act.34 happyend?


「ハボック!」
 呼ぶ声に振り向けばロイがその黒い瞳を怒りに輝かせて立っていた。全身を包むオーラがロイの細い体を何倍にも大きく見せて、ハボックはその怒りが自分に向けられているにもかかわらず、綺麗だと思ってしまう。
(あの焔を守るためなら何だってするから)
 だから、オレをどこにもやらないで。
 そう心の中で願ってハボックは一つ瞬きするとロイをまっすぐに見た。
「大佐」
 そう呼んで一歩近づけばロイがピクリと震える。それに構わずロイの傍まで歩み寄ると黒曜石の瞳を見つめた。
「大佐、それ、人事から持ってきた書類っスよね?返して貰えます?」
 言って差し出した手をロイは見つめ、それからハボックを見る。書類を握り締めたままハボックを見つめて言った。
「返したらどうする気だ?一刻も早く処理して貰ってヒューズのところに行くのか?」
 そう聞かれてハボックは苦笑する。自分が手に持っていた護衛官候補の書類に目をやって言った。
「アンタに疎まれてるって判って、オレはアンタの傍にいちゃいけないんだって思ったっス。だからせめてヒューズ中佐のとこで遠くからでもアンタの力になれたらって思った。でもこの書類見たら……アンタの背中、他の奴に任せるのかと思ったらたまんなくて……ッ」
 呻くように言って書類を握り締めるハボックにロイは眉を寄せる。
「待て。私がお前を疎んでるとはどう言う事だ?誰かがお前にそう言ったのか?」
「は?何言ってるんスか。アンタが言ったんでしょう?オレの事が嫌いだって」
「いつっ?いつ私がそんなことを言ったッ!」
 言った言葉に噛みつくように返された上、グッと胸倉を掴まれてハボックは目を丸くする。ロイはまあるく見開かれた空色の瞳を睨んで怒鳴った。
「いつどこで私がお前を疎んでると言ったッ?お前の方こそこんな、異動申請書出して!そんなに私の傍にいるのがイヤなのかッ?!」
「んな訳ねぇでしょッ!オレだってずっとアンタの傍にいたい!でも、アンタがオレを嫌いだって言───」
「だからいつ、どこでだッ!私はそんな事一言だって言ってないぞっ」
 言い返せば更に大きな声で怒鳴り返されてハボックは口を噤んだ。いつ、どこでと繰り返し尋ねられて、ハボックは首を捻る。正直言われた内容の衝撃が大きすぎて、いつどこで聞いたのかなど忘れてしまった。きつい瞳で睨まれて、冷や汗を垂らしながら記憶を掘り起こしていたハボックは「あ」と声を上げて手を叩いた。
「思い出したっス。ほら、アンタがサボって中庭で寝てた時、起こしにいったら『嫌いだ、お前なんて…』って言ったんスよ」
 その言葉にロイの抜群の記憶力がダーッと記憶を遡りハボックが告げたシーンを捜し当てる。
「あの……たいさ…?」
 俯いて考えを巡らせていた様子のロイがふるふると震えるのを見てハボックが心配そうに声をかける。その途端。
「馬鹿ーーーーーーッッ!!」
 顔を上げたロイが思いっきり怒鳴った。


2009/10/21