃんと投げ捨てるようにカップを置く。
「あっちいっ!!」
 なんとか噴き出さずにコーヒーを飲み込んだロイは、あまりの熱さに口元を覆って机に突っ伏した。
「たいさっ?」
 びっくりしたハボックが駆け寄ってきてロイの肩に手を当てた。
「大丈夫っスか?」
「…熱かった…っ」
「当たり前っスよ、淹れたてですもん」
 猫舌のくせに、と言われてロイはカチンときたが、ひりひりする舌ではとても何か言い返す気になれなかった。
「冷たいもの持ってきますね」
 そう言って執務室を出て行こうとするハボックの腕をロイは咄嗟に引き止める。
「なんスか?」
 そう聞いてくるハボックを見つめてロイは答えた。
「やけどしたみたいだ。ちょっと見てくれないか?」
「へ?見てってドコです?」
 首を傾げるハボックの腕に手を添えて、ロイは顔を近づけると囁く。
「ココ…」
 そうして目を閉じて舌を差し出してくるロイにハボックは凍りついてしまった。
「ハボ…」
 うっすらと目を開いて名を呼んでくるロイの濡れた表情に、ハボックは飛び上がって後ずさる。
「かっ、鏡持ってきまぁすっっ!!」
 そうして物凄い勢いで執務室を飛び出していってしまったハボックにロイは思い切り地団駄を踏んだのだった。


2007/1/20