chapter 17


「悪かったね、無理やり引き止めて」
 ロイはリビングのソファーに座ったホークアイにコーヒーのカップを差し出しながら言う。ホークアイはカップを受け取ると小さく笑って言った。
「いいえ、特に用事があるわけではありませんから」
 ホークアイはそう言うと向かいに腰を下ろしたロイを見つめる。
「それに何か相談なさりたいことがおありなのでしょう?相談というより背中を押して欲しいということでしょうか」
 そう言って微笑むホークアイにロイは苦笑した。
「君には敵わないな」
「だってもう、決めておしまいなのでしょう?ただ踏み出す勇気がほんの少し足りないだけ」
 コーヒーの香りを楽しむようにゆっくりと口をつけるとホークアイは言う。そんなホークアイを見つめながらロイはゆっくりと口を開いた。
「もう、限界なんだ」
 ロイはそう言ってコーヒーの琥珀色の液体に目を落とす。
「このまま黙って側にいるのも、そうかと言って手放してしまうことも出来ない」
「だったら、どうしたいんです?」
 そう聞き返されてロイは一瞬ためらった後答えた。
「伝えたい、アイツに。私が何を考えているかを」
「そう決めてらっしゃるなら迷うことなどないじゃありませんか」
「でも私が何を考えているか知れば、アイツは私の側にいたいとは思わないだろう」
 そう言ってカップを握り締めるロイをホークアイはまっすぐに見つめる。手にしたカップをテーブルに置くとロイに向かって言った。
「らしくありませんね、ロイ・マスタング。私が知っている貴方はそんな些細なことなど気にしない、一度こうと決めたら迷うことなく突き進む人だと思っていましたが。欲しいものを指を咥えて見ているだけなんて、そんなのロイ・マスタングではありません」
 まっすぐに見つめてくる鳶色の瞳を目を見開いて見返していたロイの唇からくすりと笑いが零れる。くすくすと笑っていたロイはどさりとソファーの背に体を預けると言った。
「まったく君には敵わないよ、中尉」
「少しはお役に立てましたでしょうか?」
 笑って言うホークアイにロイは頷く。
「ありがとう、中尉。もう、迷うのはやめる」
 そう言うロイにホークアイは立ち上がった。
「では私は失礼します」
 そう言って玄関まで行くとホークアイは見送る為ついてきていたロイを見て言う。
「ああ、でも一つだけ」
 何だと視線で問うロイにホークアイが言った。
「職場で押し倒すのはダメですから。告白は仕事に障りのないところでなさってください」
 その言葉に目を丸くするロイに敬礼するとホークアイは出て行ってしまう。暫くの間突っ立ったまま扉を見つめていたロイは、やがて肩を震わせて笑い出した。
「まったく敵わないよ、中尉」
 そう言ってひとしきり笑った後、ロイの表情からは悩みや憂いが抜け落ちて晴れ晴れとしていたのだった。


2008/1/4