act.15  nice build


「いてててて…」
 ハボックは医務室の椅子に腰かけながら顔を顰める。向かいの椅子に座った医師は、呆れたような顔をして言った。
「階段から落ちたんだって?らしくないですなぁ、少尉。一体どうしたんです?」
 そう聞かれてハボックは、あはは、と力なく笑う。まさか目の前の上官の尻に見惚れていた挙句、その尻に顔を突っ込んで目が回って階段から落ちたなど、普通の男ならまず人には言えない。
(それにしても、凄く柔らかかったよな…)
 普通、男の尻など硬いと相場が決まっているようなものだが、ロイのそれは勢いよく突っ込んだハボックの顔を、柔らかく受け止めてくれた。ハボックがその時の感触を思い出してへらっとした顔でいるのを、医師は気味悪そうに見たが、何も言わずにハボックの頭に手を滑らせる。
「コブにはなっていないようだが…。頭、どこか痛い所はあるかね?」
「いや、特にないっス。ぶつけた記憶もないし」
 尻に顔を突っ込んだという無様な理由とは言え、一応頭を庇うくらいのリアクションは出来たようだ。
「だったらとくに写真をとらんでもいいかね。何か変調があったらすぐに診せに来て」
 医師にそう言われてハボックは頷く。次にシャツを脱ぐように言われて、ハボックは腕を上げようとしてズキリと痛んだ背に、顔を顰めた。
「ああ、酷い痣になっとるよ」
「すげぇ、痛いっス…。」
 医師の指が触れるだけでズキズキと痛む。ハボックが背を僅かに丸めて痛みをこらえていると、医務室の扉がノックされてロイが顔を出した。
「ハボック、怪我の具合は―――」
 入ってくるなりそう言って、固まってしまったロイの様子に気がつかず、ハボックは苦笑して答える。
「たいしたことないっスよ、ちょっと打ち身」
 だがロイはそう言ったハボックには何も言わず、ハボックの体を凝視したままだった。ハボックは回転椅子を回してロイの方を向くと首を傾げる。
「たいさ?」
 それでも返事をしないロイにハボックは椅子から立ち上がるとロイの腕を掴んだ。いきなり近づいてきた逞しい体にロイの体がびくんと跳ね、次の瞬間、ボッと顔から火が噴き出るのではないかと言うほど真っ赤になる。
「うわああっっ!」
 ロイは叫んでハボックを突き飛ばした。
「わっ…とっ…わわっっ!!」
 ガシャーーンと突き飛ばされた拍子に椅子の足に自分の脚を絡めてハボックがひっくり返る。
「そんなイヤらしい体で私に近づくなっ!」
 そう叫んで医務室を飛び出していくロイをハボックと医師は呆然と見送った。
「イヤらしいって…」
 ハボックは床に尻餅を付いたまま情けない顔で医師を見上げる。
「オレの体ってそんなにイヤらしいっスか?」
「…さあ」
 そうして2人は呆然と顔を見合わせるのだった。


2007/4/13