act.17 blossom

「何やってるんスか、アンタ」
 ロイを探しにやってきたハボックは、頭上の大きな桜の木の枝に必死にしがみ付くロイを見つけて呆れた声をあげた。
「見ればわかるだろう?」
 苦しげに、でも偉そうに答えるロイにハボックは眉を顰める。
「判らないから聞いてるんです」
 そう言われてロイはしぶしぶと答えた。
「下りられなくなった…」
「はあっ?」
 ハボックはますます呆れた表情でロイを見る。自分の体を必死に揺すりあげるロイに、ハボックが言った。
「つか、どうやってソコまで登ったんです?」
「あっちの木の枝から伝ってきた」
 言われてハボックは隣合う桜の木に目をやる。確かにあちらの木なら下のほうまで枝が張り出していて登るのに容易そうだ。それにしても枝を伝ってきたなんて、折れたり手を滑らせたりしたらどうするつもりだったんだと、ハボックは眩暈を覚える。
「ハボ…腕が痛くなってきた…」
 ロイの声にハッとして顔を上げれば、さっきよりロイの腕が枝から離れているように見えた。
「ちょっと待って!」
 どうしたものかと思ったが、ハボックはロイの下に回ると手を伸ばす。
「受け止めますから、なるべくゆっくり下りてきてください」
「でも…」
 そう言われてロイは不安そうにハボックを見た。だが、そろそろ腕が限界なのも確かだ。ロイは脚を枝から離すと腕だけの力で必死に枝にしがみつく。ハボックが下から腕を伸ばすと、ちょうどロイの膝のあたりに手が届いた。
「大佐、出来ればもう少し、腕のばして」
「ム、ムリっ!」
 そんな、懸垂のような形で体を下ろしていくなんて、お前じゃあるまいし、と悪態をつこうと思った瞬間。
「あっ!!」
 ロイの手が枝から滑った。
「うわあっ!」
「たいさっ!!」
 慌てて伸ばした腕の中に花びらと一緒にロイが降ってくる。流石に支えきれずに尻餅をついたハボックの鼻を甘い匂いが掠めた。
(あ、いい匂い…)
 そう思って、思わず背後から抱きかかえた腕の中の人の髪に顔を埋めてしまったハボックは、遠慮がちに名を呼ばれてガバリと顔を上げた。
「わわっ!すっ、すみませんっっ!!」
 慌てて腕を離すと飛び退る。肩越しに振り返るロイにハボックはドキドキしながら叫んだ。
「けっ、怪我、ないっスねっ?!じゃ、オレ先に行ってますんでっ!!」
 それだけ言うとあっという間に駆け去ってしまう。ロイはそんなハボックをびっくりして見送って、チッと舌を鳴らした。
「ハボックの方を向いて落ちればよかった…」
 そうすれば自分からも抱きつけたのに。今の感じならキスの一つも出来たかもしれない。
「もう…、ハボックのバカ…っ!」
 ロイはそう呟くとゴロリと寝転び、頭上の桜を見上げたのだった。

2007/4/13