chapter 20


(辞表…
 書こうと思って見つめた右手はまだ包帯に覆われていて。そう言えば書類仕事は免除して貰っていたことを思い出して、ハボックは苦く笑った。それでも引き出しから用紙を取り出すとペンを握り締める。文字を書こうとして手のひらに走った引きつるような痛みに顔を歪めた。
「痛……」
 手のひらの痛みはそのまま胸の痛みと等しいようでハボックは唇を噛む。震える右手を左手で支えるようにして何とか書き終えると、きちんと畳んで封筒に収めた。痛みをおして書き終えたためだけでなく呼吸が乱れる。これを出せばもうロイと自分を繋ぐものは何もなくなってしまうのだと思うと体が震えた。一瞬覗いた躊躇いも、だがハボックはねじ伏せて立ち上がった。執務室の扉を開けると誰もいない部屋に入り、珍しくきちんと片付いた机の上に封筒を置く。立ち去る時間を引き延ばすように引き出しを開ければ、白い発火布が無造作に突っ込まれているのを見て苦笑した。
「ちゃんと持って歩けって言ってるのに」
 これからは自分はロイを護る事は出来ないのだ。ハボックは手を伸ばして発火布を取るとそっと口付ける。
「これからは大佐をしっかり護ってやってくれな」
 ロイの香りのするそれをギュッと握り締めると引き出しに戻す。愛しげに白い手袋に浮かぶ紋章を撫でると引き出しを閉め、ハボックは執務室を出た。
「あら、少尉。大佐はまだでしょう?」
 その途端かかった声にハボックは伏せていた目を上げる。ファイルを抱えたホークアイが視界に飛び込んできてハボックは僅かに目を見開いた。ふた呼吸ほど置いて無理矢理ホークアイに笑いかける。
「どうぞお幸せに、中尉」
「え?」
 ハボックの言葉に目を丸くするホークアイを置いてハボックは司令室を後にした。


2009/01/19