act.30 jealousy


『よう、ロイ。結局ワンコのヤツ、俺んとこくることになったらしいな』
「ヒューズ
 受話器から聞こえてくる脳天気な声にロイは顔をしかめる。なにも答えないロイに構わずヒューズは続けた。
『まあ、俺としちゃ助かるけどな。お前が使わねぇって言うなら俺がありがたく使わせて貰うわ』
 受話器の向こうのヒューズの声が妙に楽しげに聞こえてロイの眉間の皺が深くなる。
『ワンコならよく知ってる相手だからな、こっち来たらバリバリ働いて貰えるだろうし』
よく知ってるってハボックの何を知ってるって言うんだ?ろくに知りもしないだろう?」
 楽しげなヒューズにロイは低い声で聞いた。
『知ってるさ。しょっちゅうそっちで顔合わせてたんだからよ。ワンコならこっちの連中にもすぐ馴染むだろうし、使い勝手もいいし』
「アイツはそう使い勝手が言い訳じゃないぞ。愛想のいい顔をしていながら結構気むずかしいところもあるし、上司を上司とも思えない扱いをするし、勤務態度は悪いし、煙草臭いしっ」
『ははは、そんなの前から判ってるって。俺ならお前よりきっと上手くアイツを扱えるぜ、ロイ』
「でもっ、ハボックはっ」
 ロイは尚もハボックの欠点を並べ立てようとしたが、ヒューズがあっさり切って捨てた。
『ま、心配すんな、ロイ。ワンコの事は俺に任せておけ。できるだけ早く寄越せよ。じゃあな』
「あ、おいっ、ヒューズ!」
 引き留めようとするロイの声には耳を貸さず、ヒューズはガチャリと電話を切ってしまう。暫くの間ロイは、むなしく発信音だけを響かせる受話器を握りしめていたがやがてゆっくりとフックに戻した。そうしてギュッと自分の体を抱きしめると机に突っ伏す。
「イヤだ
 食いしばった歯の隙間から呻くような声が零れた。
「イヤだ、イヤだ、ハボックをヒューズのところに行かせるなんて、誰かに渡すなんてっ」
 自分の手の届かないところに行かせるくらいならいっそ燃やしてしまいたい。
『意地張ってると大事なものなくすぜ』
 いつかのヒューズの声が思い出されて。
 ロイは唇を噛みしめるとガタンと乱暴に立ち上がり、執務室を飛び出していった。


2009/01/22