| act.6 cigarette |
| ロイは書類を書く手を止めて、執務室のソファーでロイの書き上げた書類を整理するハボックを見つめた。鼻歌交じりに書類を束ねていくハボックの唇にはトレードマークとなっている煙草が挟まっている。 「……」 ロイは小さく息を吐くとハボックの形の良い唇を見つめる。ロイはハボックの唇が好きだった。厚すぎもせず、薄すぎもせず、その端は彼の気さくな性格を現すかのように僅かに上に弧を描いている。いつも咥えている煙草の代わりに自分の唇にハボックのソレが触れてくれたら、一体どんな気分になるのだろう。 ロイはそんなことを考えながら黙ったままハボックを見つめていた。その時、ハボックがロイを見上げて口を開いた。 「なんスか、大佐。オレの顔に何か付いてます?」 そう聞かれても、ロイは半ばぼうっとしていてすぐには反応できなかった。煙草を咥えたまま器用に喋る唇を見つめ続けていると、ハボックが不思議そうに首を傾げる。 「たいさ?」 その声に、流石にハッとなったロイは目をパチパチと数度瞬かせた。それからハボックの唇から視線を外すとハボックの顔をまじまじと見つめる。そうして、ぽつりと呟いた。 「煙草…」 「はい?」 「お前が吸ってる煙草」 「はい」 「旨いのか?」 「そっスね。オレは好きですけど」 何を突然言い出したのか、不思議に思いながらもハボックは律儀に答えた。ロイはハボックの答えに少し考えるように手を唇に当てていたが徐に口を開いた。 「味見させてくれ」 「へ?別にいいっスけど」 ハボックはそう言うと立ち上がりながらポケットから煙草の箱を取り出した。ロイに差し出そうと机の方へ歩きだす前に近づいてきたロイに向かって、軽く箱の底を叩くと取りやすいように煙草を出した。 「どうぞ」 そう言ってロイの前に箱を差し出すが、ロイはその箱をじっと見つめたまま動かなかった。 「あの…?」 いい加減困ったハボックがどうしたものかと思い始めた頃になって、ロイはつと手を伸ばすとハボックが咥えていた煙草を取り上げた。そうしてそれを自分の口元へ持っていくと吸い上げる。 「…ふ」 ロイはゆっくりと煙を吐き出すと、立ち上っていくそれを見つめながら言った。 「結構きついな」 そう言って煙の行方を目で追うロイにつられてハボックもその流れを見つめる。 「私にはきつすぎるな」 ロイはそう言うと、煙を目で追うハボックの唇に煙草を戻した。そうして机に戻るとペンを持って書類を書き始める。ロイがペンを走らせる音だけが響く執務室の中で、ハボックは煙草を差し出した手を下げることも忘れて、呆然と立ち尽くしていた。ロイが咥えた煙草が今、自分の唇の間にある。なんだかさっきよりしっとりと濡れているように感じるのは気のせいだろうか。そんなことを考えた瞬間、ハボックの顔がボッと火がついたように赤くなった。そうして、よろよろと執務室の扉へ向けて歩き出す。 「ハボック?」 突然言葉もなく覚束ない足取りで歩き出したハボックをロイは怪訝そうに見つめた。だが、ハボックは返事もせずに執務室から出るとパタンと扉を閉じた。訳がわからずポカンと扉を見つめるロイの耳にブレダの叫びが聞こえる。 「わあっ、ハボックっ?!どうしたっ、すげぇ鼻血だぞっ!!」 「少尉っ!ちょっと、ティッシュ、ティッシュ!!上着に垂れてますっ!」 なんだか大騒ぎになっている扉の向こうに、ロイは訳がわからず首を傾げるのだった。 2007/1/13 |