| mission3 後編 |
| パーティ会場の一画を後にすると、ハボックはもと来た道を戻っていった。無事、最初にこのフロアに入り込んだエレベーターホールまでたどり着くと、点検口を開いて中へと体を滑り込ませる。梁の上にしゃがみ込んだハボックは、ふと上を見上げると呟いた。 「なんか気になるんだよなぁ…」 ハボックは暫く逡巡していたが、意を決したように一つ頷くと、上の梁めがけてワイヤーを投げ上げた。 10数回ワイヤーを投げてはそれを伝って体を引き上げるという作業を繰り返して、ハボックがたどりついた梁の横には「13」と記された扉があった。 「あたり…かな」 ハボックはそう呟くとそっと点検口のパネルをすかせた。辺りに目を走らせて人影がないのを確認すると、薄暗い廊下へと足を下ろした。時々聞こえる足音に物影に身を潜めては先へと進んでいく。ある扉の前に立ったとき、首筋をチリと走ったものにハボックはノブに手をかけると、そっと扉を押し開けた。 コポコポコポ…。 暗い部屋の中でハボックの胴体ほどの太さのガラス状の筒が、妖しい光を放ちながら幾つも並んでいた。その中の液体の中に沢山の泡に囲まれて浮かんでいたもの、それは。 グロテスクな姿をした数体のキメラだった。ハボックは筒に近づくとガラスに額をつけるようにして中を覗き込む。 「生きて…るんだよな」 ハボックは唇を噛み締めると筒の周囲を探る。そうしてバルブのようなものを探し当てると一瞬ためらった後、ぐっとバルブを回した。ハボックがバルブを閉めて少しすると、キメラの周りに渦巻いていた泡が消える。バシャンと音がして中に浮かんだキメラが目を見開いたのに気が付いたハボックは、慌てて数歩筒から離れた。筒を破ってキメラが出てくるのではと恐れるハボックの予想に反して、キメラはゴボゴボと口からあぶくを吐き出しながらもがいていたが、やがて動かなくなった。ハボックはしばらくキメラの様子を伺っていたが、どうやら死んでしまったようだと判ると次々と他の筒のバルブも閉めて回る。それからハボックは近くの机の上においてあった書類をがさがさとかき回し、中の数枚を折りたたむと胸のポケットにしまいこんだ。その時。 ガシャンと大きな音を立てて筒の一つが倒れた。ハッとして振り向いたハボックの目に水を滴らせながら立ち上がるキメラの姿が飛び込んでくる。 「げ、死んでなかったのか」 ハボックはそう呟きながら銃を取り出すと、甲殻類と猿をあわせたようなキメラに向かって狙いを定めた。グギギと嫌な音を出しながらハボックに向けて腕を振り上げるキメラに、ハボックは数発弾丸を撃ち込む。だが。キンと音を立てて弾を弾いたキメラにハボックはちっと舌を鳴らした。 「その殻は鎧かよ」 ハボックは体を投げ出すようにしてキメラの攻撃をかわすと、銃をしまい足首からナイフを取り出した。狭い部屋の中でじりじりと互いに距離を測りながら隙をうかがう。足元に零れた水につるりとハボックが足を滑らせた時、キメラはそのでかい体に似合わぬ素早さでハボックに飛び掛ってきた。 「っ!」 ハボックは滑った体を支えるようについた手を軸に体を回転させると、飛び掛ってきたキメラを蹴りつける。僅かに傾いだキメラの懐に入り込むように身を寄せると、ハボックはキメラの体を覆う殻と殻の隙間にナイフを突き立てた。自分に噴きかかるキメラの体液に構わず、力任せにねじ込んだナイフを横に引く。ぎゃあと断末魔の叫びを上げるキメラの側から飛び跳ねるようにしてハボックが身を離すと同時にキメラの体がどうと倒れこんだ。びくびくと震えるキメラの体を見つめながらハボックが息を整えようとしていると、廊下をバタバタと走る音が響いてきた。 「何をしているっ?!」 部屋の扉が勢いよく開いて、数人の男達が中へと飛び込んでくる。ハボックは答える代わりに一番近くにいた男の腹を思い切り蹴りつけた。蹴られた男がその勢いのまま後ろに立つ数人を巻き込んで倒れる。ハボックはそれには目もくれずに部屋を飛び出すと、廊下を走り抜けた。 「待てっ!!」 いくつもの怒声が聞こえる中、ハボックは何事かと顔を出す男どもを殴り飛ばすとエレベーターホールへと向かう。