act.33  denouement 2


「なあっ、オレの申請書、どこッ?!」
「ええっ?」
 ドドドと凄い音と共に走って来たハボックにいきなりそう詰め寄られて事務職の女性が竦みあがる。両手を唇に当て、目を大きく開いたまま凍りついている女性の肩を掴んでハボックは言った。
「ねぇ、聞いてるっ?!オレのセントラルへの異動申請書!まさかもう処理しちまったとか言うんじゃないよねッ?!」
 ゆさゆさと力任せに揺さぶられて女性は失神寸前だ。目を剥いてひっくり返りそうなその女性を、同僚の女性がハボックの腕から奪い取って言った。
「その書類ならつい今しがたマスタング大佐が持っていかれましたっ」
「大佐が?なんで?」
「知りませんッ、もういい加減にしてください!さっきから一体なんなんですかッ!」
 キッと睨んでくる瞳に気圧されてハボックが部屋の中を見回せば、部屋中の人が責めるようにハボックを見ている。ハボックは浅い呼吸を繰り返すと「ごめん」と呟いて部屋を飛び出した。
「大佐が持っていったって……なんで?」
 少しでも早く処理をして自分をここから追い出すつもりなのだろうか。そこまで嫌われているのかと思えば、みっともなくも泣き出しそうになったが、ハボックは唇をギュッと噛み締めて滲む涙を手の甲で乱暴に拭った。
「嫌われてたって構うもんかっ、大佐の背中を守るのはオレだッ!」
 例えどれ程嫌われていたって構わない。どんなに疎まれていようと、ロイの背中を誰かに任せるくらいならいっそ彼の焔で燃やされた方がましだ。ハボックはそう考えながら司令部の廊下を駆けていく。
「くそっ、大佐、どこだよッ」
 ロイを見つけて書類を取り戻さなくては。廊下を走りぬけたハボックは扉を抜けて中庭へと出た。ハアハアと息を弾ませながらハボックが辺りを見回した時。
「ハボックっ!」
 呼ぶ声に振り向けば、書類を握り締めたロイがその黒い瞳を怒りに燃え上がらせてハボックを睨んでいた。


2009/09/10