chapter 8


「大佐、大丈夫っスか?」
 ハボックは執務室で書類にペンを走らせるロイにコーヒーを差し出しながら聞いた。ハボックの声に顔をあげたロイの目の下にはりっぱな隈が刻まれている。
「ああ、ここのところ寝不足でな」
「忙しかったですもんね」
 テロ事件やら銀行強盗やら次から次へと休む間もなく事件が続き、それが終われば事件の所為で溜まった書類に振り回される。いくら体力自慢の軍人とは言え、限界はあるというものだ。
「せっかくのいい男が台無しっスよ」
 冷たいタオルでも持ってきましょうか、と言うハボックを見つめてロイが答える。
「5分でいい、仮眠したい」
「仮眠室、空いてるか見てきますね」
 そう言って出て行こうとするハボックの腕をロイは咄嗟に掴んだ。
「たいさ?」
 驚いて振り向くハボックにロイは薄っすらと笑うと言った。
「そこのソファーでいいから。膝を貸してくれ」
「…はい?」
 訳がわからず空色の目をパチクリとさせるハボックを可愛いなどと思いつつ、そんなことはおくびにも出さずロイは掴んだハボックの腕を引いてソファーまで導く。
「えと…たいさ?」
 トンと、ハボックの胸をついてソファに座らせると、ぽかんとして見上げてくるハボックににっこりと笑いかけロイはその隣りに腰を下ろした。それから脚をソファーの袖の方へ投げ出すと、ハボックの膝に頭を載せる。
「えっっ?!ちょっ…たいさっ、何してるんスかっ!」
「膝を貸してくれと言ったろう?」
「いや、だってオレの膝なんて硬くて寝にくいだけでしょうがっ!」
 クッション持ってきますと立ち上がろうとするハボックの脚をぐっと押さえつけてロイは言った。
「ハボック、休ませてくれないか?」
 低い声で囁くように言うロイにハボックは動きを止めて目を瞠る。数度瞬くとため息をついてソファーに深く座りなおした。
「後で硬くて眠れなかったなんて言わんでくださいよ?」
「言わないさ。5分たったら起こしてくれ」
「10分たったら起こします」
 ハボックの言葉にロイは僅かに目を見開いて、それから小さな声で言う。
「ありがとう、ハボック」
 そうして目を閉じたロイの唇から規則正しい呼吸が零れてくるのを聞きながら、ハボックはそっとロイの髪を撫ぜた。
「おやすみなさい、たいさ…」
 その声にハボックに背をむけて横たわっていたロイの唇が嬉しそうに綻んだのを、ハボックは気づきはしなかった。


2007/4/14