act.29 stubborn2

「ハボック少尉」
 廊下に面した窓に寄りかかって煙草をふかしながら外を見ているハボックにホークアイが声をかける。どう見てもサボっているようにしか見えない自分の態度に、ハボックが慌てて居住まいを正したが、ホークアイは特別咎める事もせず他の事を言った。
「大佐から書類を預かったわ」
「大佐から?」
 聞き返すハボックにホークアイは手にした書類を差し出す。それがロイのサイン済みの異動申請書だと見て取ってハボックは僅かに目を見開いた。そのまま数秒、何も言わずにいたが引きつった笑いを浮かべると言う。
「通ったんスね、申請書。大佐、なんか言ってましたか?」
「このまま出してしまっていいのかと聞いたわ」
 ホークアイがそう言えばハボックが書類から目を上げた。
「大佐、なんて…?」
「出さない理由はない、と」
 縋りつくようなハボックの視線を受け止めながらホークアイは答える。その言葉を聞いた途端、空色の瞳が弾かれたように見開かれ、それから静かに閉じた。
「そっスか」
 ハボックはそう言うと短くなった煙草を携帯灰皿に放り込む。ホークアイをまっすぐに見つめると言った。
「人事に出して、実際の異動はいつぐらいっスか?発令前にセントラルに行ってもいいなら少しでも早く行きたいんスけど」
「少尉」
 搾り出すように言葉を吐き出すハボックの腕をホークアイは咄嗟に掴む。その空色の瞳を覗き込むようにして言った。
「それでいいの?貴方、大佐の傍、離れてしまっていいの?」
…だって、オレは大佐に必要とされてないんスよ?それどころか嫌われて…っ」
 くしゃりと顔を歪めて言うハボックの言葉にホークアイは驚いたように目を瞠る。
「少尉、一体何を言って――
「とにかくそれ、早く出しちまって下さいっ。そしたらオレ、すぐにもセントラル行きますからっ」
 そう言い捨ててハボックは廊下を駆けていってしまう。目を丸くしてそれを見送っていたホークアイは思い切り眉を顰めた。
「何やってるの、あの人たちは…っ」
 傍から見れば互いに離れたいなどと思っていないことなど一目瞭然なのに。
「……
 ホークアイは綺麗な指を口元に当てて暫く考えていたが、何かを思いついたように瞬くとハボックが行ったのとは反対方向へと歩き出したのだった。


2008/06/25