chapter 24


 司令室を飛び出したロイは左右を見回してちょっと考えると、小隊の詰め所目指して走り出す。辞表を出すにしても、自分が預かった隊をハボックなら蔑(ないがし)ろにはしない筈だ。辞表を置いていったのがそんなに前でないならまだ詰め所にいるかもしれない。ハボックが辞めると言い出したらハボック親衛隊と陰で囁かれている小隊の部下達が黙っているとは思えず、そうであれば足止めされているかもしれないという期待を抱いて、ロイは詰め所の扉を勢いよく開けた。
「ハボック少尉はいるかっ?」
 大声と共に飛び込んできた上官に中にいた隊員達が目を丸くする。何事だと身構えたものの咄嗟に言葉を返せないでいる隊員達の間から、軍曹が顔を出して言った。
「マスタング大佐、ちょっとお伝えしたい事があるのですが」
 そう言う軍曹のただならぬ様子にロイは頷いて詰め所から出る。軍曹を連れて手近の会議室に入ると扉を閉めるのももどかしく言った。
「ハボックの事だな、何か言っていたか?」
「先ほど随分思い詰めた様子で詰め所に来たので二人だけで話をしたんですが、軍を辞めることにしたのであたしに隊を預けたいと言い出して」
「ッ、それで?!」
「勿論断りました。何があったのか判りませんが、問題が起きたのならその問題が解決するまでの間だけ隊を預かると伝えました。逃げるのは隊長らしくないとも」
「ハボックはなんと答えた?」
「何も。泣きそうな顔で詰め所を出ていきました」
 軍曹はそう言ってロイの顔をじっと見つめる。上下関係がなければ問い詰めてやりたいと書かれたその顔に、ロイは苦く笑って言った。
「心配するな、すぐ連れ戻して前言撤回させてやる」
「よろしくお願いします、マスタング大佐」
 言って敬礼する軍曹に頷いて、ロイは会議室を飛び出す。どこへ行ったと苛立たしげに辺りを見回すと建物の外へと出た。いつも自分がサボっては昼寝を決め込んでいる中庭を歩きながら苛々と言った。
「あのバカっ、どこに行ったんだ?」
 木の間や建物の陰を覗き込んで背の高い姿を探したが、ハボックは見つからなかった。
「クソッ」
 口汚く罵った時、頭上から目の前に落ちてきたものにギョッとして跳び退る。降ってきたのがハボックが常日頃咥えている煙草だと気づいて、ロイはハッとして上を見上げた。
「屋上か」
 そう思った瞬間怒声が口をついて出る。
「ハボーーックっっ!!貴様、そこから動くなッッ!!」
 屋上に向けてそう怒鳴ると、ロイは手近の扉から中に駆け込んだのだった。



2010/04/23