chapter 2


「大佐、車の用意出来てますけど」
 軽いノックの音と共に執務室に入ってきたハボックは、机の前に座るロイを見て眉を顰めた。背もたれに寄りかかったロイは目を閉じて気持ちよさそうに眠っている。
「またこの人は…」
 時間になっても出てこないロイをまさかと思ってきて見れば、案の定昼寝の真っ最中だ。それでもどこかに逃げ込んでないだけマシと言うものかもしれないが。ハボックは午後の柔らかい陽射しの中でまどろむ人を見つめて考える。その気になればあっという間に処理できるくせに、どうしてこう事務仕事を溜め込みたがるのだろう。山積みの書類に埋もれるのが趣味だとか、いい加減キレた中尉の射撃の的になるのが楽しみだとか、そんな風に考えているとしか思えない。ハボックはため息をつくとロイに近づき声をかけようと口を開いた。
 と、その途端。
「うわっ」
 伸びてきた腕にグイと引っ張られてハボックは座るロイの胸に飛び込んでしまう。まわされた腕に抱きこまれて髪の毛をわしわしとかき回された。
「ちょ…っ、たいさっ?!」
 ビックリしてもがくハボックの体を抱きかかえて、ロイはその金色の髪の毛をかき回した。
「やっぱり近所の犬と似ているな」
「はあっ?何言ってるんスかっ、アンタっ!」
 なんとか逃れようともがくハボックにロイは楽しそうに言う。
「なあ、どうせだからもう少し髪を伸ばさないか、そうしたらますます隣の家の犬とそっくりなんだが」
「オレは犬じゃありませんよっ」
 ロイの胸元でそう怒鳴るハボックをロイはくすりと笑って見るとその顎を掴んでグイと持ち上げた。
「少尉は眉毛も睫も金色なんだな」
「なっ…ちょっ…」
 間近から端正な顔に覗き込まれてハボックの顔がみるみるうちに紅く染まる。
「隣の犬は睫は黒いぞ」
「だからオレは犬じゃありませんってばっ!」
 ハボックは必死の思いでロイの腕から逃れると息を荒げてロイを見下ろした。
「バカなことやってないでさっさと支度して下さいっ!」
 先に車で待ってます、と叫ぶと執務室から逃げ出すハボックをロイは見送ってハボックに触れた手の平を見下ろす。
「なかなかイイ抱き心地だったな」
そう言ってにんまりと笑うと次はどうしようかなどと不穏な考えをめぐらせるのだった。


2007/2/20