| act.3 massage |
| 「ああ、くたびれた」 ロイは最後の一枚にサインをすると、ペンを机の上に放り投げ、うーん、と伸びをした。 「お疲れ様でした」 ハボックはロイがかき上げた書類を取り上げて、前に仕上げたものと一緒にとんとんと机の上で揃えると、ロイにむかってにっこりと笑った。 「とりあえず急ぎの書類は終わりましたから、少し休憩していいですよ」 ハボックはそう言うと執務室の扉を開けてフュリーに出来上がった書類を手渡す。フュリーに二言三言告げた後、ハボックはロイを振り向いて言った。 「コーヒーでも淹れましょうか」 その言葉に椅子にだらしなく腰かけてハボックの様子を見ていたロイは徐に口を開いた。 「肩が凝った」 そう言いながら首をゆっくりと回す。 「ハボック、お前、マッサージ上手いんだってな?」 「へ?マッサージっスか?」 「前にブレダ少尉が言ってた」 そう言われてハボックは、ああ、と言う顔をした。 「士官学校時代によくお互いにマッサージやりっこしたんですよ。別にオレが上手いとかじゃなくて、みんなやってましたけどね」 ロイはふうんと気のない返事をしつつも、椅子から立ち上がるとハボックを見て言った。 「じゃあ、その腕前を披露してくれ」 「は?」 「肩から背中にかけて、すごい張ってるんだ。マッサージしてくれないか」 ロイはそう言うと、ハボックの返事を待たずに上着を脱ぎ捨て、ソファーの上に俯せに横たわる。そうして腕の上に顎を載せると、ドアの近くで固まっているハボックを呼んだ。 「ハボック、早くしろ」 ロイの声にびくっと飛び上がったハボックはうろうろと視線を彷徨わせた。 「いや、だって、オレ、マッサージ、上手くないっスから…っ」 「いいから、少し擦ってくれるだけでもいいんだ。ああ、ドアは閉めろよ。いかにもサボってますって感じだからな」 「や、でもっスね…」 「ハボック」 苛立ちを含んだ声音にハボックはとりあえず開いていた扉を閉める。それから散々迷った末、途方にくれたような顔でロイの側に立った。 「オレ、ホントにマッサージなんて…」 「ああ、疲れた。誰かが急かすから休む間もなかったものな」 はああ、とため息を零すロイにハボックは仕方ないとばかりにロイが横たわるソファーに片膝をついた。 「あの、痛かったら言ってくださいね」 そう言うとハボックはロイの肩に手をあててゆっくりと揉んでいく。大きな手のひらは丁度良い強さでロイの肩を揉み解し、ロイは気持ちよさそうに目を閉じた。 「上手いじゃないか」 「はあ、どうも」 「今度は背中から腰な」 そう言われてハボックの手が一瞬止まったが、肩から離れると背中をゆっくりと擦っていく。背骨にそってゆるく動いて行く手に、ロイの口から満足そうなため息が零れた。 「う…ん…」 その途端、ぎくりと動きを止めたハボックに、ロイは即座に言った。 「止まるなよ」 「は、はいっ」 ぎこちなく動きを再開した手が背中を擦り腰の辺りまで来た時、ロイは薄っすらと目をあけてハボックを見上げた。 「ん…キモチいい…」 その瞬間。 ロイの脇に片膝をついて立っていたハボックが音がしそうなほど物凄い勢いで飛び退ったと思うと。 「すんませんっ!これ以上できませんっっ!!」 そう叫ぶと同時に執務室から飛び出していってしまう。ロイはびっくりして半身を起こしてハボックが飛び出して行った扉を見つめていたが、ちっと舌打ちするとソファーから脚を下ろした。 「ったく、甲斐性なしめ」 ロイは不満そうにそう呟くと肩をまわす。あの大きな手のひらが抱きしめてくれることを多少なりと期待していたのに。 「色気が足りなかったか…?」 ロイはそう呟くと立ち上がって窓に映る自分の姿を見る。そうして、ハボックをその気にさせるにはどの程度の色気があればいいのかと、真剣に考えるのだった。 2007/1/8 |