act.21 dream2


「あ、やっぱりいたいた」
 ハボックはそう呟くと中庭の木の根元の陽だまりで昼寝をしているロイに駆け寄っていく。起こそうとして覗き込んだロイの眉間に刻まれた皺に気づいて眉を寄せた。
「なんでこんな辛そうな顔して…」
 普段、眠っているロイの顔は大抵においてとても穏やかで幸せそうだ。勿論疲労が堪っている時などは疲れた顔をして眠っているときもあるが、それでもこんな辛そうな顔で眠っていることなど見たことがなかった。
「よっぽど嫌な夢でも見てるのかな」
 ハボックはロイにはいつでも幸せな夢を見て眠って欲しいと思っている。現実では山ほどの重荷を抱えてそれでも不敵に笑ってみせるロイが、ハボックにはとてつもなく愛しくて大切で少しでもその荷物を肩代わりできたらと考えている。だが、実際にはしがない少尉でしかない自分には代わりにできることなど本当に僅かしかなく、それならばせめて安らかで幸せな眠りを与えてあげたいと思うわけで。それは暖かな陽だまりであったり、清潔なシーツであったりそんなものでしかなかったが、それでもハボックは出来る限りの事をしてあげたいと思っているのだ。
「そんな顔して寝ないでくださいよ…」
 そう言ってハボックがロイの眉間の皺を伸ばそうと手を差し伸べた時、ロイの唇が動いて言葉が零れた。
「ハボ…嫌いだ、お前なんて…」
「…え?」
 眠っている人の唇から零れたそれは、眠っているからこそ心の奥底を表しているように思えて。
 ハボックは何も言えぬまま差し伸べた手をゆっくりと引き戻した。

「あっ、いたっ!マスタング大佐っ、探しましたよっ!!」
 ゆさゆさと揺さぶられて目を開ければ困ったような呆れたような顔をしたフュリーが見下ろしていた。
「こんなとこで寝てないでくださいよ、中尉、カンカンですよ?」
 そう言うフュリーをロイは瞬きして見つめる。ポツリと呟くように聞いた。
「ハボックは?」
 いつもならこんな時自分を探しに来るのはハボックの役目だ。
「少尉ならこの間の爆発事故の現場で撤去作業してますよ」
「私を探しに来ないで?」
「時間がないから僕に探してきてくれって言って出かけたんです。そんなことより、早くしてくださいっ!僕まで中尉に怒られちゃいます!」
 フュリーに急かされてのろのろと立ち上がりながらロイは呆然としていた。
(いつもなら時間なんて気にしないで探しに来てくれるのに)
『もう、大佐のせいでまた遅刻っスよ。どうしてくれるんスか』
 そう文句を言いながらもいつも優しく笑って引き起こしてくれるのだ。それなのに。
(どうして?)
 司令室に向かって機械的に歩きながら、ロイは完全に混乱していたのだった。


2007/11/9