act.4 massage2


 暫くしてハボックがトレイにコーヒーを載せて執務室に戻ってきた時、ロイはソファーにだらしなく座って、背もたれに両腕をのせていた。おずおずとコーヒーを差し出すハボックを目を細めて睨みつけると口を開く。
「コーヒーじゃ凝った体は楽にならないんだがな」
「あ…じゃあ医務室でシップ薬でも貰って…」
「お前、私にそんなものを貼れというのか?」
 確かに天下のロイ・マスタングともあろう者が、シップ薬の匂いをさせているのはどうかとハボックも思う。
「こんな調子じゃもう今日は働く気にならないな…」
「えっ?!」
 ソファーにもたれかかってそう呟くロイに、ハボックは慌ててロイの顔を見た。今日、ホークアイは出張で不在だ。となれば、ロイに仕事をさせる役目はハボックに回ってくる。とりあえず急ぎの書類は片づけたとはいえ、今日中に決済の欲しい書類はまだ山積みだ。ハボックはロイの前に置いたコーヒーを見つめながら暫く考え込んでいたが、意を決したように顔を上げるとロイに言った。
「マッサージ、させてください…っ」
「そうか?」
 決死の覚悟で告げてくるハボックにロイはにんまりと笑うとソファーに横になる。そうしてハボックの手を取ると、自分の腰と尻の間の微妙な位置に導いた。
「たっ、たいさっ?」
「この辺りが特に凝ってる気がするんだ」
 そう言いながらぎゅうっとハボックの手の上から押さえつけてくるロイの手を振りほどくと、真っ赤になったハボックは一度執務室から出て大判のタオルを持って戻ってきた。そうして横たわるロイの体にそれをふわりと広げる。
「タオルなんてなくても…」
「この方が気兼ねなく出来ますから」
 ハボックの体温が直接感じられなくなる事にロイは不満な声を上げたが、ハボックにそう言われてしまえば返す言葉がない。ハボックはゆっくりとロイの体を揉み解しながらさっきと同じことを言った。
「痛かったら言って下さいね」
 強張った筋肉を解していく手に、ロイは体の中で滞っていた血流がゆっくりと流れ出していくのを感じて。
 そうしてロイはいつのまにかすうすうと寝息を立てていたのだった。

「たいさ…?」
 ハボックは動かしていた手を止めると小さな声でロイを呼んでみる。返ってくるのが穏やかな寝息だけだと判ると、はああと大きくため息をついてどさりと床に座り込んだ。
「つかれた…」
 士官学校の時から友人達にマッサージをしてやりはしたが、こんなに疲れたマッサージは初めてだ。その時、軽いノックの音と共にブレダが執務室に入ってきた。ソファーで寝るロイと床に座り込んだハボックに目を丸くすると言う。
「あれ、大佐、寝てんの?」
 その言葉にハボックは立ち上がるとブレダを促して執務室の外へ出る。
「マッサージしてくれって言うからしてやってたら寝ちゃったんだよ」
 そう言うハボックにブレダは ああ、と頷く。
「そういや士官学校時代、お前にマッサージされては寝ちまってたよなぁ」
 お前のマッサージ、気持ちよくて眠気を誘うんだよ、と笑うブレダにハボックは力なく笑い返す。
「なんか疲れてないか、お前?」
 そんなハボックを見てブレダが不思議そうに聞いた。
「こんな疲れるマッサージ、初めて…」
 そう言ってどさりと自席に座り込むと、てろんと机に突っ伏す友人にブレダは首を傾げるのだった。


2007/1/10