chapter 25


 ハボックは屋上の手すりにかけた手にグイと力を込め、身体を持ち上げる。手すりを越えて脚を外へと投げ出すと、細い手すりの上に座った。
「落ちたら痛いだろうな……」
 そんなことを呟いて恐る恐る下を覗き込む。やはり飛び降りる事など出来るはずもなくて、ハボックは自分の意気地なさにため息をつくと懐から煙草を取り出した。箱の底を叩いて飛び出した煙草を咥えようとする。その時、ビュウッと突風が吹いて、グラリと傾いだ体をハボックは慌てて手すりを掴んで支えた。
「あっ」
 慌てた拍子に咥えかけた煙草を落としてしまう。手を伸ばすことも出来ず煙草が落ちていくのを見守ったハボックは、ハアとため息をついた。
「ま、いいか。火、つける前だったし」
 下は確か中庭の筈だ。元々あまり人が出入りする場所でもなかったし、万一誰かいたとしても火のついてない煙草ならどうという事もないだろう。
「あんなとこいるの、あの人くらいだ」
 仕事を抜け出しては中庭の一番風通しがよく、尚且つ人目につかない場所でサボっている上司の姿が浮かんでハボックが顔を歪めた時。
「ハボーーックっっ!!貴様、そこから動くなッッ!!」
 下から聞こえた声にハボックはギョッとしてバランスを崩しかけた。
「えっ、あっ、ウワワッ!!」
 前に飛び出しそうになった体を手すりを掴んで支える。その時チラリと見えた姿にハボックは目を見開いた。
「た、大佐っ?!」
 姿が見えずともあの声を聞き間違う筈もない。
「え?あ…動くなって……、うそっ、ここに来るのっ?!」
 ロイの言葉の意味が漸く脳味噌まで届いてハボックは狼狽える。普段なら何も考えずとも体が動いて簡単に手すりを越えて戻ってこられるのに、ハボックはてすりの上に尻をひっかけたままモタモタしていた。もしかすると無意識に上官の命令に体が従っていたのかもしれない。ハボックが漸く手すりを越えて戻ってきた時、バンッともの凄い音を立てて屋上の扉が開いたのだった。


2010/05/07