act.20 dream



 ハボックは夢を見ていた。
 ハボックの前には誰よりも大切で誰よりも大好きな黒髪の麗人が立っている。
「たいさ」
 そう呼べば彼はハボックをまっすぐに見つめてきた。ハボックも負けじとまっすぐに彼の顔を見つめる。そうして。
「たいさ。オレ、たいさのことが…」
 好き。
 そう囁くように言えば、黒曜石の瞳がまん丸に見開かれて、それから嬉しそうにふわりと微笑んだ。腕を伸ばせば彼も同じように腕を差し伸べハボックの手を取る。優しく抱きこんだ腕の中で彼は嬉しそうに微笑んでハボックを見上げた。そんな彼にハボックも微笑み返す。
 ハボックは幸せだった。そしてそれと同じくらい悲しかった。なぜならハボックはそれが夢だと知っていたから。こんな事はあり得ないと知っていたから、ハボックは幸せで悲しかった。とてもとても幸せでとてもとても悲しかった。

 フッと目を覚ましたハボックは一瞬ここがどこなのかわからなかった。きょろきょろとあたりを見回し、自分が上半身を預けて転寝していたベッドの上でロイが横たわっている事に気づいてようやく、ロイを送ってここまで来たことを思い出す。ハボックはパチパチと数度瞬くと、ゆっくりと立ち上がった。ロイはブランケットに半ば顔を埋めるようにして眠っている。ハボックはそんなロイを見つめてため息をついた。
「所詮高嶺の花だよなぁ…」
 ハボックは夢の中のロイを思い出してもう一度ため息をつく。そうしてロイの髪に触れようとした手を止めると、ブランケットを整えてやり、おやすみなさいと囁いた。静かに部屋を出て行くハボックは、ロイの瞳から涙が零れ落ちたのを気がつきはしなかった。


2007/6/25