only you extra



「おはよう、ブレダ少尉」
 オレが司令室の扉を開けると、そこには非のうちどころのない程整った上司の綺麗な笑顔が待っていた。満面の笑みを浮かべたその顔の中の漆黒の瞳だけが笑っていない。この上司がこんな顔をして笑っている時、それは絶対オレにとっては120%厄日の幕開けになること間違いなしだ。
(ちくしょう、またハボックのヤツ、なにかやらかしやがったな)
 オレは今日はまだ出勤して来ていない同僚の席をちらりと眺めた。大佐がこうやってオレに絡んでくる時は絶対ハボック絡みだ。全く、今度は何なんだ。いい加減オレを巻き込むのはやめてくれと大声で叫びたかったが、その言葉をぐっと飲み込んで、オレは目の前の上司に引きつった笑みを返した。
「おはようございます、大佐」
 出来れば係わりたくなくてそそくさと席に着こうとすれば、さり気なく大佐がオレの前に立ちはだかった。仕方なく、何か、と視線で問いかければ大佐が口を開いた。
「君はハボック少尉の幼馴染だそうだが」
「はぁ、ガキの時からの付き合いですが」
 それが何か、と聞けば、大佐がその整った顔をずいとオレに近づけてきた。
「ハボック少尉のことをいろいろ知っているようだが」
 そう言う大佐の瞳が物騒な色をたたえている。オレは思わずぶんぶんと首を振った。
「いや、確かにガキの時分から知ってますが、そんなに付き合いはなかったというか…」
「ハボックの家に一緒に並んで写ってる写真があった」
 『一緒に並んで』というところだけ妙に強調して発音されているように思うのは決して気のせいではないだろう。ハボック、お前、なんでそんな写真、置いとくんだよ。っていうか、そんなガキのころのことで責められてもと、何とか言いぬけようと考えを巡らせていると、
「あまつさえハボックにキスしようとしたとか」
「はぁぁっっ??!」
 ちょっと待て、一体何の話だ?何でオレがハボックにキスしようとしたなんてことになってるんだ?ハボック、お前、何言ったんだよ?!
 身に覚えのないことで責められてオレはすっかりパニックに陥っていた。そんなオレに大佐がニッコリと微笑んだ。
「確かにハボックは小さい時から可愛かった。しかし、同意がないのにそういう行為を迫るのは問題があると思うのだが」
 いや、だから記憶にありません、何かの間違いですと、わたわたと説明するオレの言葉なんてまるで聞く耳を持たずに。
 大佐は最上級の笑みを浮かべると、徐に胸ポケットから火蜥蜴の紋様のついた手袋を取り出すと、手に嵌めた。
「ブレダ少尉。もう2度とそういう事をする気にならないようにしてあげよう」
 だからしてないって!オレの話を聞いてくれ!
 オレの言うことなんてまるで耳に入っていない大佐は楽しそうにオレの前に手をかざすと指をすり合わせる。目の前で綺麗な焔が巻き上がるのを見てオレは思った。
 ――― 頼むからいい加減オレを巻き込むのはやめてくれ!


「あれ、ブレダ、なんで焦げてんの?」
 間の抜けた声がしてブレダは目を開けた。煙草をくわえたハボックが不思議そうに見下ろしている。
「まぁた、大佐のこと怒らせたんだろう。ダメだぜ、気をつけないと」
「…おめぇに言われたかねぇよっ!」
 ブレダは煤けた顔でハボックに怒鳴りつけるとどすどすと怒りも露わに廊下へと出て行く。後に残されたハボックはきょとんとしてその後姿を見送っていた。


2006/6/22


「次の日ブレちゃんは無事なんでしょうか。ミディアムレアぐらいにされてそうな」とnekoさまにご感想頂きましたので、ちょびっと書いてみてしまったり…。nekoさま、おいしい一言をありがとうございました。