chapter 6


「ハボック、この書類なんだが」
 執務室から顔を出したロイがそう言えば、ハボックはロイをちらりと見て隣にいたフュリーに耳打ちする。フュリーが2、3度頷くのにその肩を叩くと、ハボックは司令室を出て行ってしまった。
「おい、ハボック!」
 ムッとして声を掛けるロイの側へやってくるとフュリーが口を開いた。
「ハボック少尉は急用があるそうなので、代わりに聞いておいてくれといわれました」
「急用?何の用だ?」
「さあ、ソコまでは聞いてないですけど」
 そう答えて書類を待つフュリーに、ロイは仕方なしに説明を始める。
「判りました、処理しておきます」
「頼む」
 フュリーに書類を渡すとロイは執務室へと入っていった。扉を閉めるとロイはふぅと息を吐いた。今日はまともにハボックと言葉を交わしていない。言葉どころか顔すらちゃんと見ていない気がする。
「避けられてるのか?」
 もしそうだとしても理由が思い浮かばない。昨日、くだらないワガママを言ってハボックをずぶ濡れにした。もしかして呆れて口を聞く気にもならないのかもしれない。ロイは雨にずぶ濡れになったハボックの姿を思い出して熱いため息をついた。
 好きだと思う。欲しくて堪らない。その手を取って強引に抱きしめたらハボックはどんな顔をするだろう。
「くそ…」
 初めてハボックへの気持ちに気づいた時から焦るまいと決めた。少なくともハボックは自分に好意を持っていてくれる。ゆっくりと囲って溶かしていけばいい。そうは思っても、昨日のハボックを思い浮かべれば体の中心が疼き、まともに口も聞いていないと思えば心が沈んでいくのを止められない。
「まるで小娘のようだな」
 ロイがそう呟いて苦笑した時、扉をノックする音がしてブレダが入ってきた。
「大佐。コーヒー持ってきましたよ」
 そう言ってブレダがカップを差し出してくる事に酷い違和感を覚えてロイが聞く。
「ハボックはどうしたんだ?」
「あー、えーっと、一応ハボックの代わりに持ってきたんですけどね」
「ハボックはどこだ?」
 聞かれて困ったように口ごもるブレダを、ロイは睨んで質問を繰り返した。
「ハボックはどこだ、ブレダ少尉」
 ブレダは諦めたようにため息をつくと答える。
「すぐソコの休憩所にいますよ」
 俺が教えたって言わないでくださいね、と言うブレダに適当に答えるとロイは執務室を出た。司令室を抜け一番近い休憩所に向かう。果たしてそこには煙草を燻らすハボックがいた。
「ハボック」
 ロイの声にギョッとして振り向くハボックにロイの胸がツキンと痛む。
「どうして私を避けるんだ」
 ハボックのすぐ隣りに腰を下ろしてその空色の瞳を見つめればハボックが困ったように目を逸らした。
「ハボックっ」
 その仕草にカチンときてロイはハボックの腕を掴む。ぎくりと身を強張らせるハボックに、ロイは腕を掴む手に力を込めるとハボックにグイと近づいた。至近距離に寄られて、ハボックは頬を染めると自由な方の手を振る。
「もう…避けてるわけじゃありませんってば」
 そう言ったハボックの声がものの見事にしわがれている事に、ロイはビックリして目を見開いた。
「お前、声…っ」
 困ったように笑うハボックにロイは言う。
「昨日ので、風邪引いたのか?」
「…って気にすると思ったんスよ」
 ため息をつくハボックの額に伸ばしたロイの手をそっと取ってハボックが笑った。
「声が変なだけで熱も咳もなにもありませんから」
「すまん…」
「大佐が悪いんじゃないでしょ?」
 それなの気にするだろうから喋らないようにしてたのに、とぼやくハボックにロイの胸が熱くなる。
 やっぱり欲しい。
 ソファーから立ち上がって司令室へと歩き出すハボックの後を追いながら、ロイはそう思ってうっすらと笑みを浮かべたのだった。


2007/4/13