後少しでたどり着くというところで、縦も横もハボックにふた回りは大きいと思われる男がハボックの行く手を塞いだ。 「ここまでだっ!」 男は大声で吼えるとハボックへと掴みかかってくる。ハボックはすんでのところで身をかわすと、男に向かって脚を蹴り上げた。ハボックの脚は見事に男のこめかみにヒットしたが。 男はニヤリと笑うと自分のこめかみに当たったハボックの脚を引っつかんだ。そのまま足首を掴んだ男はハボックの体を振り回し、壁へと投げつける。ダンッと凄まじい音もろとも壁に叩きつけられたハボックは、一瞬息が止まった体を懸命に引き起こした。 「くっそ、バケモンめ…」 唇の端を流れる血を乱暴に手の甲で拭うと、ハボックは男を睨みつける。ニヤニヤと笑う男との距離を測るハボックの視界に消火器が飛び込んできた。次の瞬間、伸びてくる男の腕をかわして消火器を引っつかむと、ハボックは栓を引き抜き消火器のホースを男に向けた。 シュババババッッ!! ホースの口から男の顔めがけて消化剤が降り注ぐ。ぎゃあと悲鳴をあげて顔を押さえる男に消火器を投げつけると、ハボックはうずくまる男の脇をすり抜けてエレベーターホールへと走り抜けていった。 貿易商のもとへ何やら穏やかならぬ様子の男達がやってきて耳打ちするのを見て、ロイは眉をひそめた。 (アイツ、何をやらかしたんだ?) チップは取り返したのだから、後は建物から出るだけだ。それ位、目を瞑ってでもやってのけそうなハボックが騒ぎの原因だと見当をつけたロイは、気遣うような表情を浮かべて貿易商へと近づいていった。 「夫人を襲った不届き者が見つかりましたか?」 ロイの声に貿易商はハッとして振り向いたが、すぐに愛想笑いをその顔に浮かべる。 「先程はありがとうございました。大佐がいらっしゃらなかったらブローチを奪われるところでした」 夫人の身の安全より、ブローチのことを口にする貿易商にロイは肩をすくめる。ハボックが去った後、ロイは気を失った夫人を起こすと、ブローチを奪おうとした男は自分が追い払い、ブローチも無事だと告げだのだった。ロイに助けられたと思った夫人は感激も一しおだったが、流石にショックは隠しきれずに部屋へと下がって休んでいるところだ。 貿易商は口を開くと言いにくそうにロイに言った。 「せっかくお招きしておいて申し訳ないのですが」 パーティをお開きにしたいと告げる貿易商にロイはワザとらしく残念そうな顔をしたがパーティに招待してくれた事への礼と、夫人を気遣う言葉を口にする。そうして、ロイは足早にパーティ会場を後にしたのだった。 警備兵の運転する車に乗り込んでホテルを出たロイは、数ブロック走ったところで車を止めるよう指示する。車が止まったと同時にドアが開いて滑り込んできた黒い影にロイは口を開いた。 「何をしてたんだ、お前は」 責めるようなロイの口調にハボックは不満そうな声で答える。 「第一声でそれをいいますか?」 まずは労ってくれてもいいじゃないっスか、とぼやくハボックにロイは先をせかした。 「詳しくはここじゃなんなんで、とりあえずコレ」 ハボックはそう言うと、胸ポケットから取り出した数枚の紙をロイに渡した。 「…?」 ガサガサと小さく畳んだ紙を広げてその内容に目を走らせたロイが小さく息を呑むのを、ハボックは満足そうに見つめる。 「妙に羽振りがいいと思ったんだ。とんでもないものを『貿易』してたってことか」 そう言うロイにハボックはにっこりと笑う。 「特別手当、期待してますんで」 「やるならもう少しスマートにやれ」 ロイの言葉にひでぇとぼやくハボックにロイはくすくすと笑うのだった。 2007/1/4 |
33000打リク、ルィンさまより「ジャクロイでアクションもの」でした。久しぶりにジャク書いたらなんだか勝手判らなくてまいりました(汗)なんだかすっかり地味な話になってしまい、自分でもすごーく書き足りない気分ですー。長らくお待たせした挙句アクションものにしては物足りない話になってしまい、ルィンさま、ごめんなさいです〜(滝汗)こんなので宜しければルィンさまに限りお持ち帰り自由ですので…勿論返品可でございます。 |