act.36  All's right with the world!


「オレの言うこと、嫌だったら燃やしてくれていいっスから」
 散々に気持ちを掻き乱され、耐えきれずに抱えてきた想いをぶつけたものの、肝心の最後の一言が口に出来ず言葉は涙になってロイの黒曜石の瞳から溢れ出る。そうすれば、宥めるように抱き締めてきたハボックが口にした言葉にロイはハボックを見上げた。今までに見たことのないほど真剣な色をたたえる空色にロイは僅かに目を瞠る。次の瞬間、ハボックの唇から零れた言葉に息が止まりそうになった。
「オレ、ずっと前から大佐の事」
 そこまで言ってハボックは一度言葉を切る。空色の瞳の中に様々な感情を読みとったロイは縋るようにハボックを見つめた。
(早く……早く言ってくれ、ハボック…ッ)
 言い淀んでゴクリと唾を飲み込むハボックにロイは叫び出したくなる。続く言葉が99パーセントロイの望む通りのものだと確信していても、残りの1パーセントを早く打ち消して欲しくてロイは苛々と目を吊り上げた。
「オレ、ずっと前から大佐の事ッ」
 黙ってしまった事で言いづらくなったのか、ハボックはもう一度同じ言葉を繰り返す。
(そこはいいからさっさと先を言えーーーッ!!)
 焦れったいハボックの態度に元々あまり太くないロイの堪忍袋の緒が切れそうになった時、ハボックが一度ギュッと目を瞑ってから口を開いた。
「大佐の事がずっと好」
 ハボックの唇から零れる言葉にロイの瞳が喜びに見開かれ、ハボックが言い終えるのと同時にその広い胸に飛び込もうとロイがグッと手に力を込めたその時。
「よぉ、お二人さんッ!!遂に両想いになったってか?いやぁ、めでたい!」
 能天気な声がハボックの告白の言葉に被さる。ハボックの胸に飛び込むタイミングを逸したロイがゆっくりと振り向けば、そこには満面の笑みを浮かべたヒューズが立っていた。
「ヒューズっ?お前、どうしてここにっ?!」
「いやね、リザちゃんからお前らが両想いのくせして片意地張って妙な事になってるって相談受けてさ、ここは俺が親友の為に一肌脱いでやらんといかんと思ってな」
「でも、お前、さっき電話で……」
 ハボックをヒューズのところに行かせるなんて絶対に嫌だと思ったからこそ、今この事態となったのだ。セントラルにいたのでは、と混乱するロイにヒューズはゲラゲラと笑って言った。
「ああ、ありゃ東方司令部の中からかけたんだよ。やっぱ直接どうなったか確かめたいだろ?」
 そう言えば呆気にとられる二人をヒューズは見比べる。
「でも、上手くいったんだろ?もうキスくらいしたかっ?あっ、もしかして俺、早く来すぎちまったか?俺に構わずキスしていいぜっ!」
 ほらほら、とけしかけるヒューズに、驚きに丸くなっていたロイの瞳がキッと吊り上がった。
「ヒューズ、きさまぁ〜〜〜ッッ!!!」
「えっ?なにっ?なんで怒ってんの、ロイ?」
 ハボックの腕の中からもの凄い目つきで睨んでくるロイにヒューズは目を丸くする。感謝されこそすれいきなり凄まれて、眼鏡の奥の瞳をパチクリとさせるヒューズにロイは手を突き出した。
「燃やすッ!!」
「えっ?!なんでっ?ロイちゃんっ」
 突然の消し炭宣言に飛び上がるヒューズに向けて指をすり合わせようとしたロイは、頭上から聞こえてきた笑い声にハボックを振り仰ぐ。おかしそうにクックッと喉を鳴らしているハボックにロイはムッとして言った。
「笑ってる場合じゃないだろうッ!!」
 ヒューズの乱入のおかげで告白は尻切れトンボになり、ロイも自分の気持ちを伝え切れていない。漸く本当の両想いになれる筈がと、怒りとショックで涙ぐむ黒曜石の瞳にハボックが言った。
「まあ、オレたちならこんなもんでしょ」
「ハボック!」
 こんなもので片づけられたら、またうやむやになってしまう。それともはっきりさせない方がいいと思っているのだろうかと、ロイが顔を歪めればハボックが言った。
「大佐、今夜二人で飲みに行きましょう。その時、ちゃんと言うっスから」
 そう言って笑うハボックにロイが目を見開く。
「……本当だな?」
「はい。その代わり大佐の気持ちもちゃんと聞かせてくださいね?」
 言われて「ウッ」と詰まったものの「わ、判った」とボソリと呟くロイにハボックが笑った。
「たいさ」
 そう呼んでギュッと手を握ってくるハボックに真っ赤な顔でちょっとだけ握り返して、ロイは逃げるようにハボックの側を離れる。
「ヒューズ!お前と言う奴は昔からッ!」
「えーっ!なんで怒るんだよ、俺のおかげで上手くいったんだろっ?あ、キスの邪魔したから怒ってんのか?ロイ」
「…ッッ!!うるさい、うるさい、うるさいッッ!!」
 ロイの焔から逃げながらも楽しそうにからかうのをやめないヒューズと真っ赤になって追い回すロイを、見ながらハボックは煙草に火をつける。ふぅと吐き出す煙が立ち上っていくのを見上げて、ハボックは幸せそうに笑ったのだった。


2010/05/27