chapter 21


「ああ、疲れた」
 司令室の扉を開けるなりロイはわざとらしく大きな声で言う。だが、いつもならそんなロイを笑いながらたしなめる相手はいなかった。
「ハボックはどうした?」
 綺麗に片付けられた机を見てロイは言う。自席で書類を書いていたフュリーが答えた。
「僕が戻ってきた時にはいませんでしたよ」
「そうか」
 この時間、席を外すような用事や会議は入っていなかった筈だ。そもそも手を怪我してからのハボックは司令部に出てきてはいても殆ど開店休業のような状態だった。
 ロイは一つため息をつくと執務室に入る。ハボックの顔が見られなかった事で一層疲れが増したような気がしてドサリと椅子に腰を下ろしたロイは、机の上に置かれた封筒に気がついた。
「?なんだ?」
 ロイは手を伸ばして封筒を取ると中に入っている紙を引き出す。丁寧に畳まれたそれを開いたロイは、それがハボックの辞表だと気づいて目を見開いた。
「な…ッ?!どういうことだっ、これはッ?!」
 ガタンと音を立てて立ち上がると執務室を飛び出す。
「ハボックはどこだッ?!」
 物凄い剣幕で怒鳴るロイに司令室にいた部下達が驚いて凍りついた。誰も答えようとしない事に苛立ったロイが尚も大声を上げようとした時、丁度司令室に戻ってきたホークアイが異様な雰囲気に目を丸くしてロイを見た。
「どうかしたんですか?」
 そう尋ねるホークアイにロイは手にした紙を渡す。渡された紙に目を落としたホークアイはそれがハボックの辞表だと知って目を見開いた。
「大佐、これは…?!」
「何か聞いていないか、中尉」
 そう聞かれてホークアイはハボックがさっき自分に言った言葉を思い出した。
「そう言えばさっき私にお幸せにって………
お幸せに?どう言うことだ?」
「わかりません」
 呆然と首を振るホークアイにロイは顔を歪める。
「何を考えてるんだ、あの馬鹿ッ!!」
 漸くハボックへの想いと向き合い、それを伝える決心がついたのだ。それなのに今ここで手放す訳にはいかない。
「ハボックっ!!」
 ロイは消えてしまったハボックを追って司令室を飛び出していった。



2009/05/26